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23.負け試合

俺達は控室に集まっている。もうすぐ試合が始まる。試合前の顧問の話は簡単だった。


「頑張れよ。怪我はするなよ。」


いつものことだ。俺達は慣れている。だが香織はびっくりしていた。まあなスカウティング公表も何もない。ただそれは既に昨日のうちに終わっているからだ。俺達の頭に叩き込んであるから今更何もしない。


まあ分析結果は負ける予想だが。俺たち寄せ集め軍団が、常勝を歌われる北脇先輩の率いるチームに勝つのは、勝利の女神を買収でもしないと難しい。


「はい。これ香織のユニフォームね。誰も着てないから綺麗だからね。」


うちのチームのマネージャーがいたずらっぽく4番のユニフォームを香織に渡す。ちなみに香織はジャージ姿だ。試合の応援だから、ラフな格好で来ていた。ちょうどいい。


「え、なんで、というかキャプテン番号じゃないの。」


「うん、そうだよ。普通はね。でもうちは普通じゃないから、キャプテンは15番を付けているの。」


「15番フルバックって恰好良いじゃないか。」


当のキャプテンは自分の番号が気に入っていると公言していた。そりゃラグビーだよ。


「でも、なんで私に。」


「うちの選手はなんと10人。全員ベンチ入りしても余裕があるの。背番号が余っているのよね。そしてマネージャーが香織を入れて3人。」


「え、わたし、マネージャー?」


「香織もベンチ入りするんだし、背番号をつけようよ。登録はしてないから4番を付けていても問題なし。もちろん試合には出られないけどね。」


「そうそう香織って現役のバスケ選手でしょ。スコア付けお願い。私達は良くわかってないのよね。」


うちにいるマネージャーの一人はキャプテンの彼女だ。チームに華が欲しいと言って、バスケのことは何も分からないという彼女をマネージャーに据えたのはキャプテンだ。そして彼女こそエースだと7番を付けさせている。ある意味、キャプテンは超のつく変人だ。


それを知った俺と同じクラスのパワーフォーワード、こいつは10番を付けている。中学時代からサッカーをやっていた。今も現役のサッカー選手だ。だから背番号は10番が最高だと言っている。こいつも自分の彼女をマネージャーにした。ちなみに本来のパワーフォーワードの8番は彼女が付けている。


一応、彼女たちはチームのマネージャーをしてくれているが、99対1で彼氏の世話をしている。そしてバスケのルールを知らないのでスコア付けなど出来ない。彼氏の好みは記憶しても、バスケのルールは覚える気もない。必然的にスコア付けはベンチにいる試合に出ていないメンバーの仕事だ。


「わたし、違う高校だよ。ベンチになんか入っていいの。」


「直也の彼女なんだろ。なら資格は十分だ。うちのチームのマネージャーは選手の彼女が条件だからな。」


やけくそ気味に唯一の2年生正規バスケ部員の副キャプテンが言う。副キャプテンは彼女がいない。でも割とまともなほうだ。ちゃんと5番を付けているポイントガードだ。


「いいの、直也。」


「いいよ、香織。お前も一人で居るのは寂しいだろう。俺もお前が傍にいてくれたら嬉しいからな。」


俺のセリフに香織の顔が紅くなる。マネージャーの二人がにやにやしている。顧問は溜息をついている。キャプテンとパワーフォーワードは大きく同意している。香織はベンチいりを承諾した。


「指揮も頼んでいいかな。」


溜息をついていた顧問がちょうど良かったと香織に仕事を丸投げしていた。香織は即席のマネージャー兼コーチに就任した。



試合前のアップを始める。ノックアウトだ。指揮を頼まれ、やる気の香織も参加だ。ジャージの上に4番のユニフォームを着ている。ユニフォームは男子用だから大きさには余裕がある。足元はもともとバッシュで来ている。


「じゃあ、先頭はキャプテンね。」


「キャプテンのボールを叩き出して、香織。」


二番手の香織に7番マネージャーの声援が飛ぶ。


キャプテンの一投目は外れた。自分でリバウンドを取って再度シュートする。そこに上手く香織のシュートが飛んできてノックアウトする。いきなりキャプテンは脱落した。


「いきなりノックアウトされてんの、情けないわ~。」


指示をしたキャプテンの彼女7番マネージャーがケラケラ笑っている。


最終的に勝ったのは俺だった。俺に負けた香織は悔しそうだった。

なので俺に1on1を挑んできた。


だが香織は卑怯にも「激しかったわね、直也。」を耳元で連発して動揺を誘って俺のシュートをダメにしていた。俺も未熟だ。



北脇先輩のチームとの試合が始まった。俺達のチームの戦術はラン&ガンのみだ。というかランと肉弾戦だ。競り合いは得意だが、ちょっと間違ったらラグビーかサッカーになる。それとキックボールは相手ボールだぞ。


香織はスコア付けをしながら、俺たちに指示を飛ばしている。先手必勝だ。集中的に俺にボールを集める。自然にシステムのスタイルになる。


香織は点差を把握しながら、冷静に指揮を執り続けている。コーチの面目躍如だ。香織に指揮を任せた顧問は満足そうだ。


俺たちのチームは元々バスケ部員は1人しかいなかった。あとはサッカー選手に陸上選手、ラグビー選手だ。かき集めてバスケ部メンバーにして力づくで地方大会まで勝ち上がってきた。コーナーキックも持久走もスクラムもないバスケの試合だ。1年生のバスケ経験者が加わってもチームの総合力には限界がある。


俺の3ポイントシュートを最大限駆使しても、北脇先輩と後輩のペアを引き離すことが出来ない。彼らは大きく成長していた。後輩は俺と競り合うかのように3ポイントシュートを決めてくる。2点vs3点というシステムの最大のアドバンテージが有効に働かない。相手もシステムの理論を熟知しているからな。


体力でも負けているようだ。北脇先輩は鬼のようにチームを扱いたんだろうな。全く動きの止まらない試合に、先にこっちのメンバーのスタミナが切れかけてきている。陸上選手はまだ負けていないが、サッカー選手とラガーマンは足が止まってきている。すかさず迷いなく1年生を投入する香織。スタメンが休憩して回復したら容赦なく再び戦場に叱咤激励付きで送り込んでくる。


戦術面でも相手は見事だ。大事な局面できれいなファウルを決めてくる。ほれぼれとする。タイムアウトを取って態勢を立て直そうと香織は頑張っている。だが相手チームのコーチとは経験の差が大きいようだ。


でも香織は今日ついさっきいきなり任命された指揮官だからなあ。経験の差ってなんだよってところだよな。笑いが出てくる。


最終的に俺たちの敗北だった。だが負けても晴れ晴れとした気分だった。正面から正々堂々と戦って負けた。指揮官として過去最高のゲームメイクが出来た香織も笑顔だった。今の自分では勝てないと。俺たちの連携にも問題はなかった。


「みんな、おつかれさま。わたしたちに今出来る最高のプレイをしても勝てなかった。だから恥じることはないよ。また次にさらに強くなって勝てばいいんだからね。」


俺たちは北脇先輩のチームと礼をして試合を終えた。

誤字脱字、文脈不整合等がありましたら御指摘下さい。

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