22.ホテル
俺は、香織を連れてホテルの部屋に戻った。俺たちの高校のチームが宿泊しているホテルだ。俺はツインルームを確保して一人で使っている。
「誰と泊まっているの、直也くん。」
「俺一人だよ。シングルだと狭いからツインにしてシングルユースにしている。」
「そうなんだ。てっきり誰かと一緒かと思った。可愛い彼女さんとか。」
香織は居もしない相手に嫉妬から俺に嫌味を言っている。
「彼女なんかいないよ。なんで無実なのに、怒られなけりゃならないんだよ。」
俺が笑いながら言うと、香織は拗ねた顔で言った。
「だって。ベットが二つだもん。悪いのは直也くん。」
「へいへい。そっちは使ってないから、そっちに座ってくれたらいいよ。」
俺は使っていないほうを香織に勧めた。
「汗かいているし、シャワー浴びてくるわ。一緒に入るか?香織。」
「バカ、そんなの無理に決まっているでしょ。」
香織の声に元気が戻ってきている。しかもフランクだ。
「分かっているよ。冗談だよ。言ってみただけだよ。」
俺は香織をからかうとバスルームに向かった。
俺がバスルームに向かった後、香織は独りベットに座っていた。
「一緒に入るか、だって。」
うつむいて香織は考えていた。
「直也くんはどういうつもりなんだろう。というか、わたしはどうしたいかな。」
「うん、後悔はしたくない。後悔するとしても、わたしのしたいようにして後悔したい。」
自分で自分に言い聞かせるように香織はひとり言を言った。胸がどきどきしている。だが決意した香織は着ているものを脱ぎ始めた。せめてと脱いだものはベットの上に綺麗に畳んで置いた。
俺がシャワーを浴びていると、バスルームのドアが音を立てて開いた。風でも吹いて開いたのかと思った俺が振り向くと、何も身につけていない香織が立っていた。
「はずかしいから見ないで。」
消えるような声で言った香織は小走りに俺に近付き抱きついて胸に顔を埋めてきた。やわらかい香織の身体からは仄かな香りが立ち上っていた。
俺はすべすべした肌の白い香織を両腕に抱きしめた。そして、おもむろに俺たちは口と口を合わせて、二人の気持ちをお互いに確認していた。真っ赤になった香織は俺の成すがままだった。
掛けていた目覚ましがなる。一時間くらいは寝ていたようだ。俺は横に寝ている香織の顔を眺めながら時間を確認した。
可愛い寝顔の香織は俺の左手に抱きついている。俺の腕に指の跡形が付いている。前にもこういうことがあったな。なんでそこまで力を入れるんだろう。
だが、そろそろ準備をしないとダメだ。香織を起こそうと思っていたら、香織が自然に眼を開けて起きてきた。
「目が覚めた?香織。」
「うん、直也くん。」
俺は香織にキスをする。香織が応えてくれる。
「ねえ直也って呼んでもいい?」
「むしろ呼んでくれたら嬉しいよ、香織。」
「ふふ、嬉しい。直也も香織って呼んでくれているしね、直也。」
香織は一音一音を確かめるように直也と呼んだ。
「直也。」
「ん、なんだ、香織。」
「大好き。」
「俺も大好きだよ。」
香織は俺に抱き着いてきた。柔らかい温かいものが俺に触れる。俺は香織を抱き締め返す。
「これまで本当に悪かったな、ごめんな、香織。謝ってすむことじゃないけど。」
「本当だよ。でも許してあげる、大好きな直也。これからは行動と態度で示してね。」
俺の謝罪に香織は笑顔で答える。
「それと順番があれだけど、俺と付き合ってくれるか、香織。」
「もちろんだよ。これで捨てられたら泣くよ。」
「捨てたりなんかしないよ。」
だが香織は泣き出した。
「なんで泣くんだよ。」
「うれしいから。」
「はいよ。そうですか。」
少しふざけた様子の香織は俺に身体を擦り付けていた。香織の肌のぬくもりが直接俺に伝わってきた。
時間が無限にあるわけでもない。いつまでもベットでいちゃついてもおられず、一緒にシャワーを浴びた俺たちは準備を整えた。
「ホテルのカフェで軽く食べてから行くわ。」
「お腹ふくらまして大丈夫なの。これから試合でしょ。」
「エネルギーを補給しておかないとな。ちょっと派手に使ってしまったからな。」
俺が笑いながら言うと、香織が顔を紅くしながら俺にキスをしながら言った。
「バカ、直也。」
香織と俺は紅茶を飲みながらケーキを食べて試合のある県立体育館へ戻った。
香織の口にケーキを運ぶのは俺の役目だった。もちろん俺の口には香織が運んでくれた。
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