表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【行きつく先は】  作者: 野山 佳宏
番外編
34/43

香織の手料理

番外編を本編の後ろに移動致しました。

以降は、番外編で少しずつ投稿していきます。

「直也、朝ごはん出来ているわよ。」


香織が俺を起こしに来た。眼をさました俺は香織の手料理に心躍らせながら向かった。だが途中から、違和感というか、異常というか、異変を察知した。



辿りついた食卓は、なぜか焦げ臭いにおいが漂っていた。


例えるなら、そう火事場現場の跡と言えばぴったりだろう。


空気も息苦しく視界が煙っていたのも気のせいではない。


正面にいる香織が霞んで見える。



防塵防毒マスクの常備が必要な環境だ。


電気機器はIP68の保護等級が要求されるだろう。


窓が全開で換気扇がフル活動していてなんでこんな状況なんだ。



俺の視線の先には香織が朝ごはんと言った物体が並んでいた。



白い皿の上に、黒い四角の物体


白い皿の上に、中心が少し盛り上がったようにも見える丸い黒い物体


白いボールの中に、黒い何か枝のような繊維のようなものが絡み合った物体


白いマグカップの中に、黒く泡立つ濁った液体



香織、おまえ何を作ったんだ。



「何をって、ごく普通の朝ごはんよ。トーストに目玉焼き、サラダにスープよ。」



霞の向こうから声だけが聞こえる。



おまえは黒魔術の魔女か?



黒い四角の物体、これがトーストか。まあ焼け焦げた上に炭化しているが、四角という面影だけは辛うじて残っているようだ。



よし認めよう。これはトーストだ。食べてみよう。この黒い墨みたいなのものを塗るのか。そうだな、味は、何の味もしないというより、単なる炭だが。




丸い黒い物体、これは目玉焼きか。どうやったら原型をとどめて此処まで焦がすことが出来るのか。俺にはそっちの技術のほうが知りたい。ちなみに香織は半熟とかいう言葉は知っているか。



まあでも折角作ってくれたんだ。これは目玉焼きだ。食べよう。味は、軟らかいというか、やはり炭だ。水で流しこもう。




黒い絡みあった物体、これがサラダか。しかし黒いサラダというのは人生初の体験だ。香織と一緒にいると新鮮な体験が出来るようだな。だが、新鮮というより、斬新、奇抜と言ったほうが形容詞としては正しいだろう。



で、この繊維はなんだ。夏草冬虫。あまりというか、まったく食欲の沸かない高級素材が使われているな。何処で手に入れて来たんだ。俺はレタスとかレタスとかレタスが好きだ。



いやそんな顔をするな。というか右手に鈍く光る50cm程の物体はなんだ。卸包丁尺5ってなんだよ。俺に向けるな。落ち着け。俺が一番好きなのは香織だ。



ふう、鈍く光る物体は棚に仕舞われた。言葉には気を付けないとな。レタスに嫉妬する女がいるとは。しかし卸包丁がなぜ我が家にあるんだ。どっからもってきたんだ。



黒いのは何でた。イカ墨パスタにヒントを得たとな。イカ墨の量が分からず、あるだけ混ぜたとな。ボールに半分ほど、墨汁が溜まっているのはそういうことか。



で、やはり味が全くしないのだが。味付けはイカ墨だけで十分だと思ったとな。なるほど。これは炭ではなく墨の味か。座布団を全部取り上げろ。もう吐き気を通りこしてきているぞ。




最後の黒い濁った液体はなんだ。液体を泡立てると味がまろやかになると聞いたとな。ふむふむ。で、はちみつを泡立ててみたと。



もともと何のスープを作っていたんだ。身体によいと思って薬膳スープをチョイスとな。先ほどと同じく夏草冬虫、スッポン、アワビを混合したと。そして、よく火を通した方が安全だと思った。



