《追章》その4:誰も料理出来ないとはこれ如何に2
というわけで、とりあえず簡単な料理だけでも覚えたいという女子たちの意向もあり、俺は彼女たちとともにトゥルボーさまのいる風の神殿を訪れていた。
一応まだ復興のお手伝い中ではあるのだが、ここ最近はずっと働き詰めだったし、たまには気分転換もした方がいいからな。
適当に楽しんでもらえたらと思っている。
そしてあわよくば何か振る舞ってもらえたら言うことはないのだが……まあそれは追々ということで。
「なるほど。それで我に教えを請うべく足を運んだというわけか」
神妙に腕を組み、トゥルボーさまがふむふむと頷く。
相変わらず彼女の周りには楽しそうにはしゃぐ子どもたちの姿があり、ここでの生活を満喫しているようだった。
「今一度確認するが、本当に我以外何も出来ぬのだな?」
「いや、なんも出来ねえってことはねえんだけどよ。話を聞いた感じじゃまあそうだな。せいぜい焼くとか煮るくらいじゃねえのか? つーか、あたしもそれしか出来ねえし」
「そうか」
一言そう静かに頷いた後、トゥルボーさまはアルカの肩にぽんっと手を置いて言った。
「では今日から貴様が3番だ、〝槍〟の聖女。今までご苦労だったな」
「――なっ!?」
当然、どういうことかとアルカが異議を唱える。
「ちょ、ちょっと待て、女神トゥルボー!? い、いきなり何を言っている!?」
「ふむ、どうやらはっきりと告げねばわからぬようだな。貴様は現時点を以て正妻の座を我に奪われたということだ。以降は数多いる妾の一人としてとく精進するがよい」
「なん、だと……っ!?」
驚愕の表情で固まるアルカに、トゥルボーさまは再度腕を組んで言った。
「当然だろう? 聞けば、貴様は料理のみならず家事の一つも満足に出来ぬというではないか。そのような者が正妻足ろうはずがない。正妻とは心技体――その全てが揃いし者のことをいう。決して出会いの早さで決まるものではないのだ」
「ぐっ……」
アルカが悔しそうに唇を噛み締める。
なんでもいいけど、正妻ってそんな武人みたいな感じだったっけ……、と俺が一人黄昏れたような顔になる中、トゥルボーさまは続ける。
「ゆえに今の貴様に正妻を名乗る資格はない。悔しければ我を超える技量を身につけることだな。それまで正妻の座はこの我が預かっておいてやる」
「くっ、いいだろう……っ。ならば早々にあなたを打ち倒し、再び正妻の座をこの手に掴んでみせる!」
ずびっと力強くトゥルボーさまを指差し、アルカがそう高らかに宣言する。
すると、ほかの女子たちも次々に声を上げ始めた。
「ふふ、ご冗談を。最初に彼女を超えてみせるのはこの私です」
「はっ、そりゃこっちの台詞だぜ。せいぜいあたしとの格の違いを見せつけてやらあ」
「言っておくけど、私知識だけはあなたたちの誰よりもあるつもりだから。甘く見ていると後悔するわよ?」
「ところで正妻の心技体って何?」
「いや、あたしに聞かれても知らないわよ……。てか、なんなのよこのノリ……」
「詳しくはわかりませんが、家事を極めることが出来ればイグザさまに最も愛していただけるのですね? であればこのカヤ、全身全霊で学ばせていただきます」
「あらあら、若いっていいわね。まあ私も全然若いのだけれど」
「それで何から始めるの……? やっぱり料理……?」
小首を傾げるフィーニスさまの問いに、トゥルボーさまは大きく頷いて言った。
「ああ、当然だ。〝胃を掴む者こそが全てを掴む〟とこの豚の者が所持していた書物にも記されていたからな。というわけで、早速始めるぞ。まずは我が手本を見せてやる」
そう言った後、トゥルボーさまはくわっと両目を見開いて吼えた。
「出でよ、風の精霊!」
――ぶひゅうっ!
その瞬間、渦巻いた風の中から手のひらサイズの可愛らしいぬいぐるみ……ではなく精霊さん(なんかシェフっぽい帽子を被ってる)が姿を現す。
そして彼女はその精霊さんにこう指示を出した。
「簡単なやつで構わん。とりあえず大至急だ」
「ムー!」
トゥルボーさまの言葉にしゅばっと手を挙げて返事をした精霊さんは、そのままどこかへと飛んでいく。
ややあって戻ってきた精霊さんの手には、お皿に盛りつけられた肉料理が載っていた。
「ふふ、どうだ?」
『……』
どや顔で胸を張るトゥルボーさまに、当然のことながら言葉を失う俺たち。
そんな俺たちの反応に至極満足したらしいトゥルボーさまは、くいっと顎でこちらを指して言った。
「よし、では始めろ」
「いや、〝始めろ〟じゃねえよ!? つーか、あんた料理作ってねえじゃねえか!?」
「何を言っている? 今作って見せただろう? なあ?」
「ムー!」
「〝ムー!〟じゃねえよ!? てか、おめえ見たことあんぞ!? なんかよく神殿ん中で意味もなく風を起こしていたやつだよな!?」
「ああ、それはこれだな」
ぱちんっ、とトゥルボーさまが指を鳴らすと、別の精霊さんたちがぽんっと現れ、各々風で埃などを飛ばしていった。
要は〝掃除〟である。
恐らくは洗濯も似たような感じで精霊さんたちが頑張ってくれるのだろう。
なんというか、実に神さまらしい家事であった。
「うおお~……。じゃああたしが今までおふくろの味だと思ってたのは、そのぬいぐるみの料理ってことかよぉ~……」
だがオフィールにとっては大層ショックな事実だったらしく、ずーんっと一人頭を抱えていたのだった。
「ムー」
「え、食べていいの? ……美味っ!?」
何これ美味っ!?
ちょっとこの精霊さんうちで雇おうかしら……。




