103 〝拳〟の黒人形
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
シャンガルラはすでに獣化しており、ほかの獣化した人狼たちと激闘を繰り広げていた。
――ぐしゃっ!
「「「うわああああああああああああああああああっっ!?」」」
だが黒人形と化したシャンガルラはほかの人狼たちよりも一回り以上大きく、膂力や速力も段違いであった。
「恐らくは神器が限界以上の力を引き出しているのでしょうね。〝常時月下状態〟とでも言った方が分かりやすいかしら?」
「常時月下状態……。人狼は〝月明かりの下だと戦闘力が数倍に跳ね上がる〟っていう例のあれか?」
「ええ、そうよ。条件がとても限定的だから、それゆえに獣化したエリュシオンにも匹敵するなんて言われていたけれど、まさかこんな状況で目にすることになるとは思わなかったわ」
「とにかく急いで止めないと。わたしが先行するからフォローをお願い」
「ああ、分かった」
頷き、俺はティルナの足場となるよう盾を顕現させる。
「じゃあ――行く!」
どんっ! とそれを蹴り、ティルナがシャンガルラに特攻を仕掛ける中、俺たちは傷ついた人々を救うべく里へと下りたのだった。
◇
「はあああああああああああああああっ!」
――がんっ!
「グガアッ!?」
雷を纏ったティルナの一撃がシャンガルラの顔面にクリーンヒットする。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ぐっ!?」
――どががががががががっ!
だが大して効いていなかったらしく、お返しだとばかりに振った彼の右腕が地面に四本の線を刻んでいった。
とんでもない威力である。
あんなものをまともに食らえば、いくらドワーフの防具があるとはいえ、ティルナのか細い身体などバラバラにされてしまうだろう。
以前、まだ正気だった頃の彼に本気で戦わないのかと問うたことがあったが……なるほど。
確かにあの時この力を出されていたのなら、ティルナは負けていたと思う。
水辺ならばあるいは勝てたかも知れないが、残念ながら戦場は今も雪深い森の中だ。
だから一人ではきっと勝てない。
「おらあっ!」
――どがんっ!
「ギガアッ!?」
でも今のティルナには〝彼〟がいる。
神の炎を纏い、ティルナと同じ籠手系の武器を手にした史上最強の男。
「やるぞ、ティルナ!」
「うん!」
そう、ティルナの大好きなイグザである。
◇
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
――ぶしゅ~っ。
「なるほど。浄化の力が効かないわけじゃないみたいだな」
一撃を叩き込んだ部位が一瞬剥き出しになった後、黒いオーラとともに再生されていく様に、俺はある仮説を立てる。
シャンガルラの今の状態は――ジボガミさまの時と同じなのではないかと。
つまり神器から流れてくる圧倒的な〝汚れ〟に取り込まれている状態なのである。
ならばその〝汚れ〟を全て浄化しつつ、神器をティルナの聖具で聖神器へと変えればいい。
ただアガルタの手によってシャンガルラ自身の命が絶たれている以上、彼を救うことは難しいだろう。
それだけが心残りではあるが、まあ彼も聖者一味として名誉ある死を遂げたのだ。
もし遺体が残っていたのなら、火葬ぐらいはしてやろうと思う。
「「グランドプロミネンスブローッ!」」
――どがんっ!
「グオガッ!?」
左右同時のボディーブローでシャンガルラを挟み込むように攻撃する。
「ティルナ!」
「うん! ――グランドストームシュートッ!」
どぱんっ! と下がってきた顎を砕き上げるように強烈なサマーソルトをお見舞いする。
「ゲ、ガッ……!?」
そして強制的に上を向かされたシャンガルラの顔面に、俺は浄化の炎を纏わせて渾身の一撃を叩き込んだのだった!
「――グランドプロメテウスフォールッ!」




