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92 〝盾〟の聖女


「エリュシオン……っ!?」



 何故あの男がここにいるのか。


 揃って警戒態勢をとる俺たちだったが、どうやら事態はさらに緊迫したものだったらしい。



「――よう、救世主。また会ったな」



「シャンガルラ……っ」



 エリュシオンに続き、次々とほかの聖者たちが俺たちを囲むように姿を現したのである。


 以前ドワーフの里を襲った〝拳〟の聖者――シャンガルラは言わずもがな、同じく〝斧〟の聖者――ボレイオスに、恐らくは〝弓〟の聖者であろう褐色肌の男性と、〝槍〟の聖者と思しき強固な鱗に覆われた尾を持つ男性。


 そして。



「――お久しぶりね、元気だったかしら?」



「あなたはあの時の……」



 港町――イトルで会った占い師の女性だ。


 何故彼女が聖者たちと一緒にいるのか。


 訝しげに様子を窺う俺たちに、女性はふふっと嫋やかに笑って言った。



「改めて自己紹介するわね。私はシヴァ。《宝盾》のレアスキルを与えられし〝盾〟の聖女――シヴァよ」



「「「「「「――なっ!?」」」」」」



 俺たち六人の目が驚愕に見開かされる中、彼女――シヴァはゆっくりと俺の方へと近づきながら言う。



「嘘じゃないわ。ほら、見てごらんなさい」



 しゅうんっ、と彼女の左手に盾のようなものが形成されていく。


 あの光る粒子が形を成していく感じはまさしく聖具そのもの。


 ならば本当に彼女が俺たちの捜していた最後の聖女だとでも言うのだろうか。


 呆然と困惑する俺だったのだが、



「――シールドバッシュ!」



 ――ずがんっ!



「ぐっ!?」



「「「「「イグザ(さま)!?」」」」」



 突如シヴァが攻撃を仕掛けてきて、俺は咄嗟に籠手でそれを受け止める。


 威力自体は大したことなかったものの、いきなり何をするのかと眉根を寄せる俺に、彼女はやはり妖艶に微笑みながら言った。



「挨拶代わりというやつかしら? でもあなたならきっと〝分かってくれる〟わよね?」



「!」



 そこで俺は気づく。


 彼女の攻撃を受けた際、俺の中のスキル――《体現》がシヴァのスキルを模倣していたということを。



 ――《疑似宝盾》。



 七つあるレアスキルの最後の一つだ。


 まさか彼女はこれを俺に……?


 と。



「勝手なことをするな、女狐」



 エリュシオンから叱責が飛ぶ。


 すると、シヴァは肩を竦めながら踵を返していった。



「別に挨拶くらい構わないでしょう? 最初で最後になるかもしれないんだから」



「いいから黙って自分の役割を全うしろ」



「はいはい、分かってるわよ」



 そう嘆息交じりに言って、シヴァは元いた位置へと戻る。


 俺たちを逃がさないためか、等間隔で囲っているようだ。


 だが。



「――おいおい、オレの領域で勝手なことしてんじゃねえぞ、亜人ども」



 当然、フルガさまが声音に怒気を孕ませながら腰を上げる。


 そして祭壇から真っ直ぐエリュシオンの目の前へと降り立った。



「これはお会い出来て光栄だ、雷の女神よ」



「はっ、思ってもねえこと言いやがって。さっさと用件を言え。ただしこいつらに手を出したら承知しねえぞ」



 ばちばちっ、と雷を纏いながら睨みを利かせるフルガさまだが、エリュシオンはまったく臆する素振りを見せずに言った。



「ふむ、やはり立ちはだかるか。では致し方あるまい」



 すっとエリュシオンが腰の太刀に手を添える。



「ほう? このオレとやろうってのか? いいぜ。ならまとめて相手になってやるよ」



 確かな自信があるのだろう。


 不敵な笑みを浮かべるフルガさまだったのだが、



「――いや、あなたの相手は我々ではない」



「あっ?」



 ずんっ、とエリュシオンは地に刀身を突き立てる。


 すると、黒いオーラが一瞬で二人の足元に広がり、



「――うおっ!? な、なんだこいつは!?」



 そこから飛び出てきた何本もの白い腕が、フルガさまの身体に掴みかかってきたではないか。



「「「「「「フルガさま!?」」」」」」



 急いで助けようとするも、いつの間にやら俺たちの目の前には防壁のようなものが張られており、それが〝盾〟の聖女――シヴァの仕業であることを知る。



「そういうわけでしばらく我らが女神の話し相手でもしていてもらおうか。まあまともに話が出来るとは思えんがな」



「て、てめえ……っ」



 ぎりっ、と口惜しそうな視線をエリュシオンに向けるフルガさまだが、どうやらその身体を縛っている拘束は神の力を封じる類のもののようで、彼女は為す術なく大地へと引きずり込まれてしまったのだった。


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