12.課題テスト
夏休み明けにはテストがある。どこの高校でもたいていあるだろう。夏休みに出された宿題を普通にやっていれば基本的には問題はない。成績一覧の上位組は、職員室前に張り出される。俺は今回調子が良かった。なんと3位になっていた。過去最高記録だ。授業料免除と奨学金の資格が維持出来て俺的には満足だった。なので成績一覧を詳しく見ることはなかった。
久しぶりの部活だ。俺は夏休みに一度も部活に顔を出していない。拓郎は時々来ていたそうだ。
「よう久しぶりだな、拓郎。」
「ああ、久しぶり、直也。元気みたいだね。」
「ああ元気だぜ。拓郎はどうなんだ。」
「僕もかわりないよ。」
拓郎は望遠鏡の整備をしながら答える。9月になったところで気温はかなり高い。冷房がいつも効いているわけでもない天体観測室だ。望遠鏡の温度が上がって使い物にならなくなっている。
「今日は難しいな。これじゃ星を見るのは難しいよ。」
拓郎がぼやいている。
「まあ仕方ないんじゃないか。気温はしばらくしたら下がっていくだろうからよ、拓郎。」
「そうだね。仕方ないよね、直也。」
拓郎も諦めている。
「話は変わるけど、課題テストの成績良かったね、直也。」
「ああ、頑張ったかいがあるよ。」
「夏休み中、バイト尽くしだったんだろう。良く勉強出来たね。」
「まあな。でもバイトって言っても、自由になる時間も割とあったからな。宿題も勿論しっかりやっておいたしな。」
「そうなんだ。その結果があれなんだね。でもその日焼けを見ると、海で泳いでも居たんだよね。」
拓郎が俺の顔を見ながらいった。俺の顔は日焼けで結構黒くなっている。バイトで焼けたというのもあるが、海で泳いだせいなのもある。
「日焼けはバイトで焼けたのもあるよ。」
「そうなんだ。バイト楽しかった?」
「ああ、楽しかったよ。ばっちり稼げたし、そこそこ遊べたしな。」
「遊んだのは、バイト仲間と?」
「ああ、そうだよ。出掛けるのは無理だから、バイトしているのと同じ場所でしか遊べなかったけどね。」
「バイト仲間には女の子も居たの?」
「居たよ。」
「そうなんだ。仲良くなったの。」
「いや、仲良くというほどじゃないな。休憩時間が合う人と遊んでいたからな。特に仲良くなった人はいないよ。」
「そうかあ。」
「拓郎は、夏はどうだったんだ?」
「いろいろあったかな。」
「そうか、遥香と何か進展はあったんか?」
「え、進展ってなにさ。」
拓郎が少し狼狽えている。俺は笑ってきいた。
「何かあったんだな。」
「いや、あったというか・・・。」
誤魔化そうとした拓郎を追いつめて、遥香とキスをしたということを聞き出した。
「青春しているじゃねえか、拓郎。」
「そんなんじゃないよ。」
「じゃ、なんなんだよ。遥香の水着も見たんだろ。」
「見たよ。」
「で、どうだったんだ?」
「勘弁してよ、直也。」
俺の意地悪い質問攻撃に拓郎が白旗を上げる。
「でも、というか、僕たちのことは置いておいて、香織のことは気にならないの?直也。」
「いや、今のいままで忘れていたぞ。」
俺の返事は拓郎に衝撃を与えたようだ。
「そうなんだ。」
「矢野がどうかしたのか?」
「いや、結局ダブルデートしたんだ。」
「ほうほう。」
「でも香織のテンションが低くてね。いや低いというほどではなかったとかもしれないけど、無理に上げていた気がした。ただエースはそこあんまり気にしてなかったみたい。よく言えば鷹揚、悪く言えば気が利かないだね。香織が色々気を配ったことに対しても当然って感じだった。だからデートの結果自体はどうなのかなって感じかな。」
「そうか、最初はそんなものじゃないか。そのうちうまくいくんじゃないねえか。」
「そうならいいんだけどね。で、それ以上は進展なし。夏休み中、香織はバスケの練習ばっかりしていたんだよ。女子バスケは合宿もあったんだけど、それ以外も自主練習をずっとしててさ。エースとバスケをしたりもしていたけど、一緒に出掛けるのはなかったなあ。」
香織はバスケで青春していたようだ。それはそれで良かったんじゃないだろうか。
「バスケと言う共通点があるんだから、時間を掛ければ矢野もエースと仲良くなっていくんじゃないか。」
「それは確かにあるかな。話は結構するようになっているからね。」
「なら、心配することはないじゃないか。」
「まあそうだね。ところで、バスケの試合に興味はない?直也。」
「俺はバスケの試合を見る趣味はないぞ。」
「だめかあ。実は香織は夏の間、頑張ったこともあってレギュラー入りしているんだよ。」
「そうか、良かったじゃないか。矢野も喜んでいるんじゃないか。」
「そうだね。頑張ったかいがあったと言っていたよ。で、次の練習試合は、うちの高校であるんだよ。もしよかったら見に来ない。」
「遠慮しとくよ。土日はバイトが入っているからな。」
「そんなこと言わずにさ。」
「俺はバイト優先だよ。」
「そこをなんとか。」
「無理だよ。」
「う~ん、分かった。ところで話は変わるけどさ、直也ってさ、バスケ得意だよね。」
「そうか、そんなことはないと思うけどな。」
「いやでも、体育でバスケしているときの直也って生き生きしていると思うんだよね。」
拓郎と俺はクラスこそ違うが体育は合同になる。拓郎の観察眼は侮れない。無限の天体を時間を掛けて眺めて、星を見つける能力は伊達じゃないようだ。
「そうなんか。俺には分からんなあ。第一俺はバスケで活躍しているとは思わないよ。」
「うん、確かに活躍しているって感じじゃないよね。でもね、シュートの成功率はズバ抜けて高いと思う。僕が見ている限り直也がシュートを外したことはないと思う。」
拓郎、見ているなあ。動きは控えめにしていたが、わざとシュートを失敗するという考えはなかったからな。全部成功させていたのは不味かったな。
「たまたまじゃないかな。俺はシュートがそんなに成功しているとは思ってないけどなあ。拓郎が観てないところでは失敗も結構していると思うよ。たぶん拓郎の身内びいきじゃないかな。」
俺は拓郎をそんなことはないよという結論に誘導していた。
「それに俺は文化部でスポーツは得意じゃないよ。」
「まあ文化部というのは否定できないね。そうかなあ。まあ直也がそういうならそうなんだろうね。」
なんとか拓郎は鉾を収めてくれたようだ。今後気を付けないとな。
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