《聖女パーティー》エルマ視点55:もうこうなったら逆にどっしり構えてやるわよ。
その少し前のこと。
「どうやらトウゲンから手厚いもてなしを受けたようだな、〝剣〟の聖女」
「……ええ」
あたしはパティに連れられ、再び玉座の間を訪れていた。
玉座には相変わらずあのエリュシオンだかが頬杖を突いており、不機嫌そうに頷くあたしを偉そうに見下ろしながら言った。
「さて、そんなお前に朗報だ。例の一行が《白絶界》に現れたらしい」
「!」
〝例の一行〟ってたぶんイグザたちのことよね?
それが《白絶界》に現れたって……。
てか、それ以前に〝白絶界〟ってどこよ。
そこら辺の情報をまったく聞かされてないから喜んでいいのか悪いのか分からないじゃない。
「当然、目的は〝剣の聖女の奪還〟だろう。ゆえに我らはこれより救世主どもを迎え撃つことにした。よってお前にはしばらくの間、パティとともにこの玉座の間にいてもらう」
いや、パティとともにって……ここにはあんたもいるんでしょ?
なんかすんごい気まずいから嫌なんだけど……、と顔を顰めつつも、あたしはさっきから疑問に思っていたことをエリュシオンに問う。
「……一つ聞いてもいいかしら?」
「ああ、許可しよう」
「あんた、あたしのことをあいつらを呼ぶための〝餌〟だって言ってたわよね? その《白絶界》ってのがどこかは知らないけど、あいつらが来た以上、目的は達成したんじゃないの? なのにどうしてあたしを生かしておくわけ?」
別に聞かずともよかったのだが、どれだけ考えてもあたしを生かしておく理由が見つからず、変にもやもやしてしまったのだ。
だがエリュシオンの口から返ってきたのは、予想外の答えだった。
「何を言っている? 私は別にお前を生かしておいているつもりはない」
「えっ?」
「《八斬理》どもにも言ったはずだ。〝生かすも殺すも好きにしろ〟と。ゆえにお前が生きながらえているのは単なる偶然。よもや自分にそれほどの価値があるとでも思っていたのか? 自惚れるのも大概にしろ」
「~~っ!?」
は、はあああああああああっ!? と消沈気味だったあたしの頭に一瞬にして血が上る。
な、なんでほぼ初対面のあんたにそこまで言われなくちゃいけないのよ!?
大体、人を無理矢理攫ってきておいてなんなのよその言い草は!?
ちょっとくらい顔がいいからってお高くとまってるんじゃないわよ、この変態仏頂面ハゲ!?
てか、別に自惚れてなんていないし!?
むしろそれはあんたの方でしょうが!?
そんなところでお山の大将気取っちゃってさ!?
あんたなんてイグザにぼこぼこにされればいいんだわ!? と内心一通りの悪態を吐いたあたしは、そこでぎりっと感情を抑えるように唇を噛み締めて言った。
言われたまま引き下がるなんてあたしのプライドが許さなかったからだ。
「……あんた、負けるわよ?」
「何?」
「ちょ、ちょっとキミそれ以上は言わない方がいいって!? ホントに殺されちゃうよ!?」
慌ててパティが仲裁に入ろうとしてくれるが、エリュシオンはそれを手で制して言った。
「面白いことを言う。それはやつが不死だからか? それとも女神たちの加護を得ているからか? よもや〝仲間の絆〟などという世迷い言をのたまうつもりではないだろうな?」
「さあ、どうかしらね? でも不思議とあんたにだけは負けてる姿が想像出来ないのよ。たとえあんたが超強い魔族たちをたくさん従えていて、かつ創世の女神さまたちの力を全部手に入れていたとしてもね」
「クックックッ……なるほど。さすがはあの男と同郷の聖女。置ける信頼も人一倍というわけか」
どこかあざ笑うようなエリュシオンの言葉に、あたしは「……別にそんなんじゃないわよ」と少々後ろめたさを感じて言った。
その信頼を真っ先に裏切ったのは、ほかでもないこのあたしだからだ。
〝信頼〟という点で言えば、あたしなんてあの個性的な嫁たちの足もとにも及ばないだろう。
でもね――。
「あんたじゃイグザには勝てないわ。だってあいつ――〝めちゃくちゃいい男〟になったもの」
「ほう? ならばせいぜいその曇った眼に焼きつけるがいい。その〝めちゃくちゃいい男〟とやらが無様にも這い蹲る姿をな」
「ええ、そうなったらいいわね。絶対にならないでしょうけど」
そう彼に背を向け、あたしは空いていた席の一つに座ってこう言った。
「というわけで、お茶を淹れてくれるかしら? パティ。あたし、喉渇いちゃったわ」
「いや、ボク召使いじゃないんだけど……。というか、この状況でよく言えるね、キミ……」
パティがあたしに半眼を向ける中、エリュシオンは再度「クックックッ……」と笑みを浮かべて言った。
「構わん。言うとおりにしてやれ、パティ。いずれその余裕すらもなくなるのだからな」
「はーい……」
不本意そうではあったものの、主にそう言われてしまったのならば仕方なく、パティは頬を膨らませながらあたしの要望通り熱々のお茶を淹れにいったのだった。
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