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【行きつく先は】  作者: 野山 佳宏
番外編
35/43

新居

夏の観測会が終わった後、香織が俺の部屋に住みついている。なんか猫を拾ったら懐かれたみたいな感じだ。実家に帰ろうとしない。まあ猫より可愛いし、一緒に居られるのは嬉しいんだが。


「いいじゃない、学校があるわけじゃないし。夏休みの間はここに居るからね。」


宣言する香織が、ふと飛縁魔(ひのえんま)に見えた。俺は幻覚が見えるようだ。疲れているのかも知れないな。


「それに、わたしが居れば、御飯のことは大船に乗った気分よ。」


だが手料理は、壮絶なものだった。遥香に教えて貰って料理のレパートリーが増えたと言っていたが、香織は何を教えてもらったんだ。新しい暗殺方法かよ。いや、あれは暗殺ではなく毒殺だな。



翌日、バイクを飛ばして香織の実家に御馳走になりに行った。香織のお母さんの手料理に俺は涙が止まらなかった。料理ってこんなに美味しいんだ。涙を流しながら美味しいという俺を見た香織のお母さんは、実に済まなそうな顔をしていた。


だがそれを見てむっとした毒殺人形はぼそっと言った。

「わたしの手料理のほうが美味しいわよね。昨日直也は血涙を流して感動していたもんね。」


香織の両親が仰天していた。血涙を流す料理ってどんなものだよ。聞いたことないわ。


そして妲己(香織)は、俺の箸を取り上げて、自分の箸で俺の口に料理を運んできた。自分が嫌いなピーマンとか人参とか。俺の皿に乗っていた肉は自分の口に運んでいた。


そういや天国では長い箸を使ってお互いに食べさせるって聞いたことがあるよな。香織様ルールは一組の短い箸で一人(香織)二人(香織と俺)に食べさせるスタイルらしいが。



その後、香織の部屋で休憩したが、機嫌の悪い人形を宥めるのは割と大変だった。


「俺には香織しかいないよ。」

「香織は最高だよ。」

「香織は・・・。」


用事があって香織の部屋にやって来たお父さんが俺のセリフを聞いていたらしい。


「直也くん、君は香織に何か弱みでも握られているのかい?」


弱みじゃないですね。握られているのは生命線というか命綱でしょうか。しかも香織の手には卸包丁がありますが。


「失礼ね。何を言っているのよ。直也だけを死なせたりしないわよ。わたしはずっと一緒にいるからね。二人で一つ。」


ホラーだな。共に旅立つ日も近いな。遺書作成が必要だ。


「やるのなら白装束で入水よ。むかしの偉い人が言ったじゃないの。海の底にも都がありますよって。あれって竜宮城のことよね。」


水死だな。そして歴史と童話がごちゃごちゃになっているぞ、香織。俺たちは生きて帰れるのか?




一晩お世話になって、更に翌日タッパに入れて貰ったお母様謹製の手料理の数々を持ってバイクで俺の部屋に戻った。当然だが背後霊が一緒だった。


料理は備蓄出来た。当面、死に直面する危険性は立ち去った。俺は心から安堵した。無くなりそうだったら、いつでも取りに来なさいと言ってくれたお母様が救世主(メシア)に見えた。



料理と言う凶器を振り回すことが出来なくなった背後霊は、猫宜しく俺の部屋にマーキングを開始した。要は、部屋の模様替えだ。その結果、俺の部屋は、女の子らしいファンシーな景色になった。


眼がチカチカする。内装のカラーがピンクに統一されている。俺的には全く落ち着けない部屋になった。カーテンやベットカバーがプリンセスになっている。だが背後霊は満足そうだ。


「素敵な部屋になったわ。気に入ったでしょ、直也。」


俺の精神世界を崩壊させる牢獄を建設した香織は胸を張って言った。


どっから資金が出たのか疑問だったが、砂川の爺さんが香織に軍資金を渡していたらしい。好きなように使えと。なんか埋蔵金みたいな感じだな。割と潤沢な模様だ。


極め付けは、俺の机の上に飾られているお内裏様とお雛様だ。香織は、そう呼んでいるが、俺目線では呪いの人形だ。ちなみに香織のお手製だ。


「これも、かわいいでしょ。」


どこから見たらそう言えるんだ。俺には呪術の儀式用品にしか見えん。


俺の部屋は妖しげな占領軍に支配された。


俺が落ち着けるのは、わずかにトイレが残されているだけだ。HPとMPの回復のために籠城していたら、持ち込んでいた携帯が着信音を連発している。


>直也

>何をしているの

>直也

>いつまで掛かるの

>直也

>お話があるの

>直也

()()()待っているのよ


卸包丁が薄いドアを貫いてくるまで、猶予はほとんどないだろうな。俺は諦めて開城して無条件で全面降伏した。




ピンクの布団のうえで、講和会談が始まった。

俺の膝の上に向かい合って座った香織が幸福(降伏)条件を突き付けてきた。

俺の首には香織の腕が絡まされている。

くちびるは眼の前だ。


夏休みが終わったあと、二学期以降についての話だ。


香織の要求を纏めるとこうだ。


毎朝、香織を学校までバイクで送ること。

帰りは学校まで迎えに来ること。

夜は俺の部屋で過ごす。

繰り返し。リピート。


ねえねえ、香織様。実家では過ごされないのですか?

そのルーチンだと、常に俺の部屋というか、占領地に駐屯されるのですか。

占領軍司令官、むかし居たよな。コーンパイプを咥えた男前が。

まあ香織の場合は、地縛霊と言ったほうが適切かも知れないが。


俺の部屋 ⇒ (約30分) ⇒ 香織の高校

往復で1時間は必要だ。

俺の部屋 ⇒ (約10分) ⇒ 俺の高校


香織の登校時間に合わせると、俺は自分の高校にギリギリになる。

下手をすると毎日遅刻だ。

俺も平穏な高校生活を夢見るくらいは許されるだろう。


とりついている地縛霊の浄霊を開始した。

アイテムは盛り塩のみ。

パワーストーンはないし、霊能者に知り合いはいない。


条件闘争の結果、俺は勝利したのか、敗北したのか。

地縛霊は転居を提案してきた。

占領地は香織の実家の近くのマンションに変更となった。


砂川の爺さんは、キーワード「愛の新居」を素晴らしいと絶賛したそうだ。

爺さんにとっては婆さんと住んでいる農家がそうなんだろう。


俺は二学期から香織の実家近くのマンションに住むことになった。

当然だが、ニコニコ地縛霊さんも付いている。

地縛霊って移動出来なかったんじゃないのか。


当然だが、内装は変化がない。

それどころか少しパワーアップした。

トイレもピンクになった。

誤字脱字、文脈不整合等あれば御指摘ください。

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