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31 女神の娘


「なるほど。それでこの辺りにいるっつー風の女神に会いに来たわけだ」



 はむっ、とオフィールが骨つきの肉を豪快に頬張る。


 とりあえず彼女の信頼を得るため、俺たちは食事をともにしつつ旅の目的を語ることにしたのである。



「ああ。だからもし何か彼女に関する情報を知ってるなら教えて欲しいんだ」



 そう何気なしに聞いただけなのだが、オフィールの反応は意外なものだった。



「はっ、やめとけやめとけ。あのババアは大の人間嫌いだ。力なんか貸すわけねえだろ」



「え、もしかしてトゥルボーさまを知ってるのか?」



「当然だろ? 何せ――あたしはあのババアに育てられたんだからな」



「「「――っ!?」」」



 まさかの発言に、俺たちは揃って目を丸くする。


 よもや女神に育てられた人間がいたとは……。


 しかもそれが聖女とか、そりゃ自信にも満ち溢れるわな。


 恐らくはほかの聖女たちよりも突出した力を持っているのではなかろうか。


 アルカが負けるとは思ってもいないが、ぶつからなくてよかったと本当に思う。



「だからこそ忠告してやってんだ。あのババアに会うのは絶対にやめておけ。あいつはもう人間を見限ってやがるからな」



「それは、どういう意味でしょうか?」



 マグメルの問いに、オフィールはどこか納得のいかなそうな顔で視線を逸らした。



「そのままの意味に決まってんだろ? 人間は傲慢で自己中な上、平気で他人の幸せを踏み躙りやがる。こいつらを見てみろ。皆奴隷商どもに売られてきた可哀想なガキどもだ。あのババア……いや、風の女神トゥルボーはな、そんな人間どもに心底嫌気が差しちまったんだよ」



「「「……」」」



 楽しそうに食事を摂っている子どもたちの様子を見やり、俺たちは言葉を失う。


 どうやらここでは皆が協力し合って一つの家族のような感じになっているようだった。


 あんなに嬉しそうなのだ。


 きっとここでの生活はとても幸せなものなのだろう。



「あたしがなんであの町をぶっ潰そうとしてるか教えてやるよ。それはな、そうしねえとトゥルボーのやつに跡形もなく消されちまうからだ」



「跡形もなく消されるって……」



 つまりオフィールは町を守るために行動していたということだろうか。


 でも〝消されないようにぶっ潰す〟とは一体……。


 どういう意味なのかと俺が眉根を寄せる中、オフィールは続ける。



「あのババアはとっくの昔にアフラールを消す気だった。けれどあたしは反対した。当然だろ? 確かにクソみてえな連中は山ほどいる。けどな、こいつらみてえになんの罪もねえやつらだってあそこにはたくさんいるんだ」



「それは……」



 確かにそのとおりだと思う。


 むしろ善人の方が多いのだと、俺は信じたい。



「そしたらあのババアは条件を出しやがった。もしあたしがアフラールの連中をなんとかすることが出来たなら、あそこを塵にするのはやめてやるとな」



「そうか。だから君は人々の意識がなんとか変わるよう、まずは奴隷商を襲いまくっていたんだな?」



「そういうこった。やつらは表向き普通の商人のように振る舞っちゃいるが、裏では攫ってきたガキや女をまるで物のように売り飛ばしてやがる。だからどっちの商売も出来ねえようにしてやってるってわけさ」



 なるほど。


 ほかの住民に配ってるっていう盗んだ食べものとかも、元々は奴隷商が隠れ蓑に使うための物品だったってわけか。



「しかしそれで本当に民たちの意識は変わっているのか? 確かに私たちの聞く限りでは評判もまちまちだったが」



「さあな。それはあたしにも分からねえ。だが言って素直に聞くような連中じゃねえだろ? だったら力尽くでなんとかするしかねえじゃねえか」



「うーん……」



「これは困りましたね……」



 マグメルともども顔色を曇らせる。


 確かにこのままオフィールが暴れ続ければ、いつかは奴隷商たちも商売をすることはなくなるだろう。


 だがそれは〝アフラールでは〟というだけの話だ。


 当然、彼らはまた別の町で同じようなことをするに違いない。


 つまり根本的な解決にはならないのである。


 とはいえ、恐らくこういう問題は世界中で起こっている気もするし、全てを今すぐどうにかすることは不可能だろう。


 となれば、まずはアフラールの奴隷商たちをなんとかするしかあるまい。


 そうして少しずつほかの町の意識も変えていき、最終的に〝奴隷〟という存在自体をなくしていくしかないんだと思う。


 とても時間のかかる作業だけど、ここで彼らを排斥するだけじゃなんの解決にもならないからな。


 でもそうなると……。



「やっぱり会いに行くしかないみたいだな――その人間嫌いの女神さまに」



「そうだな。とにもかくにもまずはそこから始めねば話にならん」



「はっ、あたしは一応忠告したからな? ぶっ殺されても知らねえぞ?」



「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとな、オフィール」



「だ、誰も心配なんてしてねえよ!? 勘違いすんな、このハゲ!?」



 ぷいっとばつが悪そうにそっぽを向くオフィールに、やっぱり意外と素直で可愛らしい人なのではと顔を綻ばせる俺なのであった。


 でも正直〝ハゲ〟は酷いと思いました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 火口に落ちたし燃えたんじゃね?多分ハゲてるよ
[一言] まあでも、人間悪い奴らだけじゃねえんだけどな……
[一言] 女神様は偏屈か まあ 理由が理由だけど
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