煮立っていてとても飲めたものじゃないんだが。これは沸騰とか、蒸発しかけとか。



香織よ、なぜそんな捨てられた子猫のような目線で見ているんだ。呑むまで待っているのか。呑むしかないか。わかった。呑む。



人間死ぬ気になれば、死ぬと思うんだよな。6文銭の用意はしてあったかな。




しかし、お前は俺に恨みがあるんだな。そうだな。毒を盛りたいという気があったんだよな。思い出した。弁当の恨みだな。





「直也、昼ごはん出来ているわよ。」


香織が俺を呼びに来た。俺は朝ごはんを思い出して恐怖が蘇った。だが行かないわけにはいかない。屠殺場に向かうドナドナの気分が体験できる。



朝の煙はかなり排気されたようだ。


換気扇がずっと動いていたからな。


呼吸がかなり楽になった。


涙も出なくなったからな。


それだけでも光がさす。



そして皿の上には、楕円形の盛り上がった黄色い物体に赤い粘調な液体でハートマークが描かれている。おおまともなようだ。なぜか涙が出てくる。煙がなくなったのにな。



これは俺にも判別可能だ。俺の知識の本棚にも同じものがある。物体は一つしかないが、はんぶんこ、だな。可愛い香織。



「香織、これはオムライスかな。」


「そうよ。それ以外の何物に見えるの。」


「いや、悪い。確認しただけだ。」



俺は安堵した。昼ごはんは可食物だ。俺と香織は手を合わせて合唱した。



「「いただきます。」」



さてと、スプーンを持って食べようとした。



なあ香織。俺の眼の錯覚かな。


ハイカロリーというか、これ何キロカロリーくらいあるんかな。


一食で摂取出来るようなレベルじゃなくね。


サイズが通常の4倍くらいあるんだが。


皿と思ったのは、皿だが、大皿だよな。これは。



「おかしいわね。ちゃんとレシピ通りに作ったのよ。」


材料:4人分


香織の手元にあるレシピに記載がある。



「4人分だよな。」


「そうね。」


「4人分だよな。」


「そうね。直也なら大丈夫よ。」


香織は笑顔で乗り切ろうとした。





「直也、晩ごはんは何が食べたい。」


香織が尋ねてくれた。正直、腹がいっぱいで気持ち悪くて何も食べたくない。



だが、そんなことを言えば、香織が泣くか、俺が刺されるか、究極の二択だな。



選択枝は二つだが、答えは二個選択しなさいという問題らしい。うん。何か答える以外、俺が生き延びる道はない。



「そうだな。あっさりしたものがいいな。うん、刺身なんてどうだろうか。生きの良い魚なんか良くないか。」



我ながら良い答えが出せたと、その時は思っていた。



「じゃあ、お買い物にいってくるわね。」


香織は財布を持って買い物に出掛けた。



俺は、香織が出かけている間に、朝ごはんと昼ごはんで使用した、食器と食卓を滅菌洗浄した。念入りに。窓は全開のまま、換気扇をフル活動。ついでに部屋の掃除をしておいた。





「直也、晩ごはんが出来ているわよ。」


香織が呼びに来た。俺は昼寝をしていたようだ。時刻を確認する。もう少しで日付が変わる時間だった。香織は一体どんな料理を作っていたんだろうか。



「買い物に時間が掛かったんだな。こんな遅くまですまん。」


俺は買い物に時間を掛け、料理に時間が掛かったのだと思い、香織に御礼を言った。



「たいしたことはしていないわよ。そんな大げさよ、直也。」


香織は笑顔で答えてくれた。



だが香織の10本の指から肘までが包帯で白くなっていた。その包帯はところどころ赤くなっている。何があったのかは考えないようにした。



食卓の上には大皿があった。その上には赤い物体が載っていた。


「直也の希望で刺身にしたのよ。魚屋さんで生きのいい魚っていったら、魚じゃないけどエイが入っているからって勧められたの。」



香織はアカエイを購入したらしい。


「奥さん、捌けないなら捌くけどって言われたけど、卸包丁があるので、出来ますからってそのままもらってきたの。」



「奥さん、だって。奥さん、だって。奥さん、だって。」


壊れたレコーダーがそこには居た。



で、大皿の上には、ぶつきりにされた赤い物体があった。哀れなアカエイの末路だった。一つ間違えたら俺もこうなるんだなと、気を引き締めた。



晩御飯は、アカエイ一択だった。アカエイしかなかった。量だけは十分だった。




香織、明日は、香織の実家で香織のお母さんの手料理を御馳走になりにいこう。頼むから。お願いだから。香織様。お願いします。俺、電話して頼み込むから。

誤字脱字、文脈不整合等あれば御指摘ください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