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《閑話》待機組サイド2:巫女神楽


 その頃。



『うわああああああああああああああああああああああああああああっっ!?』



 マグリドの町には人々の悲鳴が響き渡っていた。


 というのも、突如町を呑み込むかのようにどろりと黒い泥のようなものがどこからともなく迫ってきたのである。



 ――ぶしゅ~っ!



 当然、泥はイグザの張ったドーム状の結界術に阻まれ、町の中まで入ってくることはなかったのだが、あまりにも大量の泥が押し寄せたことで結界術自体がすっぽりと覆われてしまい、人々は暗闇の中に閉じ込められてしまっていた。



「イグザさま……」



 一体何が起こっているのか。


 皆と復興作業にあたっていたカヤは、心配そうに暗がりの空を見上げる。



 ――じゅ~。



 そこでは白銀の結界術が絶えず泥を焼き続けていたのだが、心なしかその勢いが先ほどよりも弱くなっている気がした。


 と。



 ――べきっ!



『――っ!?』



 ふいに何かに亀裂が入ったような音が聞こえ、人々の顔から血の気が引く。


 見れば、天を覆う結界術のところどころにヒビのようなものが入っており、今にも砕けてしまいそうだった。


 このままではいずれ結界術が破られ、あの嫌な気配の泥が町中に押し寄せてくることになるだろう。


 あれがただの泥であれば然したる問題もないのだが、ただの泥程度で浄化の力で形成された結界術をああも綻ばせられるはずがない。


 となれば、恐らくはあれこそが以前聞いた〝汚れ〟というものに違いない。


 それも高濃度の、だ。


 そんなものに呑まれたら最後、フェニックスシールを持つカヤ以外の人たちは皆無事では済まないだろう。



「……っ!?」



 いや、かく言うカヤですらも……。



「……どうしたのじゃ? どこか具合でも悪いのか?」



 愕然と下腹部に手を添えるカヤのことが気になったのだろう。


 彼女の祖父であり、マグリドの町長でもある男性が心配そうに声をかけてくる。



「いえ、違うんです……」



「?」



 そんな彼にカヤは首を横に振り、声を震わせながら言った。



「先ほどまで感じられていたイグザさまの温もりが、あの方の温かさがどんどん薄れていっているんです……」



「そ、それは一体どういうことじゃ? ま、まさか救世主さまの御身に何かあったのか!?」



「分かりません……。ですがこのままではあの方と……いえ、あの方だけではなく、戦場に赴かれた皆さまと二度と会えなくなってしまう気がするんです……」



 ぎゅっと不安げに自身の身体を抱くカヤに、男性はゆっくりと結界術を見上げて言った。



「……確かに救世主さまの張られた結界術にも〝綻び〟が見え始めておる。よほど強大な敵を相手にしておられるのじゃろう……。であればあながちお前の言うことも間違ってはおらぬのやもしれんな……」



「そんな……。私に、何か出来ることはないのでしょうか……?」



「それは儂にも分からぬ……。何かお力になれるようなことがあればよいのじゃが、今の儂らに出来ることなど、もはや祈ることくらいしか……」



「祈る……」



 反芻するように呟くカヤだが、その時ふと彼女の脳裏にある言葉が思い浮かび、こぼすようにそれを口にする。



「……巫女、神楽……」



「……なんじゃと?」



「〝巫女神楽〟です、おじいさま! 私は以前お母さまから聞いたことがあります! 今はお祭りの余興にすぎない巫女神楽だけれど、元々は〝神さまに皆の祈りを届け、元気になってもらう〟ためのものだったと!」



「た、確かにそのような話を儂も聞いたことがあるが……。じゃ、じゃが一体どうやって祈りを届けると言うのじゃ? それにたとえ我らの祈りが届いたとしても、それが本当に救世主さまたちのお力になるとは限らんのじゃぞ?」



