25 初夜明けはやっぱり波乱でした
翌朝。
俺はカーテンの隙間から差し込んでくる朝日に目を眇めつつ、実にすっきりとした気持ちで起床を迎えようとしていたのだが、
「――おはようございます、イグザさま」
「ああ、おはよう……って、うおおっ!? マグメル!?」
突如マグメルに声をかけられ、びくりとショックを受ける。
だが真にショックを受けていたのは彼女の方だったらしく、マグメルは額に青筋を浮かべながら、目の笑っていない笑顔で言った。
「それで、昨日は随分とお楽しみだったご様子ですね?」
「え、いや、これはその……」
何か言わなければいけないのは分かっているのだが、この状況では何を言ったところでやぶ蛇にしかならないだろう。
だって未だに俺たちは全裸の上、アルカが胸元に抱きついてる状態だしね……。
完全に事後の有り様です、はい。
「なるほど。わざわざ英雄の権利を放棄してまで休養を申し出たのは、このためだったということですか」
「い、いや、違うんだ。あれは本当に二人の方が称賛されるに値すると思ったからであって、別にこのために言ったわけじゃ……」
「でもしましたよね? それも朝までがっつりと」
「そ、それはまあ……はい。致させていただきました……」
すっと視線を逸らす俺に、マグメルがじとーっと顔を近づけてくる。
き、気まずい……。
そしてお顔が近い……。
「ふーん、そうですか。まあアルカディアさまはイグザさまの信頼をもっとも得ている正妻さまですし、確かにその権利もおありでしょう。個人的にはあまり認めたくはないのですが」
「あ、あはは……」
マグメルの視線に耐えかね、俺が空笑いを浮かべていると、彼女はアルカを冷たく見下ろして言った。
「それで、いつまで寝たふりをなさっているのですか? その正妻さまは」
「なんだ、バレていたのか」
「!」
あ、本当に起きてたんだ。
「当然です。仮にも聖女のあなたが私の気配に気づかぬはずがないでしょう?」
「ふふ、そうだな。だがさすがに私も今は疲労困憊でな。出来ればそっとしておいてもらえると助かる」
「へえ、そんなに激しく愛してくださったのですね、イグザさまは」
「うっ!?」
ぎろり、とマグメルに睨まれ、俺は堪らず萎縮する。
べ、別にそんな激しかったわけでは……。
ただほら、俺基本的に体力とか精力が無尽蔵なので、その点で言えば些かの激しさも致し方ないと言いますかなんと言いますか……ねえ?
「ああ、とても凄かったぞ。まさか自分が女であることを再認するとは思わなかったからな」
そう蠱惑的に笑うアルカに、マグメルの青筋がびきびきと音を立てる。
「うふふ、そうでしたか。ではもう十分でしょう。次は妾である私の番ですので、どうぞアルカディアさまはそこで死ぬまで寝ていてくださいませ」
ぐいっ、とマグメルが俺の腕を引いてくる。
「ちょ、ちょっとマグメル!?」
そして強制的に俺を連れ出そうとするマグメルだが、当然、正妻の方がそれを許すはずがなかった。
「おやおや、最近の妾は随分と強引だな」
――ぐぐいっ。
「あ、あの、ち、ちぎれちゃう!? ちぎれちゃうから!?」
そんな俺の直訴もむなしく、乙女たちの感情は互いにヒートアップしていく。
「大体、やり方が小ずるいんです! 私の手が離せない時にイグザさまを誘惑するだなんて!」
「だがそれを受け入れたのはほかでもないイグザ本人だ! お前も言っていただろう!? こいつはいざという時には男らしくなれる者だと!」
「だったら私に対しても男らしくなってくださったっていいじゃないですか!? あなたはもう十分に堪能したんですから!?」
「いいや、まだまだだ! 確かに足腰が立たんほどには堪能したが、だからこそ絶対に放すわけにはいかん! イグザは私の男なのだぁ~!」
「ちょ、何をいきなり子どもみたいにごねてるんですか!? キャラが崩壊していますよ!?」
マグメルの突っ込みに、アルカは顔を赤らめ、恥ずかしそうに目線を逸らして言った。
「だ、だって仕方ないだろう? その、抱かれたら余計好きになっちゃったんだから……」
あ、可愛い……。
――じろっ。
「ひいっ!?」
「何を普通に見惚れちゃってるんですか? イグザさま」
「い、いや、なんか可愛いなぁと思って……あはは」
「ふーん、そうですか。とにかく! 今夜は私の番ですので、アルカディアさま以上にがっつりよろしくお願いしますね? 分かりましたか?」
「は、はい……」
語気強めに念押ししてくるマグメルに、俺はこれから大変なことになりそうだと一人冷や汗を流し続けていたのだった。




