21 魔に堕ちた大地の神
とりあえず先の一件でマグメルを仲間に加えることが出来たのはいいものの、
「あの、アルカさーん……?」
――ぷいっ。
「ほら、君の好きな干し肉ですよー……?」
――ぷぷいっ。
「……はあ」
おかげで嫁(仮)の方が頬を膨らませてしまっていた。
その仕草はとても可愛らしいものなのだが、はてさてどうしたものか。
もちろん理由はこちらの、
「ふふ、そのようにヒステリックな方のことなどどうでもいいではありませんか。さあ、私とともに甘いひとときを過ごしましょう、イグザさま」
見事にはっちゃけてしまったマグメルさんである。
この変貌振りを見るに、今まで相当溜め込んでたんだろうなぁ……。
フレイルさまも「え、どちらさま!?」みたいな顔してたし。
「おい、誰がヒステリックな女だ」
「ふふ、もちろんあなたに決まっているじゃありませんか、元正妻さま」
「クックックッ、面白いことを言うな、妾候補外落選組筆頭」
「だ、誰が落選組の筆頭ですか!?」
「無論、お前だ。残念ながら正妻権限により、お前は落選となった。よってお帰りはあちらだ」
そう言って、アルカが食堂の入り口を顎で指す。
すると、マグメルも笑顔に憤りを孕ませて言い返した。
「言ってくれますね、聖女アルカディア。なんならどちらがイグザさまに相応しい女か、その身で分からせて差し上げてもいいのですよ?」
「ふふ、それは願ってもいないな。ではここを聖女マグメル最期の地としてくれようか」
いや、最期の地って、ここ城の食堂なんだけど。
なんか食中毒で死んだみたいな感じになるんじゃ……。
「大体、お前が惚れたイグザは私の入れ知恵で演じたまがい物だ。なのに何故未だこいつに固執する?」
「ええ、もちろん存じ上げております。ですがあの時私に向けられた真剣な眼差しに、嘘偽りは一切ありませんでした。つまりいざという時には、ああして男らしく私を引っ張ってくださるのがイグザさまなのです。お慕いするのにほかの理由がいりますか?」
「くっ、そこまでイグザのよいところを見抜いているとは、敵ながらあっぱれと言ったところか……。――いいだろう。癪だがお前を妾として認めてやる」
「お褒めに預かり光栄です、元……いえ、正妻さま」
ふふふ、と互いに変な親近感が湧いている様子の二人だったが、そこで俺は一人思う。
あの、俺まだ正妻とか妾って何も認めてないんだけど……。
◇
ともあれ、聖女二人の距離がほんの少しだけだが縮まったことに安心した俺は、魔物の巣の情報を聞くため、彼女らとともに玉座の間へと赴いていた。
「魔物たちの巣、ですか?」
「ええ。現状の打破にはそれが一番有効なのではないかと思いまして」
「確かに我々も以前同じことを考えたことがありました。魔物たちの出どころを潰せば侵攻が収まるのではないかと。ですが……」
「「?」」
何かいいづらいことなのか、フレイルさまが顔色を曇らせる。
すると、代わりにマグメルが沈痛そうな表情でこう告げてきた。
「フレイルさまはその作戦の折、先王――ジークルドさまを亡くされているのです」
「えっ?」
「なるほど、そういうことか」
アルカの言葉に、フレイルさまが謝罪する。
「気を遣わせてしまって申し訳ありません。確かに夫――ジークルドはその戦いで命を落としました。敵の攻撃が激しかったというのも一つの要因ではありますが、もう一つ別の大きな要因があったからです」
「別の大きな要因?」
「はい。お二人方は北の山に伝わる〝ジボガミさま〟のお話をご存じですか?」
「いえ……」
「私も知らんな」
互いに首を横に振る俺たちに、フレイルさまはどこか遠くを見るような表情で言った。
「この世には創まりの女神さまのほか、火、水、風、土、雷の五つの神さまがいらっしゃると考えられておりまして、そのうちの一つ――〝土〟の神さまのことを、我々は〝ジボガミさま〟と崇めてきました」
「ジボガミさま……」
つまりヒノカミさまの土バージョンということだろう。
そういえば、ヒノカミさまも皆からそう呼ばれているだけであって、正式な名称は誰も知らないんだよな。
「はい。ジボガミさまは大地の神であるとともに、生命の神であるとも言われており、一説によれば大地の汚れをその身一つで浄化し続けているのだとか」
「つまりあれですか? そのジボガミさまが浄化しきれなくなったことで、魔物たちが増えていると?」
「その可能性は十分に考えられると思います。事実、このオルグレン周辺の土地も年々痩せ細っていますし、作物の収穫量も減少傾向にあります。このままではいずれこの町を放棄せざるを得ない時がくるでしょう」
「そんな……」
「ふむ、事態は思ったよりも深刻のようだな」
「はい……。ですので、夫は巣の破壊とともにジボガミさまの探索を行いました。もしかしたら魔物たちの影響で、ジボガミさまが本来の力を出せずにいるのではないかと考えたからです」
ですが、とフレイルさまはさらに表情を陰らせて言った。
「彼は志半ばで倒れ、そして僅かに生き残った兵たちは口を揃えて私にこう言いました」
「「?」」
揃って小首を傾げる俺たちに、フレイルさまはぐっと膝の上の拳を握って言った。
「そのジボガミさまこそが――魔物を生み出す〝母〟なのだと」