 男性の言葉に、しかしカヤはかぶりを振って言った。



「いいえ、なります! なるはずです! だってそれこそが私がこのマグリドに生まれ、巫女としてあの方と出会った本当の意味なのですから!」



「本当の意味……?」



「はい。きっと全てはこの時のためだったんです。私がこの場所であの方と出会ったのも、巫女である私の目の前であの方がイグニフェルさまの力を授かったのも、そして私があの方に抱かれ、妻としてこの身に〝印〟を刻んでいただいたのも、全てはこの日この時のため」



「……うん? 抱かれ……?」



「ですから私は舞います。巫女神楽であの方に――全ての人々の願いと祈り、そして思いを届けるために!」



「い、いや、その前に少々聞きたいことが……」



 突然の告白に色々と困惑している様子の男性だったが、「ゆえにどうか早々に準備のほどを!」と真顔のカヤに言われ、もう頷くしかなかったのであった。



      ◇



 そうして祭りの際に用いられる装いに身を包んだカヤは、急拵えの舞台に立ち、皆に頭を下げる。



「私どもの急なお願いを聞いてくださって本当にありがとうございます。事情は祖父より伺っていると思いますが、今救世主さまたちはその身を賭して巨悪と戦い続けており、そして恐らくはこの上ない窮地に立たされています。このままでは今私たちが置かれている状況と同じく、世界は永劫の闇に包まれることでしょう」



『……っ』



「ですが救世主さまたちはもちろんのこと、私たち人類もまた巨悪になど屈してはおりません。ゆえに私はあの方たちとともに戦うべく、この島に伝わる巫女神楽で皆さまの願いを、祈りを、思いの力を救世主さまたちに届けたく思います。ですからどうか、どうか私に皆さまのお力をお貸しください!」



『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』



 大地を揺らすほどの歓声を上げてくれた人々に、カヤは堪らず涙ぐみそうになる。



「……ありがとうございます、皆さま」



 だがそれを懸命に堪え、彼女は手にしていた神楽鈴をしゃんっと鳴らす。



『――』



 その瞬間、一転して辺りを静寂が包み、人々が揃って祈りを捧げる中、カヤは静かに謡い、巫女神楽を舞い始める。



 ――しゃんっ。



 ――しゃんっ。



 ――しゃんっ。



 そして彼女は心の中で懇願した。



(……私の声が聞こえますか? もし聞こえていたらどうかお願いします)



 もちろんマグリドの人々だけに向けたものではない。


 この苦難に立ち向かっている全ての人々に届くよう、カヤは懸命に語りかけ続けたのである。



(皆さまの願いを、祈りを、思いをこの私に、火山島マグリドの巫女――カヤにお預けください。今まさに深い闇の底に堕ちようとしている救世主さまたちが、今一度光を取り戻せるように。どうか、どうか皆さまのお力を私にお貸しください)



 正直、この声が世界中の人々に届いている保証などどこにもない。


 巫女神楽だって本当に人々の力を集められるのかどうかも分からない。


 だがそれでもカヤは信じた。


 たとえ温もりが途切れそうでも、フェニックスシールがカヤの身体に刻まれている限り、必ずやイグザの力で構成された結界術の中に声が届くと。


 そして声を聞いた人々が彼らのために祈り、それを巫女神楽が必ずイグザたちのもとに届けてくれると。


 そうカヤは信じたのである。



(どうかお願いします、皆さま。この世界が再び光と優しさに満ちるために。今も命を賭して戦い続けてくださっている聖女さまたちにお力を。女神さまたちにお力を。そして救世主さまに……イグザさまにどうか皆さまのお力を……っ!)


ここまで読んでくださってありがとうございます!

モチベが上がりますので、もし少しでも「面白いかも~」とか「続きが読みたいな~」と思ってくださったのなら、是非広告下の☆☆☆☆☆評価で応援してもらえたら嬉しいですm(_ _)m

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ……本当にそうなのかな? エリュシオン。 イグザ達が守ろうとしたのが『ただの足枷にしかならないクズども』だと。
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