183 聖女の行方
というわけで、早速エルマ救出に向けて作戦会議を始めた俺たちだったが、やはりフェニックスシールなしでは居場所の特定は難しく、さらにはダメもとで使ってもらったシヴァさんの〝眼〟でも、エリュシオンの力が邪魔をしているのか、何も手がかりを得ることは出来なかった。
これでエルマが聖神器を所持してくれていたのならまだよかったのだが、生憎と連れ去られる際に武装解除をされていたため、それも叶わなかった。
一応以前フィーニスさまが力を奪われた聖者たちの元根城にも今一度足を踏み入れてはみたものの、さすがにそんな分かりやすいところにいるはずもなく……。
完全に手詰まり状態であった。
「困ったな……。エルマのやつ、一体どこに連れていかれちまったんだ……」
「ふむ、こういう時はむしろ〝逆〟に考えてみるのはどうだろうか?」
「逆?」
小首を傾げる俺に、アルカは「ああ、そうだ」と頷いて続ける。
「やつらは恐らくこの世で〝もっとも見つけづらい場所〟に潜んでいるはずだ。何せ、こちらには力を奪われたとはいえ、創世の女神たちがついているのだからな。迂闊な場所には隠れられないはずだ」
「そうですね。少なくとも〝海〟に関して言えばいないと断言出来ます。たとえ力の大半を失っていたとしても、私は〝水〟を司る神――あれほど巨大な力を持つ者が侵入すれば、即座に感知出来るはずですから」
そう力強く頷くのは、相変わらず窓の外から顔を覗かせているシヌスさまだ。
先日の宴では途中で抜け出してしまったにもかかわらず、セレイアさんともども笑顔で許してくれたので、本当にありがたい限りである。
「というより、そもそもあれだけの力を持つ者を感知出来ない方がおかしいと思った方がいいだろう。仮にも我らは神だ。である以上、同じ神の力を持つ者ならば共鳴して当然のこと。それが元々我らの力であればなおさらだ」
「つまりそれをまったく感じられない以上、聖者エリュシオンは〝この世に存在していない〟ということですか?」
マグメルの問いに、イグニフェルさまは「まあそういうことになるな」と肩を竦める。
「どういうことかは皆目見当もつかぬが」
『……』
普通に考えれば、それだけ強力な隠匿術を使っていると考えた方がいいだろう。
だが相手はあのエリュシオンだ。
もしかしたら、本当にこの世に存在していないのかもしれない。
言わずもがな、この世の反対は〝あの世〟なわけだが、それだとエリュシオンはすでに死んでいることになる。
つまりあの世ではなく、それ以外のこの世ではないどこか。
あの世やこの世とは別の、どこか隔絶された世界。
「隔絶された、別の世界……?」
その時俺の視界に入ったのは、「どうしたの……?」と不思議そうな顔をしているフィーニスさまだった。
彼女は今までどこにいた?
彼女が封じられていたのは、それを施した女神さまたちですら手の出せない全てが遮断された世界。
そう――。
「《絶界》……」
『――っ!?』
ぽつり、とこぼすように呟いた俺の言葉に、その場にいた全員が目を丸くする。
最中、シヴァさんが「なるほど」と頷いて言った。
「《絶界》とは盲点だったわ。それなら大いに可能性はあるでしょうね」
「うん。きっとエルマはそこにいる」
「でもどうやってそこに行くの? 場所が場所だし、きちんと帰ってこられる保証もないのよ?」
「細けえことはいいじゃねえかよ、お姫さま。そこにあの貧乳がいるかもしれねえんだろ? ならちゃっちゃと行って取り返してくりゃいいじゃねえか」
そう不敵な笑みを浮かべるオフィールだったが、彼女は「ところで」と小首を傾げながらこう問うてきたのだった。
「《絶界》ってなんだ?」
『……』
いや、知らないのに〝ま、まさかそんな!?〟みたいな顔してたのか君は……。
◇
その頃。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
バチバチバチバチバチバチッ! とエルマは四肢を拘束され、電流責めに遭っていた。
「ふひっ、いい声で鳴きおるわい」
当然、それを行っていたのはトウゲンで、彼は新しいトラップ術式の実験台として彼女を利用していたのだ。
「あ、う……」
がくり、とエルマが膝から崩れ落ちるように脱力する。
「うぐっ……」
そんなエルマの髪を乱暴に鷲掴みし、トウゲンは無理矢理上を向かせて言った。
「なんじゃもうへばったのか? 泣きべそまで掻いてだらしない聖女じゃのう。ふひひっ、じゃが実験はまだまだ始まったばかりじゃぞ? さて、次は一体どんな方法で鳴かせて――」
と。
「ちょっとー!? 何勝手に実験台にしてるのさー!?」
「ちっ、もう嗅ぎつけてきおったか……」
驚いたような顔で室内に入ってきたパティに、トウゲンは邪魔者がきたとばかりに舌打ちをしていたのだった。




