119 〝盾〟の聖者
「……なるほど。あなたがイグザさまでしたか。それは失礼をいたしました。てっきり私の純潔を狙う不届き者かと……」
ぺこり、とポルコさんが頭を下げながらそう言ってくる。
誤解が解けたのは何よりだけど、この人は一体なんの心配をしているのだろうか……。
てか、その純潔の需要は俺にはねえよ。
「いえ、気にしないでください。それよりあなたに少々お尋ねしたいことがあるのですが……」
「おお、そうでしたか。それは奇遇ですな。実は私もイグザさまに一つ大切なお話がございまして」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
ポルコさんの言葉に、俺を含めた全員が目を見開く。
このタイミングで言う大切な話だ。
間違いなく〝盾〟の聖者に関してだろう。
俺たちが固唾を呑んで見守る中、ポルコさんはげふんっと居住まいを正し、至極真剣な表情でこう声を張り上げてきた。
「――イグザさま! どうかこの不肖ポルコめにマグメルさんをくだ――」
「あ、それは無理です」
ずーんっ、と素でショックを受けている様子のポルコさんに嘆息しつつ、俺は本題へと入ることにした。
「ところで、あなたが〝盾〟の聖者なのですか?」
「……えっ?」
俺の問いに、一瞬鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしたポルコさんだったが、やがて質問の意味を理解したらしく、冷や汗をだらだらと垂らしながら視線を明後日の方に向けて言った。
「ち、違いますよ……?」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
うん、〝盾〟の聖者だわ、これ。
「は、はは、しかし今日は暑いですなぁ!」
じとー、と全員に半眼を向けられる中、ポルコさんがふきふきと手拭いで汗を拭う。
しかしさすがにはぐらかすのは無理だと思ったようで、ポルコさんはがっくりと肩を落として言った。
「……どうやらお気づきになられてしまったようですね」
「ではやはりあなたが?」
「ええ、そうです。私の本当の名はパング。ドワーフ族の亜人で、あなたの仰るように〝盾〟の聖者です」
◇
ドワーフ族の亜人にして、〝盾〟の聖者――パング。
それがポルコさんの正体だと彼は言った。
だがここで一つ疑問が残る。
「いや、〝盾〟の聖者って……。で、でもあんた思いっきり人間じゃない!?」
そう、ポルコさんの見た目は完全に人間のそれなのである。
「てか、仮にそうだったとしても、ドワーフというよりはオークでしょあんた!?」
そしてやめなさい。
それは皆思ってたけど、あえて言わなかったことなんだから。
取り乱すエルマに、俺はそう半眼を向ける。
ともあれ、これは一体どういうことなのか。
困惑する俺たちに、ポルコさんは頷いて言った。
「ええ、そのことに関してもきちんと説明を……って、あれ? 今聖女さまの雰囲気がいつもと違ったような……」
「げっ!?」
てか、まだバラしてなかったのか……。
まあ今のでもうバレたようなもんなんだけど……。
「お、おほほ、気のせいじゃないでしょうか? 私はいつもの清楚で可憐な聖女さまですよ?」
いや、動揺しすぎて猫被りのレベルが落ちてるぞ。
無理矢理作り笑いを浮かべているエルマに、俺は再度半眼を向けていたのだが、どうやらポルコさんにはバレていなかったらしい。
「?」
ただどこか辿々しい様子のエルマを不思議がってはいるようだった。
たぶんバレるのも時間の問題だと思う。
と。
「もしかしてそれがあなたの力なのかしら? 私の〝眼〟と同じように、〝盾〟独自の能力――むしろ私とは逆の〝視えなくする力〟ね?」
シヴァさんの問いに、ポルコさんは「ええ、仰るとおりです」と頷く。
「ですがそれはあくまで聖女さまを守る際に用いたもの。私本来の姿を隠しているのは、このドワーフ族に伝わる〝お守り〟の力です」
そう言ってポルコさんが取り出したのは、彼の首に提げられていた青いペンダントだった。
「これは聖具の作製にも携わったというご先祖さまが作られたもので、神の目すら欺けるとても貴重な代物でして、古の戦いでは〝剣〟の聖者さまがお使いになられたのだとか」
「つまりそれを外したら、ポルコさん……いえ、パングさん本来の姿に戻るということですか?」
「そのとおりです、女神さま! そしてポルコで構いません! その方が呼びやすいでしょうし! というわけで、この不肖ポルコ! 女神さまを振り向かせるために元の超絶的イケメンに戻ろうと思います!」
「え、あの……」
ぐっと拳を握りながらそう宣言するポルコさんに、マグメルが困惑したような表情を見せる。
なんでもいいけど、人の嫁を目の前で盗ろうするのはやめなさいな。
俺がそう半眼を向けていると、ポルコさんは「はあっ!」とペンダントを取り外す。
すると、彼の身体が目映い輝きに包まれた。
そして。
――ぼぼーんっ。
そこに現れたのは、何が変わったのかよく分からないポルコさんの姿だった。
「「「「「「「「……」」」」」」」」
いや、超絶的イケメンはどうした!?
当然、俺は内心鋭い突っ込みを入れたのだった。




