144 女神の消失
「げえっ!? ナザリィ!? 何故あなたがここにいるんですか!?」
翌朝。
エストナへと戻ってきた俺たちに、開口一番ポルコさんが驚愕の表情で声を張り上げる。
すると、ナザリィさんが不機嫌そうに腕を組んで言った。
「決まっておろう? おぬしが自分をドワーフ基準のイケメンじゃとのたまいとるからじゃ」
「そ、それのどこが悪いと言うのですか!? 確かに人の基準だと多少ぽっちゃりしているみたいですが、でも私は正真正銘イケメンです! ナザリィだって私に壁ドンされたらイチコロでしょう!?」
「んなわけあるか!?」
「ひいっ!?」
「万が一にもわしにそんな馬鹿げたことをしてきた暁には、全力でおぬしの股間を蹴り上げてやるから覚悟しとけ、この阿呆めがっ!」
「あわわわわ……っ!?」
がくがくぶるぶる、と内股でショックを受けるポルコさんに嘆息しつつ、ナザリィさんはここに来た本当の理由を説明する。
「ともあれ、話は全部イグザたちから聞かせてもらったわい。まさかおぬしが〝盾〟の聖者じゃったとは思いもせんかったが……まあその話はよいわ。とにかく今はミノタウロスたちの里を復興させるのが先決じゃ。乳のでかい女しかおらん島じゃというから死んでも行かんと心に決めておったのじゃが……」
「え、胸の大きな女性しかいない島!? どこにあるのですかその楽園は!?」
「……と、まあこのスケベデブだけに任せておったらドワーフの威信に関わってくるからのう。非常に不本意じゃがわしも同行することにしたわけじゃ」
「なるほど。それは確かに賢明な判断だったわね」
そうザナが若干の哀れみを込めた表情で頷いていると、ナザリィさんがエルマを見やって言った。
「そしておぬしがイグザの昔馴染じゃという〝剣〟の聖女じゃな? わしはドワーフのナザリィじゃ。よろしくのう」
「ええ、よろしく」
にぎにぎと互いに握手を交わす中、ナザリィさんは「ほれ、おぬしもこっちに来るのじゃ」とティルナを呼び寄せ、三人で輪を作る。
そして彼女は若干涙ぐんだ様子で、残りの二人に向けてこう言ったのだった。
「わしはこれから死地へと旅立たねばならん。じゃがおぬしらも決して負けるでないぞ。最終的に勝つのは我ら〝持たざる者〟なのじゃからな!」
「「?」」
だが当然、二人にはナザリィさんが何を言っているのか、まったく理解出来ていないようなのであった。
◇
ナザリィさんのご厚意でシヴァさんとエルマの装備を新調してもらえることになった俺たちは、先に全員でドワーフの里へと向かおうとしていた。
だがその前にフルガさまに一言伝えるべく、彼女の住まうという霊峰ファルガラの神殿を訪れていたのだが、
「これは一体……」
そこにフルガさまの姿はなく、それどころか神殿内の大広間は何か戦闘でもあったのか、めちゃくちゃに破壊されていた。
しかも。
「これらの血痕はまだ新しいように思えます。恐らくは数日ほどしか経っていないのではないかと……」
マグメルの言うように、床にはそこかしこに乾いた血の跡がくっきりと残っていた。
まさかフルガさまの身に何かあったのではと俺たちが顔色を曇らせていると、ポルコさんが神妙な面持ちで血痕を撫で、それをすんすんと嗅いで言った。
「むむっ!? この野性的な香りはあの女神さまのものに間違いありませんぞ!」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
いやいやいや……。
仮にそうだったとしても、なんで匂いで分かるんだよ……。
当然、揃ってどん引きする俺たちだったが、改めて考えてみるとフルガさまは〝巨乳〟である。
である以上、まんざら彼の言うことも間違ってはいないのではなかろうか。
というより、もう突っ込むのが面倒なのでその線で行こう的な雰囲気に皆もなってるっていう……。
「だがあのフルガさまをどうにか出来る者などそうはいないはずだ。むしろ現状ではイグザかほかの女神たちくらいしかいないだろう。――おい、肉の者。ほかの血痕から別の女の匂いはするか?」
「いえ、フルガさまの匂い以外しません!」
しゅばっとポルコさんが軽快に返答する。
それを聞いたアルカは「ふむ……」と何やら考え込んでいるようだった。
てか、普通に犬みたいに扱われてるな、ポルコさん……。
そしてそんなポルコさんの様子に、「あれ、一応わしの昔馴染なんじゃよな……」と黄昏れたような表情をするナザリィさんなのであった。




