14.関わり
香織が俺のバイト先に客としてやってきた。空いていた時間でもあり、カウンターに居た俺と話をしている。頼んだ商品が出来るまでの時間だ。
「この間はありがとう。」
「なにが?」
「シュートを教えてくれたじゃない。」
「あんなもの教えたうちには、はいらないだろう。」
「そんなことないよ。わたしは嬉しかった。それと直也くんの言うとおりにリングの上を狙うのと、見せてくれたフォームを真似ることで成功率が上がったよ。」
「そうか、それは良かったじゃないか。」
「また試合があるの。今度も見に来てくれない。」
「1回だけと言っただろう。だからもう行かないよ。」
「そんなこと言わないで、お願い。」
「悪いけど、行かないよ。エースに見に来てもらえよ。」
「なんでエースの話をするのよ。」
「いや、当然だろ。エースに悪いだろ。俺は邪魔者だよ。」
「この間の練習試合、エースは友達と遊ぶ約束があるからって来てくれなかった。」
「そりゃ、残念だったな。でも、もう一度頼んでみたらいいんじゃないか。」
「エースはエース。直也くんとは別。それに、わたしはエースに見てほしいとは思わない。」
「エースのほうがバスケは分かるんだし、そっちのほうがいいだろう。」
「直也くんも、バスケ詳しいよね。」
「いや素人だよ。」
香織は俺の言葉を信じていないようだった。
「ねえ、香織って呼んで。」
「なんで。」
「なんででも。この間、1回だけ自然に呼んでくれたじゃない。」
そういえば、シュートを教えたときに、下の名前で呼んでしまったな。
「好きでもない男に・・・。」
「好きな男の子だよ。」
俺は墓穴を掘ってしまった。ちょうど商品が揃ったところだ。
「お待たせいたしました、香織。」
嬉しそうに香織は受け取って、素直に席について俺のほうを見ながら食べていた。
ある日、香織がエースと俺のバイト先に客としてきた。エースと俺は面識がない。だからエースは俺には気が付いていない。それとエースは注文をするだけしたら、あとは香織に任せて席に座って待っていた。
「デートか。」
「違う。なんでそんなことを言うの。」
香織が少し怒った顔をしている。
「いや、付き合っている男と二人なんだし、デートだろ。」
たまたま今日は部活が終わった時間が一緒で、エースに誘われて二人で帰ることになったらしい。
「直也くんに、エースと二人で居るところを見られたくなかった。」
「なんで。」
「なんででも。」
「なら、この店に来るなよ。」
「お腹が空いたからファーストフードに行きたいってエースが言ったから。」
まあ高校からの帰り道に寄りやすい位置にあるからな。
「エースと仲良くしたほうがいいんじゃないか。」
「嫌い、直也くん。」
香織は商品を受け取って席に向かった。
「3ポイントシュートよりダンクだろう。」
エースが香織に語っている。香織がシュートの話をしたときのことだ。
「片手ダンクを綺麗に決めるのが最高だぜ。」
エースはダンクが出来る。ただ高校生のするダンクなのでギリギリダンクになることが多い。
「そうだね。」
香織は彼氏の話に合わせている。
「香織はポイントガードだし、そもそも女子はダンクはしないだろうけどな。」
エースが上から目線の言葉を吐いている。会話でも割と一方的に言いたいことを言っている。食べ終わった二人は、店を出て行った。ゴミの片付けは香織一人でしていた。
家に帰ると、しないと言っていた書き込み連絡が香織からあった。それも大量だった。
>今日はごめんなさい
>エースに告白されて、遥香に言われたこともあったし、直也くんのことを忘れるために付き合うことにしたの
>でも、直也くんのことを忘れられたわけじゃない
>直也くんが好きなのは変わらない
>むしろもっと好きになった
>エースはいきなり香織って名前を呼び捨てで呼ぶようになったの
>付き合うようになったんだから名前呼びがふつうだろうって
>なかなか呼んでくれなかった直也くんとは違う
>でもエースに名前を呼ばれても、わたしは嬉しくない
>直也くんの前でエースに呼び捨てにされたくなかった
>反対に、わたしはエースの名前を呼ぶのには抵抗がある
>直也くんなら、「直也」って呼んでいいのなら呼びたいけど
>好きな直也くんに、エースと一緒にいるところは見られたくなかった
>直也くんに、エースと仲良くしていると思われたくない
>エースは確かにバスケは上手なんだとおもう
>だから自信があるんだと思う
>自分のやることが一番のような話をする
>だからシュートでもダンクが一番
>でも、わたしは直也くんの3ポイントシュートが一番だと思っている
>直也くん、大好き
香織は俺に何を求めているんだ。いや分かっている。俺は分かっているのか。だが応える気がない。俺は応える気がないのか。
<俺のことは忘れて、香織が幸せになってくれるのが一番だよ。
香織は返事を見ながら涙を流して泣いていた。
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