《追章》その33:新しい命
そうしてその時はやってきた。
「く、うぅ……っ」
「よし、いきめ! そうじゃそうじゃ! ほれ、出てきたぞい!」
「おぎゃあああああああああああああああああああっ!?」
『!』
そう、アルカが出産したのである。
「うむ、元気な男の子じゃ。おぬしの予想通りじゃったのう」
ナザリィさんが取り上げた赤ちゃんをアルカに抱かせる。
するとアルカは「ああ……」と双眸に涙を浮かべて言った。
「そうか……。お前が私たちの……。うん……すまない……。その、言葉が……」
「ああ、わかってる……。よく頑張ったな、アルカ……。そしてナザリィさんも本当にありがとうございました……」
気を抜くと涙が溢れそうになる中、俺はそれをなんとか堪えながら精一杯の感謝の意をナザリィさんに告げる。
彼女はこの日のために色々な助産術を、しかも独自で調べてくれていたからだ。
だがそんな俺に、ナザリィさんは嘆息して言った。
「あのな、こういう時は感情に任せて喜ぶのが一番よいのじゃぞ? 泣きたいのなら大いに泣け。そしてその感動をいつまでも忘れるでない。今日からおぬしはこの子の〝親〟なのじゃからな」
「そう、ですね……。じゃあすみませんけど……ぐすっ……」
声を上げて泣くなんていつ以来だろうか。
ナザリィさんにそう言われた直後、俺はアルカともども大泣きしてしまったのだった。
◇
その後、産後の処置などを終え、落ち着いた室内ではアルカが生まれてきた子ども――〝アグニ〟に母乳を与えており、その様子を皆がにんまりしながら見つめていたのだが、
『ちょっ!? 何故私だけ部屋の外なのですかぁ~!?』
『そりゃあんたの視線がいやらしそうだからに決まってるでしょ? はいはい、邪魔になるからさっさと行くわよ』
『そ、そんなぁ~!?』
というように、視線がいやらしそうという理由でポルコさんがエルマに強制連行されていった。
まああの人の場合、赤ちゃんよりおっぱいの方を見てそうだからな。
正直、ありがたい配慮である。
と。
「ふむ、どうやら満足したらしい。それにしてもよく乳を飲む子だ」
よしよしとアグニをあやしているアルカに、マグメルがうずうずしながら言った。
「あ、あの、私も抱かせていただいてよろしいでしょうか?」
「お、ずりいぞ、おめえ。あたしだって我慢してたのによぉ」
「うん、わたしもよしよししたい」
「ああ、もちろんだ。順に抱いてやってくれ」
頷くアルカからゆっくりとアグニを手渡されたマグメルは、優しく彼を抱きながら「はあ~……」と感激したように声を漏らした。
「可愛い……。ああ、どうしましょう……。この子を見ているとなんだか私……」
すっと胸元に手をかけようとするマグメル。
「おいおい、勝手に乳やろうとしてんじゃねえよ!?」
「――はっ!? も、申し訳ございません……。つい母性が……」
恥ずかしそうに顔を紅潮させるマグメルからオフィールがアグニを受け取る。
「ったくしょうがねえやつだな。ほれほれ~……って、お、なんだ? また腹が減ってきたのか?」
ちゅぱちゅぱとオフィールの人差し指をおしゃぶりするアグニに、彼女は嬉しそうに笑って言った。
「そうそうか、じゃあしょうがねえな。ちょっと待ってろ。今あたしが乳をくれてやっからよ」
よいせ、とおっぱいを持ってこようとするオフィールに、当然マグメルから突っ込みが入る。
「いや、あなたも同じことしようとしてるじゃないですか!? というか、〝よいせ〟じゃないですよ、〝よいせ〟じゃ!?」
「わ、わりいわりい。なんかあたしの母性っつーか、他人のガキみてえな気がしなくてよぉ」
あはは、と空笑いを浮かべるオフィールだったが、その後ティルナをはじめとしたほかの女子たちも皆アグニを抱いた瞬間、おっぱいをあげたくなってしまったようで、やっぱり母性って凄いなぁと改めて感心してしまった俺なのであった。
ちなみにフィーニスさまにいたっては「可愛い子……。私の子……」とアグニを連れてどっか行こうとしたので、慌てて皆で止めました。




