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128 女神の望み


 その頃。


〝地〟の女神――テラは、一柱の女神と対峙していた。


 全体的に色素が薄く、生気を感じさせない冷たさが特徴の女性。



 そう、終焉の女神――フィーニスである。



「こうして直接お話しするのははじめてね、テラ……」



「そうですね。私たちが五つに分かれたのは、あなたを封じたあとでしたから……」



 それより、とテラは悲しげにフィーニスを見据えて言った。



「フルガを取り込んだのですね……。あなたの中から彼女の存在を感じます……」



「ええ、そう……。だってあなたたちはまた私たちをいじめようとするでしょう……?」



「……そうでしたね。あなたにとって魔物たちは子も同然。それを排斥しようとする者たちに敵意を向けるのは当然です。ですがそれは私たち人の側も同じこと。ともに手を取り合う道はないのですか?」



「手を、取り合う……?」



 テラの言葉に、フィーニスはおかしそうに笑って言った。



「その手を振り払ったのはあなたたちよ、テラ……。人が、私の可愛い子どもたちを食いものにしたの……。静かに暮らしていたあの子たちを、欲望のままにいっぱい殺したの……」



「それは……」



「だから私は怒ったの……。それなのにあなたたちは私を閉じ込めた……。悪いのは子どもたちを殺した人間なのに……」



「確かに彼らの行いは決して褒められるようなものではありません。ゆえにそれ相応の報いも受けました。ですがそれで全ての人に絶望するのは間違っています。あなたも出会ったはずです。あなたの心情に共感し、ともに寄り添ってくれる心優しき者たちに」



 そうテラが告げると、フィーニスはにやっと口元を歪めて頷いた。



「ええ、ええ、出会ったわ……。私をあの暗い場所から出してくれた優しい子……。そして限りなく神に近い力を持つ強い子……。とても、とても可愛い子……」



「そうです。人には彼のような者もいます。聖女たちにしてもそうです。ですから――」



 と。



「ねえ、テラ……」



「?」



 ふいに話を遮るようにフィーニスが声をかけてきて、テラは小首を傾げる。


 すると、フィーニスは両手を頬に添え、恍惚の笑みを浮かべて言った。



「――私ね、赤ちゃんが欲しいの……」



「えっ?」



「きちんとお話しの出来る私の赤ちゃん……。私をママとして慕ってくれる可愛い赤ちゃん……」



「な、何を言っているのです……? エネルギー体である我ら神に、子を宿す機能は備わっていません。そもそも女神しか存在しない中で人のように子を成すなどと……」



 そこでテラははたと気づく。


 そして彼女がその事実に気づいたことに、フィーニスもまた笑みを浮かべて言った。



「ええ、そう……。あの子ならきっとそれが出来る……。だから私は彼にもっと強い力を与えているの……。限りなく神に近い存在から、〝神〟へと昇華させるために……」



「そ、そんなこと出来るはず……」



「だからそのためにあなたたちの力が必要なの……。もちろん協力してくれるわよね……? だってあなたは〝生命〟を司る女神さまだもの……」



 ゆっくりと近づいてくるフィーニスに、テラは愕然と首を横に振りながら後退る。



「あ、あなたは自分が何をしようとしているのか理解しているのですか……? 我々が双子神であったのは、万が一の際、互いを止められるようにするためです。なのにあなたは……うっ!?」



 ずずず、とフィーニスから伸びてきた黒いもやのようなものが、テラの身体に絡みついていく。



「ふふ、大丈夫……。きっと上手くいくから……」



 にこり、とフィーニスが微笑む中、テラの意識は黒いもやに呑み込まれていったのだった。



      ◇



「今すぐぶっ飛ばしてやるわ、この筋肉おばけ!?」



 そうしてエストナへと帰還した俺たちが目にしたのは、またもや白目をむきながらくたりと床に横たわっているポルコさんと、「お、落ち着いてください!?」とマグメルに羽交い締めにされているエルマ、そしてそんな彼女の胸元をぺちぺちと触り、「ほら、やっぱりなんもねえじゃねえか」と絶望的なことを言うオフィールの姿だった。



「えぇ……」



 なんなのこれ……。


 当然、俺たちは状況が分からずに困惑していたのだが、とりあえず関わると面倒臭そうだったので、ぱたりと何も見なかったことにして扉を閉じたのだった。


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