116 異端種と正統種
「これが〝弓〟の聖神器……。さすがは創世の女神たちの力が合わさっているだけあるわね。凄い力だわ」
驚いたような表情でザナが手にしていたのは、神々しい輝きを放つ一張の弓だった。
言わずもがな、浄化された神器――〝聖神器〟である。
「これで俺たちが手に入れた聖神器は三つ。残りはあと四つか」
「そうね。〝槍〟に〝斧〟、〝盾〟――そして〝剣〟よ」
「剣……」
ザナの言葉を聞いて思い出したのは、〝剣〟の聖者――エリュシオンのことだった。
あのあと彼は一体どうなったのだろうか。
そう簡単にやられるようなタマではないと思うのだが、フィー二スさまの攻撃で貫かれている以上、シヴァさん同様呪詛を受けているはずだ。
彼女の場合は五柱の女神の力――つまりはオルゴーさまの力を持つ俺が内部から浄化した上、フェニックシールで俺のものだと認識させたことで助けることが出来たが、そうではないエリュシオンは未だに呪詛を受けたままだ。
であれば長くは持たないだろうし、フィー二スさまに黒人形化されている可能性もある。
まあそこら辺のことに関しては、あとでシヴァさんに視てもらうしかないだろう。
問題は黒人形化したエリュシオンが相手となると、必然的にエルマとの《スペリオルアームズ》を考えなければならなくなってくるということなのだが……。
本当に壁ドンでなんとかなるのかなぁ……、と俺が頭を悩ませていると、意識を取り戻したらしいカナンが地に這い蹲りながら問うてきた。
そう、彼の命を助けることに成功したのだ。
「……何故僕を殺さなかったのですか……っ?」
「あら、死にたかったの? それは気づかずにごめんなさいね。フィーニスさまの呪縛に必死に抗っていたから、てっきり生きたいのだとばかり思っていたわ」
「ぐっ……」
唇を噛み締め、カナンが悔しそうに俯く。
すると、件の女性を筆頭に、エルフたちが弓を構えながら近づいてきた。
なので俺は彼女らの前に立って言う。
「こいつをどうするおつもりですか?」
「もちろん我らエルフの掟に則って処罰いたします。たとえフィーニスさまに操られていたとしても、異端種である彼が我ら正統種に弓を引くことは重罪です」
「なるほど。なら一つお尋ねしても?」
俺の問いに、女性は「どうぞ」と頷く。
「そもそも何故ダークエルフが〝異端〟と呼ばれているのですか?」
「もちろんその肌の色と正統種を上回る高い能力ゆえです。我らエルフはもっとも〝汚れ〟から遠い〝清浄なる者〟と呼ばれています。ゆえに身体の色素が薄く、それが清き者である証しだと信じられてきました」
「清き者、ねえ。だから褐色の肌を持つダークエルフは〝不浄〟だと?」
シヴァさんがそう問うと、女性は「そうです」と頷いて言った。
「不浄ゆえに余計な力――つまりは〝災い〟を持って生まれた者。それがダークエルフなのです。現に彼は災禍となって我々を襲いました。あなたたちも目の当たりにしたはずです」
「そうですね。確かにこいつは黒人形化してあなたたちを襲いました。いくらフィーニスさまに操られていたとはいえ、それは間違いようのない事実です」
「……っ」
カナンがぐっと拳を握る中、俺は「でも」と続ける。
「生まれた瞬間から〝異端〟だの〝忌み子〟だのと言われ続けてきたら、誰だって嫌になると思いますよ? もしあなたがダークエルフで、里の皆から嫌われ続けてきたらどうです? 憎しみを抱かないと断言出来ますか?」
「それは……」
「別にこいつを擁護するつもりもないですし、エルフの掟に口を出すつもりもありませんけど、ダークエルフは〝災い〟を持って生まれたんじゃなくて、後天的に〝災い〟として作られただけなんじゃないかなって」
「……」
「すみません、傲慢ですよね。俺から言えるのはただそれだけです。こいつの処遇はお任せしますので、俺たちはこれで」
そう言ってエストナに戻ろうとした俺たちだったが、ふいに「お、お待ちください!」とエルフの女性に呼び止められる。
「はい?」
「あ、いえ、その……この度は本当にありがとうございました。申し遅れましたが、私は長の娘でエレインと申します。病床の父に代わり、一同を代表してお礼を言わせてください」
「いえ、お気になさらず。皆さんが無事でよかったです」
俺がそう微笑みかけると、エレインさんは「ありがとうございます」とどこか安心したような表情を見せた後、少々言いづらそうにこう続けた。
「……その、あなたの言葉に関しては皆きっと思うところがあると思います。なのでカナンの処遇についてはどうかご安心を。皆でよく話し合ってみようと思いますので」
「ええ、そうしてもらえたら俺たちも嬉しいです。では」
「はい。お元気で」
再度微笑み、俺たちはエルフの里をあとにする。
余談だが、帰る前に範囲治癒を施しておいたので、たぶん彼女のお父さんも回復していると思う。
まあそれが里にどんな影響をもたらすかは分からないけれど、きっと今のエレインさんならなんとかしてくれるんじゃないかな。
そう思いつつ、俺たちは帰路へと就いていったのだった。
◇
その頃。
エストナではまさかの事態が起こっていた。
「――ふふ、こんばんは……」
「「「「「……っ」」」」」
そう、エリュシオンに首を飛ばされたはずのフィーニスが、完全な姿で聖女たちの前に姿を現していたのだった。




