《追章》その35:それぞれの幸せな家庭
「ねえ、イグザさま」
「うん?」
ある日のことだ。
ふとマグメルが俺たちの娘――〝エスティー〟にお乳をやりながら言った。
「私、今とても幸せです。こうして可愛い我が子を抱くことが出来て、愛するイグザさまと添い遂げることが出来て本当に幸せです」
「ああ、俺もマグメルと同じ気持ちだよ」
「嬉しい……。これからも親子三人……いえ、もっと増えるかもしれませんが、幸せな家庭を築いていきましょうね、イグザさま」
「ああ、そうだな」
ふふっと互いに微笑み合い、俺たちは愛娘へと優しい視線を向ける。
しばらくそうしていた俺たちだったのだが、
「――はい、そこまで。次は私の番ね。お疲れさま」
ぱんっと手を叩きながらザナが間に入ってきて、マグメルが抗議の声を上げる。
「ちょっ!? まだ私の番が終わっていないのですが!?」
「あら、それはごめんなさいね。でも赤ちゃんの方はもうおねむみたいだし、あまり騒がない方がいいんじゃないかしら?」
「いや、誰のせいだと思ってるんですか!?」
そう声量抑え気味に眉根を寄せるマグメルだったが、エスティーがおねむなのは事実なため、「……まったく」と嘆息しながらベッドへと向かっていく。
すると、入れ替わるようにザナが俺に身を寄せて言った。
「じゃあ次は私の番ね。とりあえずベッドシーンから始めましょうか」
「えっ!?」
そう言って俺を寝室に連れていこうとするザナに、当然ほかの女子たちから〝待った〟がかかる。
「お前は一体何をしようとしているんだ……」
「同感。正直、そのシーンはいらないと思う」
「だから言ったじゃねえか。こいつに番回すんじゃねえって。つーか、こいつまだガキ出来てねえだろ?」
「仕方がないでしょう? この子、自分も参加させろって聞かないんだから」
「なんでもいいけど、これ皆の前でやらなきゃダメなわけ……?」
わちゃわちゃといつも通りのやり取りを始める女子たちに嘆息しつつ、俺は何故こんなことになったのかを改めて思い出す。
事の発端はアルカの〝もし妾がいなかったらどんな感じの結婚生活(子どもがいる生活)になっていたのか?〟という疑問だった。
それに関しては皆も興味があったようで、ならばちょっと試してみようかということになったのである。
そうして一人ずつ自分だったらこんな家庭になっていた的なシーンを演出していたわけだが、確かにザナとはまだ子どもが出来てはいないからな。
〝作るところから始める〟というのはまんざら間違ってはいないんだけど……。
「あら、何もおかしいことはないでしょう? 赤ちゃんというのは二人の愛の結晶なわけだし、まずは愛し合わないと始まらないわ」
「だからって本気で実践しようとするやつがあるか。お前はただイグザを独占したいだけだろうが」
「そうね、否定はしないわ。だって私は何より彼に愛されていたいだけなのだから」
そう言ってさらに身を寄せてくるザナに、オフィールが肩を竦めて言った。
「ったく相変わらず女がつえーっつーかなんつーか……。まあお姫さまらしいんだけどよ……」
はあ……、と嘆息するオフィールだったが、そんな彼女に「ところで前から思っていたのだけれど……」とザナがその服装を見やって言った。
「あなた、絶望的なまでにマタニティ服が似合ってないわね……」
「うるせえよ!? つーか、しょうがねえだろ!? 〝腹冷やすな〟ってババアが無理矢理着せてくんだからよ!?」
真っ赤な顔で声を張り上げるオフィールが着ていたのは、花柄の可愛らしいマタニティ服だった。
俺は可愛いと思うのだが、どうやら本人は恥ずかしいらしい。
でもなんだかんだ言いつつちゃんと着ているのが彼女のいいところだと俺は思う。
トゥルボーさまの贈り物だから無下に出来ないんだろうしな。
「おい、あんたもにやにやしてんじゃねえよ!? あたしがこれ着てんのがそんなにおかしいかよ!?」
「いや、オフィールは可愛いなと思ってさ」
「お、おう、そうか……。ま、まあ、あんたがいいならいいか……」
どこか嬉しそうに髪の毛をくるくるするオフィールに、エルマが半眼を向けて言ったのだった。
「いや、なんでもいいんだけど、後ろすんごい詰まってるから早く次の人始めてもらえないかしら……? イグニフェルさまとかさっきから全裸待機なんですけど……」
「はっはっはっ、まあ我は腹が冷えんから大丈夫だぞ」
「いや、そういう問題じゃないです」




