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184 いざ《絶界》へ


「まったく酷いことするよねー。いくら皆がどうでもいいって言ったからってさ、勝手に実験台にするんだもん」



 そう不満を口にしながらベッド上のエルマに治癒術をかけていたのは、言わずもがなパティだった。


 トウゲンの実験室から連れ出されたエルマは、彼女用にと宛がわれた部屋まで彼の手によって運ばれていたのだ。



「……あんただって同じようなものじゃない」



 パティに背を向けながら、エルマが吐き捨てるようにそう口にする。


 すると、パティはことさら頬を膨らませて言った。



「全然違うもん! ボクはただキミの力でもっと〝成長〟したいだけだし!」



「……そんなこと言って、どうせあんたもあたしをいたぶって笑いものにしたいだけでしょ? 大体、それ以上強くなってどうすんのよ? そんなに効率よくあたしたち人間を殺したいわけ?」



 憤り交じりのエルマの言葉に、パティは「はあ……」と嘆息して言った。



「あのね、キミをいたぶったって創造主さまは喜ばないでしょ? だって創造主さまはキミに全然興味ないんだもん」



「……あっそう。それは悪かったわね」



 こっちだってあんな仏頂面になんか興味ないわよ、と不快感を露わにするエルマに、パティもまた「酷いこと言うなぁ……」と不満そうだった。


 最中、パティは思い出したように続ける。



「というか、キミはボクが強いって言ったけど、ボクの序列は下から三番目なんだよ? それにボクはただ創造主さまのお役に立ちたいだけであって、別に人間たちを殺したいわけじゃないし」



「……信じられないわよ、そんなの」



 相変わらず壁の方を向いたままのエルマに、パティが「むむむ……」と悩ましそうな顔をしていた――その時だ。



「――失礼。少々お時間よろしいでしょうか?」



「「!」」



 ふいに入り口付近から男性の声が響き、二人は揃って声のした方を見やる。


 そこに立っていたのは、頭からすっぽりとフード付きの外套を被り、かつその上から拘束具で全身をぎちぎちに縛られている一人の男性だった。



      ◇



「さて、一応《絶界》について説明しておこうと思う」



 そう豊かな胸を張るイグニフェルさまの言葉に、俺たちは揃って耳を傾ける。


 本当は今すぐにでも乗り込んでいきたいところなのだが、《絶界》はフィーニスさまが永きに渡って封印されていた場所だからな。


 敵の本拠地でもあるわけだし、相当の用心をして行かねばならないだろう。



「まず知っておくべきなのは、《絶界》が〝三層に分かれている〟ということだ」



「分かれている、ですか? 《絶界》とは一つの世界ではないと?」



 マグメルの問いに、イグニフェルさまは「うむ」と頷いて言う。



「そうさな、山を逆さにしたようなものだとでも思えばいい。下に行けば行くほど世界は狭まり、引きずり込む力もまた強くなっていく。ゆえに上からそれぞれ《白絶界はくぜつかい》《黒絶界こくぜつかい》《断絶界だんぜつかい》と呼ばれていてな。我らがフィーニスを封じたのは真ん中の《黒絶界》だ。ちなみに以前フルガのやつが聖者に落とされたのは、その上の《白絶界》だな」



「なるほど」



 確かあの時はイグニフェルさまが何かしらの術技で救い出したと聞いた。


 つまり力を奪われる前の彼女たちであれば、単体でもこちらからであれば《白絶界》までのアクセスが可能だったということだ。


 となると、今や創世の神の力を手に入れたエリュシオンたちが潜んでいるのは、その下の《黒絶界》か《断絶界》のどちらかと考えた方が自然だろう。


 問題はどちらに潜んでいるかだが……。



「えっと、フィーニスさまを《黒絶界》に封じたのは、当時の女神さま方……いえ、オルゴーさまの力でもそこまでしかアクセス出来なかったからですか?」



 俺がそう問うと、テラさまが「いえ」と首を横に振って言った。



「封じようと思えば最下層――《断絶界》まで落とすことは可能でしたが、あそこに落ちた者たちは二度と這い上がってくることは出来ません。それは私たち神であっても同じことです。ゆえに彼女の封印を《黒絶界》で留めたのは、単に我らの慈悲。双生の神として生まれた我らの情けによるものなのです」



「そうだったんですね……」



 たとえ道を違えようとも、フィーニスさまは血を分けた姉妹。


 そんな彼女を永久の闇に葬ることなど出来なかったのだろう。


 その気持ちは俺にもよく分かる気がした。


 これでも一応幼馴染のエルマと一度は絶縁した身だからな。


 まあ程度は大分違うんだけど。



「ともあれ、あの元人間どもがいるとすれば《黒絶界》が濃厚であろうな。ただ赴くのは難しくないが、戻るとなると我ら神が全て揃っている必要がある。つまりその間こちらの世界の守りは手薄になるということだ。それだけのリスクを冒してまで救う価値が本当にあの小娘にはあるのか?」



 腕を組み、鋭い視線を向けてくるトゥルボーさまの問いに、俺は即答した。



「ええ、もちろんです。だって彼女はもう俺たちの大切な仲間ですから」



『……』



 こくり、と揃って頷いてくれた聖女たちの姿に、トゥルボーさまはふっと口元を緩めて言った。



「ならば我から言うことは何もない。早々に小娘を助けに行くぞ」



『はい!』



 大きく頷き、俺たちはエルマが囚われているであろう《絶界》の中層――《黒絶界》へと向けて進軍を開始したのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんたかんだでエルマのことは「仲間」として見てたのね これから場合によっては「女」として見なければならなくなるけど…
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