13 俺の子種が欲しい!?
俺の派生スキル――《体現》は、過去に蓄積したダメージからスキルを模倣するというものだった。
だから俺はエルマの代わりに受けたダメージで《疑似剣聖》を習得した。
その俺が何故槍術を使えるようになったのか。
答えは単純だ。
そう――アルカディアに受けたダメージから彼女のスキルを模倣したのである。
恐らくはまたスキルが派生……いや、進化したのだろう。
過去に蓄積したダメージではなく、現在受けたダメージからスキルを模倣するものへと。
つまり俺は、誰かと戦えば戦うほど、戦った相手に受けたダメージで、その者の技量とスキルを自分のものにすることが出来るのである。
そして今の状態を言うならば――《疑似神槍》。
聖女アルカディアが現状持つ力の全てが、俺の槍術して習得されたというわけだ。
もちろん今の彼女は聖槍を所持している状態ではないので、本来の力というわけではない。
だが。
――がきんっ!
「くっ、何故だ!? 何故槍術で私が後れを取る!? 私は《神槍》の聖女なのだぞ!?」
「そうだよな。理解出来ないよな。でもこう言えば分かるだろ?」
がんっ! と互いに弾かれ合うも、直後に大地を陥没させながら再び刺突で激突する。
互いに全力で技を放ってはいるが、押しているのは俺の方だった。
「まったく同じ力量なら、体格と属性で上回る俺に分があるのは当然だ!」
――どがんっ!
「ぐあっ!?」
今度はアルカディアの方が地面をごろごろと転がる。
そして信じられないとばかりに愕然としながら、アルカディアは必死に上体を起こそうとしていた。
「この私が、聖者でもないただの男に敗れるというのか……っ!?」
だから俺は告げる。
「確かに俺は聖者じゃないし、君みたいなレアスキルも持っちゃいないただの一般人だよ。でもな、俺は聖者……いや、聖女に虐げられたことでこの力を手に入れた。ずっと耐え続けてきたからこそ、ただの一般人だったにもかかわらず、聖女の君すら上回る力を手に入れることが出来たんだ」
「何を、言っている……っ!?」
「つまりあれだ。君は聖女の自分には敵わないと言ったが、頑張り次第ではどうにかなるかもしれんってこった。だから言っただろ? 俺は割と頑張る子だって」
「くっ……」
槍を杖代わりにしながらアルカディアが立ち上がる。
勝敗はすでに決しているはずなのだが、彼女の目はまだ諦めてはいないようだった。
ざんっ! と槍を地面に突き刺し、アルカディアは深く呼吸をして言った。
「……いいだろう。認めてやる。お前は確かに強い。だからこそ私も本気でお前に全ての力をぶつけてみたくなった」
そして彼女が天に手をかざすと、目映い輝きがそこに集束し始め、徐々に長柄状の代物へと変化していった。
「ここから先は完全に私の独断だ。ゆえに優勝の座はお前にくれてやる。だが聖女としての敗北までは渡すつもりはない!」
「あれは……」
ずっとエルマと一緒にいたから分かる。
あの壮麗たる輝きは聖剣と同質のもの。
――聖槍。
この世に七つしかないという古の賢者の遺物だ。
だがそんなものをここでぶっ放したりすれば、俺の後ろにいる観客たちも巻き添えを食ってしまうことだろう。
たとえ俺が受け止めたとしても、だ。
「お、おい、やめろ!? 観客を殺すつもりか!?」
「ならばお前が止めてみせよ! 我が全霊の一撃をな!」
「くっ……」
これだから聖女ってやつは……っ。
唇を噛み締めながらも、ならばと俺は天高く跳躍する。
刹那。
「食らえッ! 星をも穿つ聖槍の一撃をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
アルカディアの手から――聖槍が投擲された。
――どばああああああああああああああああああああああんっっ!!
凄まじい衝撃波とともに激しい閃光が俺ごと東の空へと駆け抜けていく。
それはまるで本当に星をも粉砕するのではないかというくらい強力無比な一撃だった。
「ぐ、が……っ!?」
《不死鳥》のスキルですら再生が追いつかないほどの攻撃だったのだ。
が。
――ごごうっ!
「――っ!?」
途中で光を食い破るかの如く火の鳥化した俺が外に飛び出し、未だ投擲したままの体勢で固まっていたアルカディアのもとへと一直線に突っ込んでいく。
そして。
「この――馬鹿聖女がああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
――ずばあああああああああああああああああああああああああああああああああんっっ!!
「ぐ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
俺の炎がアルカディアを焼き尽くしたのだった。
◇
こうして、武神祭は多少のアクシデントがあったものの、俺たちラフラ武器店の優勝で幕を閉じた。
アルカディアが最後にやったことは、到底許されることではないと思うのだが、盛り上がりまくっていた観客たちにとっては最高の演出だったらしく、とくに罪に問われるようなことはなかった。
まあガンフリート商会が色々とごねた挙げ句、俺たちを闇討ちしようとした疑惑があきらかになって叩かれまくったことはさておき。
旅立ちの朝を迎えた俺は、武器店の前でフィオちゃんたちと別れの挨拶をしている最中だった。
「本当に、本当にありがとうございましたっ。このご恩は一生忘れませんっ」
「あはは、こちらこそありがとう、フィオちゃん。俺が優勝出来たのは、フィオちゃんがずっと俺を応援し続けていてくれたからだよ」
「い、いえ、そんな……」
真っ赤な顔で俯くフィオちゃんの頭を撫で、俺はレイアさんにもお礼を告げる。
「レイアさんもお世話になりました。それであの、本当にこれをもらっちゃってもよかったんですか?」
腰のヒノカグヅチを見やりながら言う俺に、レイアさんは大きく頷いて言った。
「もちろんさ。あんたはきちんと約束を果たしてくれた。その礼ってわけじゃないけど、そいつはあんたに持っていて欲しいんだ」
「レイアさん……。分かりました。じゃあこの魔刃剣ヒノカグヅチは、俺が大切に使わせていただきますね」
「ああ、そうしてくれると助かる。なんたってこの町一番の鍛冶師――ラフラの妻レイアの最高傑作だからね」
にっと歯を見せて笑うレイアさんに、俺も笑顔で頷いたのだった。
「ええ。これからも最高の鍛冶師夫妻として、皆を守るための武器を作り続けてください」
「ああ、もちろんだよ」
と、そこまではよかった。
ガンフリート商会も散々脅しておいたので、二人の今後もひとまずは安心――見事なハッピーエンドである。
そのはずだったのだが、
「あの、なんでついてきてるんですか……?」
「決まっているだろう? お前の子種をもらうためだ」
「……なるほど。俺の子種を……って、子種!?」
なんかおかしいことになってるんですけど!?




