4.連絡
>今日はお疲れ様でした。
<おつかれ
>デート楽しかったです。また一緒に出かけたいです。
スルー(デートじゃねえし。拓郎と遥香には二人で出掛けて貰ってくれ。)
>独り言みたいで嫌です。何か返事ください。
スルー(なんて返事すりゃいいんだ。)
>泣きたいです。
スルー(こりゃスルー推奨だな。)
>。・゜・(>д<)・゜・。
スルー(やべ。)
次の日の朝、学校の校門で香織に捕まった。
「ひどくない、直也くん。わたしのこと、なんて思っているの。」
「委員長。」
平手で顔を叩かれた。泣き顔になった香織は走って校舎に駆け込んでいった。
周りの白い視線が痛い。なんで俺が悪いことになるんだ。連絡先交換なんかするんじゃなかった。俺はため息をついて自分の教室に歩いていった。香織とクラスが違うのは正直助かった。
だが昼休み、遥香に捕まった。
「何があったの、直也くん。」
「何がって何がだよ。」
「香織が朝から眼を真っ赤にして泣いてたし。理由を聞いても言わないし。校門のところで香織が直也くんを叩いたってのは、人伝に聞いたから。何があったんだろうと思った。」
「何もねえよ。」
「何もないはずないでしょ。香織が泣いているんだよ。」
「矢野に聞いたらいいだろ。俺に聞いたってそれが本当かどうか分からんだろうが。」
俺は遥香を振り切った。
放課後は拓郎に捕まった。おまえもかよ。
「何があったんだよ、直也。」
「知るかよ。」
「遥香の機嫌が悪くて、僕に理由を聞いてこいって言うんだよ。」
「女の尻に敷かれているんじゃねえよ。」
「そんなんじゃないよ。でも折角一緒に出掛けた仲なんだから、喧嘩は良くないだろう。」
「連絡先を交換した。連絡が来たから返事をした。朝なぐられた。」
「その三段論法みたいな理由、最後が理解出来ないよ。」
仕方がないので画面を見せた。
拓郎が絶句している。
「これは僕でも駄目だって分かるレベルだよ、直也。」
「ちゃんと返事してるじゃねえか。」
「いや、返事しているうちにはいらないよ。」
「連絡先を教えるんじゃなかったよ。まあ今はブロックしているから大丈夫だけど。」
「鬼畜?直也ってさ・・・。」
「とりあえず田辺に説明できるだけの材料は与えてやったからな。」
拓郎に香織との校門での会話の内容は教えていないがな。部活に行く気も起きなかったので俺はそのまま帰宅した。
次の日、拓郎に言われた。
「次の日曜日空いてる、直也。」
「ああ何も用事はないが。」
「じゃ、4人で出掛けよう。」
「すまん、大切な用事を忘れていた。警察に出頭しなけりゃならなかったんだ。」
「何時に出頭するんだよ。終わってからの予定にするからさ。」
言い訳が拓郎に全然通じてなかった。逆に強引に出掛けることを約束させられた。俺も引け目が少しはあったから、無下に突っぱねることも出来なかった。
でも何が楽しいんだ。誰が楽しいんだよ。
能面のような香織と二人歩かされている。拷問だよ。
俺たちの後ろには、拓郎と遥香が歩いている。
俺たちの間では一切会話がない。
後ろの二人はひそひそ話しをしている。目の前の事態に若干狼狽えている。
そんなもん分かっていたことだろうが。
おまえ達は何を考えているんだよ。
無理矢理日曜日にお出掛けだ。
晴天なのに俺たちの周りだけブリザードだよ。
香織もよく出てきたよな。ひょっとして遥香に騙されたのか。
「なあ。」
返事はない。
「田辺になんて言って引きずり出されたんだ?」
香織は俺のほうは向かない。前を見たまま言った。
「わたしが出掛けたいって言った。」
答えを聞いて仰け反った。そんな答えがくるとは思わなかった。正気ですか。この俺と出掛けたいのですか香織様。
「なんと物好きな。酔狂にもほどがあるんじゃね。」
正直な感想が口から漏れていた。
「お願いだから仲良くしてくれないかな、直也。」
拓郎が後ろから声を掛けてきた。
「無理だろ、拓郎。雰囲気読めてるか。」
「とりあえず香織に謝ってよ、直也。」
拓郎はあくまで俺と香織の間を取り持つつもりらしい。無駄な努力だろう。だが拓郎に言われた俺は一応謝った。
「まあ、このあいだはすまんかった。」
誠意の欠片も感じられない言葉だ。これを謝罪と取ってくれるなら世の中は楽勝だよ。
「わかったわ。これからよろしくね。」
え、何をいっているんだ香織様。俺はまじまじと香織を見つめてしまった。しかし香織は前を見たままなので横顔しか見えない。おかしいな、幻聴かな。
「香織、良かったわね。直也くんと仲直り出来て。」
遥香が仲直りを祝ってきた。ここは狐と狸の村かよ。上手に化かすことが出来たほうが勝ちなのかよ。
「じゃあ、ブロックを解除してよね、直也。」
はあ、これで仲直りが出来たとでもいうのかよ、拓郎。だが俺は素直にとりあえずブロックを外した。
「もう、書き込みなんてしないから。」
やはり香織は前を見たまま言った。俺がブロック解除した意味ってなんだよ。だが続いて出てきた言葉は理解の範疇を超えていた。宇宙人かよ、香織様。
「電話するから。」
たしかにチャット機能だけじゃなくて、電話機能もあるけどな。
「出てくれるまで掛け続けるから。」
怖いよ。助けてくれ。香織様は俺を見ていない。ずっと前を見たままだ。
このままだと危ない。命の危機だ。俺の負けだ。
本気で謝った。でも香織は涙を溜めた状態で俺と視線は合わそうとしなかった。
「泣き顔見られたくないから。」
ぼそっと言っていた。いや、見えているから。あと、泣いているのは自覚しているんだ。
かけ直すから、出るまでCALLは止めてくれと頼んだ。香織様はわずかに頷いたような気がした。気のせいか笑みを浮かべていたようだったが。
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