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10.拒絶

「直也くん。」

ドアの前にいたのは香織だった。

「お前は、ここで何をしているんだ。」

「直也くんが帰るのを待っていた。」

「というか、なんで俺の家を知っているんだ。」

「前にこっそりあとをつけてきて確認した。」

おまわりさん、ここにストーカーがいます。

「いま夜の10時だぜ。何時から待っていたんだよ。」

「夕方の5時くらいから。」

「まじかよ、5時間も待っていたのかよ。」

「うん。」

「俺がバイトに行っていることくらい分かるだろうが。遅くなることも分かっていただろう。」

「だから家には連絡してある。」

「連絡してあるからいいってもんじゃないだろう。」

「なんで怒っているの。」

「女の子がこんな夜遅くに一人で居て、何かあったらどうするんだよ。」

「心配してくれているんだ。」

「そりゃ心配するだろうが。お前は何を考えているんだよ。」

「直也くんのこと。」

「はあ、俺のこと。」

「うん。」

「なんで?」

「わたしが告白されたのって聞いたよね。でも直也くんは、わたしのことを何とも思ってないって。」

「田辺か拓郎から聞いたのか?」

「うん、二人から聞いた。」

「俺は顔見知りの同級生だぜ。お前が言ったことだろうが。」

「じゃあ、わたしが直也くんは彼氏だって言ったら、彼氏になってくれるの。」

「そりゃねえだろう。」

「どうして。顔見知りだって言ったら顔見知りって言うのに、彼氏って言っても彼氏にはなってくれないのはどうして。」

無茶だろう。顔見知りの同級生は言葉の綾だろうが。だが有耶無耶に出来ることでもねえ。

「今の俺は彼女を作るつもりはない。」

「そんなことは聞きたくない。直也くんは、わたしのことをどう思っているの。」

「可愛いところはあると思っている。だが好きというわけじゃない。だから顔見知りの同級生だ。」

俺は本心を偽っていただろう。正直に言えば、香織のことが気になっていた。大好きかと言われたら微妙としか言いようがないが。だが付き合う気もないのに適当なことは言えない。はっきりと断るのが正解だ。

「わたしが付き合ってって言ったらどうなる?」

「無理だな。」

「遥香は直也くんと別れて、バスケ部エースと付き合いなさいと言っていた。」

「だから、俺と別れて、になんでなるんだ?」

「それは、わたしのなかでのことだから。わたし、ばかみたいだよね。迷惑だったよね。ごめんね。帰るね。」

香織は俺との会話を打ち切って帰ろうとした。

「夜遅いから送っていくよ。何かあったら俺が後悔する。俺が勝手にそう思うだけだから、お前が何かを思う必要はない。」

「嫌だよ。拒まれたのに、その相手に送ってもらうなんて。泣きたくなるよ。」

「分かった。ならタクシーに乗れ。金は俺が出す。」

流しのタクシーを拾って無理やり乗せた。そして運ちゃんに金を渡して、香織を家まで送ってくれるように頼んだ。走り去るタクシーの閉まったドアごしに見えた香織の顔は泣いていた。


「ねえ、一緒に海に行ける?直也。」

「無理だよ、拓郎。おまえ達だけで行ってくれ。」

「いやそうじゃなくて、直也は行ける?」

「俺?俺だけが付いていくのか?」

「そう。」

「そんなもん、俺はいったい何になるんだよ。」

「香織は遥香が誘う。」

「止めてくれ。結局、矢野と海に行くなんて嫌がらせかよ。」

「どうして。」

「どうしてって。おまえは俺が矢野を拒絶したことを聞いてねえのか?」

「聞いているよ。」

「なら、なんでそんなことを言うんだ?」

「香織が諦めてないから。」

「はあ?」

「直也は、香織が嫌いじゃないよね。」

「確かにな。嫌いではないな。」

「なら好きになる可能性はあるよね。」

「ねえよ。」

「なんで?」

「ないから、ない。」

今の俺は彼女を作らない。瀬沼の名前である限り、人間関係は最低限で済ます。いずれ瀬沼でなくなったときに新しい人生を歩むつもりだ。瀬沼なのに拓郎と仲良くなったのは誤算だ。悪くない誤算だが、これ以上の誤算は増やさない。増やすつもりはない。だがバカ正直に話してもどうにもならない。


「香織が直也のことを諦めてない。あと僕は香織に借りがある。遥香との縁を取り持って貰った。恩を返すのなら同じことをするのが、正しいと思っている。」

「一般的には正しいかも知れないけど、この場合に正しいかどうかは別だろう。」

「たしかに正しいかどうかはわからない。でも理由の一つは僕がしたいからだね。香織が悲しむのを見るのは、僕は辛い。だからと言って、直也に無理強いするつもりもないよ。それをしたら、香織のことだけしか考えていないことになる。直也を無視することになるからね。なので環境を整えて自然にうまくいくことを祈る。」

「世の中、諦めが肝心というか、無理なものは無理というのもあるだろう。」

「やるだけやって諦めるのなら兎も角、中途半端で投げだしたら後悔するだけだよ。」

拓郎は俺が思っていたより粘り強く深く考えていた。


「直也に何かの考えがあるのだろうというのは分かっている。でも絶対に死んでも行くのは嫌だというのなら止めるけど、そうじゃないのなら海に行かないか?」

「ありがとう、拓郎。だが、俺は行かないよ。俺は俺の事情がある。」

「その事情を聞かせてはくれないんだよね。いや、聞かせて欲しいと言っているんじゃない。いや、そうじゃない。聞かせて欲しいとは思う。けど聞かせてもらう立場に僕は成っていないということなんだろうから。」

「すまんな、拓郎。俺は矢野と付き合うつもりはない。だから期待を持たせるようなことは出来ない。」

「分かった。遥香には僕から話をしておくよ。無理を言って悪かった、直也。」

拓郎は最後には折れてくれた。すまんな、友よ。

誤字脱字、文脈不整合等がありましたら御指摘下さい。

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