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3.ダブルデート

「第一回、ダブルデート?」

香織の宣言で始まったお出かけ。天気の良い日曜日だ。ちなみに俺と香織ペアで、拓郎と遥香のペアだ。俺は香織とは同じ高校というだけの見知らぬ他人同士。デートする関係でもなんでもないんだがな。だが宣言も疑問形だし、まあいいかと思った。


行き先は動物園。高校生で行くところかなあと、ちらと思ったが、香織のチョイスらしい。なんで遥香や拓郎の希望じゃないのかと思ったら、香織の話として、あの二人に意見を求めても計画が全く前に進まなかったらしい。香織は、世話焼きおばさんか。


拓郎も遥香も異性と付き合うのは初めてだそうだ。何をどうしたらいいのか分からない。俺と香織に任すと任務放棄してくれた。ちなみに俺は中学時代に彼女らしきものはいた。デートの真似事程度の経験ならある。ただ高校に入る前に自然消滅していたし、高校入学と同時に過去との縁は全て切ったから、当然今はいない。香織は彼氏が居たことはないと言っていた。


俺は引きずり込まれただけで積極的に関与するつもりはない。数合わせ要員だ。結局、耳年増の香織がすべてを取り仕切った。結果的にはそこそこの成果が得られたんじゃないだろうか。遥香と拓郎は満足そうな様子だった。だが全部人任せにするんじゃねえよ。


「香織、ありがとうね。楽しかったよ。」

「良かった。苦労したかいがあったよ。」

「香織ごめんな。僕がもっとしっかりしていたら良かったんだろうけど。」

遥香と拓郎に感謝されて香織も報われたんじゃないだろうか。香織の顔は晴れやかだった。


「またお願いね、委員長。」

「うん。また4人で遊びに行こうね。直也も頼むよ。」

脳天気な二人が軽く言っている。香織の顔が引きつっている。俺もちょっと待てやと言いたくなった。次は二人で行ってくれ。おまえ達は十分馴染んでいるじゃねえか。


「任せておいて。」

だが委員長気質の香織は頼られたら断れないようだ。ちなみに香織は本当にクラスの委員長をしている。性格的には真面目で損な性分だろうな。元々遥香とも単なる友達だったみたいだしな。いまは香織と遥香は親友関係と言えるかも知れんが。


すっかり仲良くなった遥香と拓郎は二人で帰っていった。拓郎が遥香を家まで送っていくそうだ。

「じゃ、お疲れ様。」

俺は香織に挨拶をして帰ろうとした。が、服の裾を捕まれた。

「直也くん、わたしを送ってくれないの。拓郎は遥香を送っていくんだよ。」


俺はちょっと考えた。その発想はなかったな。

「悪かった。家はどの辺なんかな。俺は余所者だから地理には詳しくないんだ。」

「そうなの、無理言ってごめんなさい。」


香織は俺がこの辺の出身じゃないことを知らなかったようだ。動物園デートでは、俺はほとんど事務的な会話しかしなかった。香織はもう少しデートらしい会話がしたいと不満だったようだったが、俺は気が付かぬふりをした。なので俺と香織は、見知らぬ他人から顔見知りの他人程度にしか変化していない。


「まあ、構わないよ。それに女の子を独りで帰そうとするのは、たしかにまずかった。」

「ありがとう。女の子と思っていてくれているんだ。」

「いや、委員長は女の子だろう。」

「その委員長と呼ばれるの、抵抗があるんだけど。」


「いや、悪い。田辺(遥香)が時々委員長って呼んでいたもんだから。」

デートの最中に遥香が香織を委員長と呼んでもいた。香織も普通に返事をしていたから、普通の呼び名だと思っていた。ちなみに香織は、遥香、拓郎、直也くん、と俺だけくん付けで呼んでいる。呼び名で人間関係の距離が分かる。香織視点、顔見知りレベルの拓郎より遠く薄いのが俺だ。


「クラスでも名字で呼ばれるより委員長と呼ばれることが多いの。」

「そうなんだ、委員長と呼ばれるんだ。」

「ときには名前で呼んで欲しいなあって思うこともあるのよね。でも学校だし仕方ないかなとも思うの。」

香織は委員長と呼ばれるのに思うところがあるようだ。


「中学時代も委員長をしていたことがあるから、呼ばれること自体に抵抗はないんだけどね。さすがにデートのときは、相手の男の子からは名前で呼んで欲しかった。」

今日は確かにデートだったよ。でも俺は矢野と名字で呼んでいた。彼氏でもないんだしな。

「好きでもない男に名前呼びされるのは嫌じゃないかな。」


「直也くんなら嫌じゃないよ。」

え、それはどういう意味だよ。

「わたしとのデートは楽しくなかった?」

俺の表情を見た香織は不安げに尋ねてきた。


「楽しかったよ。動物園ってはじめはどうなんだって思った。けど、意外に知らない動物も居ておもしろかった。」

「動物園ね・・・。」

香織は少し複雑そうな顔つきだった。


「わたし、直也くんのことを良く知らない。」

「そうだね。拓郎を通じての知り合いだし、今日初対面と言っていいくらいだしね。」

「もう少し直也くんのことを知りたいんだけど、連絡先教えてくれない。」

連絡先くらい構わないだろう。だが、これは人間関係を作るつもりのない俺の判断ミスだった。香織の希望で俺たちは連絡先を交換した。


香織の家まで歩いて送って家についた頃には日も沈む頃になっていた。

「じゃ、これで帰るね。今日はお疲れ様。」

俺は挨拶をして今度こそ帰ることにした。

「今日はありがとう。またね。」

香織は手を振って俺を見送ってくれた。


誤字脱字、文脈不整合等があれば御指摘下さい。

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