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11.夏休み

香織は結局バスケ部エースと付き合うことになった。遥香は香織とバスケ部エースの仲を熱心に応援しているらしい。そのせいで遥香と俺の人間関係は薄くなっている。遥香は香織とエースの関係を進展させるために、自分達のときのことを重ねて拓郎にダブルデートを提案した。拓郎は少し考えて香織さえ良いのなら構わないと返事をした。遥香に聞かれた香織はしばらく考えていたが、分かったわ、と賛成したそうだ。幸あれ。


俺は自分が意地を張っているのは自覚している。名前が変わったこと、名前が変わることで、人間関係を築くことの無意味さ、無意味だと思い込みたいのかも知れない。だが踏み出した脚は還らない。前に進むのみだ。


俺はバイトに明け暮れている。夏は稼ぎ時だ。いつものバイトだけじゃなくて、臨時に入れたバイトも多い。8月になってからは、いつものバイトを休みにして泊まりこみのバイトを入れている。泊まりこみだと24時間の仕事になるから給料が余計に増えるのが理由だ。休憩していても拘束時間になるからな。ただ、その分しんどいのはしんどい。


8月のある日、俺は休憩時間にテレビを見ながらお茶を飲んで休んでいた。バイト仲間も一緒に休憩している。仲良くなった男子大学生だ。

「直也は高校生なのに、バイトばっかりで大丈夫なんか。」

「大丈夫って何がですか。」

「いや、高校生なら夏は遊びたい盛りだろう。」

「先輩も大学生だし遊びたいんじゃないんですか?」

「俺はいいんだよ。大学生ってのは、夏休みが終わっても遊ぶのはいくらでも出来るからな。」

「そうなんですか。」

「そうだよ。9月になったら授業も始まるけど、出席日数を計算しておけば休んでも問題ない。まあギリギリになるようなことをしていると不意の休講なんかで足りなくなって単位を落とすこともあるんで危ないけどな。」

世の中の大学生というのは、学業より遊びがメインらしい。そうじゃない大学生もいると思いたいところだが。

「まあ、俺は稼がないとダメなんで、遊ぶよりバイトですね。」

「大変だな。でも、ここに居ても遊べるのは遊べるから、遊べるときには遊んだほうがいいぜ。仕事ばっかりだったら息が詰まるからな。」

毎日24時間拘束はされていても24時間仕事があるわけじゃない。休憩時間だけじゃなくて暇なときには適当に遊ぶことも出来る。遊び相手もバイト仲間が沢山いるので困らない。バイト仲間は大学生が主体だが、高校生もいる。

「明日は、海に行って遊ばないか。」

「ええ、良いですね。一緒させてください。」

「よっしゃ、決まりだ。じゃあ今日の仕事をとっとと終わらせて、遅番に引き継ごうぜ。」

俺達は仕事をちゃっちゃと終わらせて遅番に引き継いでベットにダイブした。


綺麗な白い砂浜が広がる海水浴場は人でいっぱいだ。だが俺達は仕事場から出撃するので、パラソルも何も要らない。全身に日焼け止めを塗ってラッシュガードをかぶって海に飛び込んだ。遊びに行こうと誘ってくれたお兄さん大学生の先輩と、今日時間のある仲間が居る。呼ばれたら戻らないとダメだが、呼ばれるまでは遊べる。


「結構引き締まった身体してるじゃないか、直也。」

「そうですか。」

「なんかスポーツやっているのか?」

「何もやってないですよ。部活は理科部天文班ですしね。」

「なかなか渋い部活やっているな。」

「夜空の星は綺麗なものですよ。」

話をしながら泳いでいる。バイト仲間の女子大生の先輩がビーチボールを持ってきた。立ち泳ぎしながらボールを打ち合う。風に流されてとんでもない方向に行くこともあるが、泳いで取りにいってはやり直す。


「ふう、疲れた。ちょっと休憩。」

ビキニのお姉さん女子大生は結構スタイルが良い。

「何か持ってきましょうか。」

「アイスクリームお願い、直也くん。」

「俺はビール頼むわ、直也。」

「ほかは何がいいですか?」

「なんか喰いもんが適当にあれば頼むわ。」

「了解です。」

俺は頼まれた品物を後払いでバイト先から持ち出して、浜辺に戻る。


「いやあ、浜辺で飲むビールは格別だな。」

「飲み過ぎないでよ。仕事にならなくなったら大変だから。」

「分かっているよ。」

ビールを飲むお兄さんが言う。アイスクリームを食べながらお姉さんが応える。俺は酒を飲むわけにはいかないので炭酸をのみながら、ポテトを喰う。

「このバイトって、時間があると楽になるよな。」

「そうね。去年もしたけど、忙しいときは大変だけど、そうじゃないことも結構あるから美味しいバイトだよね。」

お兄さんは今年初めてらしい。お姉さんは去年に引き続いて今年も来ているそうだ。美味しいのは夏の海岸は何でも相場が高いおかげだろう。


たしかに忙しいときは忙しいが、時間帯による。暇な時間は暇になり自由時間が貰える。自由時間にはバイト仲間と海で遊んで、夜は花火をして遊んだ。バイトに来ていた女子高生と割といい感じになれたのは楽しかった。この非日常の瞬間に限れば、俺は瀬沼の呪縛から解き放たれていたと言えるだろう。


夏休みの終わりに分厚い給料をもらって、自宅に戻った。自宅と言っても俺一人が住んでいるだけのアパートだ。1ヵ月間締め切っていたので、部屋には淀んだ空気が籠っていた。窓を開け放して空気の入れ替えをして、掃除機をかけて埃を払った。近くのスーパーで食材や生活物品を買い込んで明日からに備えた。


誤字脱字、文脈不整合等がありましたら御指摘下さい。

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