23 だったら俺が浄化してやる!
あれだけ大規模な一撃だ。
いくら神とはいえ、恐らく次の攻撃までは多少の時間がかかるだろう。
そう考えた俺たちの作戦は見事に功を奏した。
――どがあああああああああああああああああああああああああんっっ!!
「今だ!」
今一度大穴の直上を飛行して攻撃を誘発した後、一気に最深部へと突貫――そして俺たちは邂逅した。
「これが、ジボガミさま……っ!?」
「――ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
身体中から絶えずどす黒い泥のようなものを垂れ流しながら暴れている、恐らくは人の女性を模したであろう様相の存在と。
いや、むしろ俺たち人間の方が彼女の姿を元に作られたのかもしれない。
たとえ頭部を含めた全身のほとんどがただれ、口以外の機能と両腕を失っていたとしても、だ。
「な、なんだこれは……っ!? これが大地の汚れを浄化するという生命の神の姿だとでもいうのか……っ!?」
「正直、予想外でした……。まさかこれほどの汚れを生む存在へと成り変わっていたとは……」
当然、アルカたちも驚きを隠せないようだ。
元はきっとこんな姿ではなかったのだろう。
浄化と生命の神さまというくらいだ。
たぶんとても美しい神さまだったんだと思う。
でも恐らくは大地に汚れが溜まりすぎたのだ。
それによって浄化した汚れから新たな生命を生むはずだったジボガミさまは、汚れから新たな生命を生むようになってしまった。
浄化が追いつかず、汚れに呑み込まれてしまったのだ。
「あそこを見てください! 泥から次々に魔物が生まれています!」
「くっ、早くジボガミさまをなんとかしないと、いずれは世界中が魔物で溢れることになるぞ!」
「分かってる! だから二人は少しでも魔物が外に出ないよう防いでくれ! もちろんやばいと思ったらすぐに撤退するように! ジボガミさまは――俺がなんとかする!」
「分かった!」「分かりました!」
二人が頷いたことを確認した俺は、彼女らを近くの岩場に下ろし、一人ジボガミさまのもとへと向かっていったのだった。
◇
「こんのおおおおおおおおおおおおおっ!」
ずがんっ! と下からやつの顎を大剣で斬り上げる。
硬くて刃が通らなかったが、それでも十分だ。
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
――どがあああああああああああああああああああああああああんっっ!!
次の瞬間、ジボガミさまの口から目映い光の奔流が真上へと飛んでいった。
まったく危ないったらありゃしない。
怒りに我を忘れているのか、ジボガミさまは完全に見境がなくなっていた。
もしあれを横の壁にでもぶっ放していたら、ジボガミさまはおろか、俺たち全員が生き埋めになるところである。
早いところケリをつけなければ。
「おらあっ!」
――がきんっ!
「ギゲエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
だがどうすればいい。
ジボガミさまは大地の神。
汚れを浄化して生命を育む役割を担っている。
それを倒すということは、汚れが浄化されずに溢れ続けるということにほかならない。
フレイルさまの言うとおり、大地も痩せ細り続け、いずれは死に絶えることになるだろう。
つまり――〝倒してはいけない〟のだ。
「だったら!」
俺は覚悟を決め、ジボガミさまへと突撃する。
当然、やつは大口を開け、俺を噛み殺そうとしてくるのだが、
「そのまま行けえええええええええええええええええええっっ!!」
――ごごうっ!
「ギギャガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」
俺は炎を纏い、強引にジボガミさまの体内へと侵入したのだった。
◇
そこは不思議な場所だった。
てっきり前に食われた竜種のように、消化器というか生物感が溢れている場所だと思っていたからだ。
だがまったく違った。
ただ真っ暗で広大な空間が続いていたのである。
「う、うぅ……」
「!」
外の振動も何も聞こえない静寂の中、ふいに聞こえた女性の声を頼りに、俺は歩みを進めていく。
すると、やがて全身を泥のようなもので拘束された一人の女性を発見した。
見た目20代半ばくらいの美しい女性である。
ちなみに、衣服は何も身につけてはいない。
泥は女性の足元から伸びているらしく、まるで彼女を磔にしているようだった。
恐らくは彼女がジボガミさまの本体であろう。
「あな、たは……?」
どうやらまだかろうじて意識があったらしい。
弱々しくだが、彼女は俺を見やって言った。
「俺の名はイグザ。あなたを助けに来ました」
「それは無理、です……。私はもう、汚れきって、しまった……」
「大丈夫。俺があなたを癒やします」
ぶしゅうっ、と彼女に触れた瞬間、汚れの影響か、俺の皮膚が焼けただれる。
だが今まで彼女が受けてきた痛みに比べれば、このくらいなんともない。
「やめて、ください……。このままでは、あなたが……」
悲痛そうな顔をするジボガミさまを安心させるため、俺はにこりと歯を見せて笑った。
「大丈夫です。だって俺は――〝不死身の男〟ですから」
――ぶしゅう~っ。
そうして俺は彼女のか細い身体を抱き締める。
今こそ俺の力の見せどころだ。
触れた相手の傷を癒やし、体力すら回復させるスザクフォームの力。
無限に回復させることが出来るのであれば、汚れを癒やし浄化させることだって出来るはずだ。
――いいだろう、全部俺が引き受けてやる。
ジボガミさまを呑み込んだ全ての汚れも、今まさに溢れ出しつつある新たな汚れも、全部まとめて俺が癒やしきってやる!
「かかってこいやああああああああああああああああああああっっ!!」
その瞬間、俺たちを目映い輝きが包み込んだのだった。




