0.セピア色の記憶
北脇キャプテンが相手チームのマークマンを引きつける。
マークマンは左手でパスカットを右手でドリブルカットの態勢を取っている。
だが一瞬の隙をついてキャプテンは足元を抜くバウンズパスを送る。
ボールを受けた味方の7番スモールフォーワードが華麗にシュートを決める。
リバウンドの激しい競り合いで奪ったボールをキャプテンが再びシュートする。
ボールは鋭い軌道を貫き、ネットを揺らす。
「ナイス、シュート。」
第4Q。残り5分。泣いても笑ってもこれで終わりだ。
俺はスリーポイントラインの後ろでパスを受ける。
「3ポイントシュート。」
美しい放物線を描いてボールはバンクにもリングにも触れずにネットに吸い込まれる。
これならいける。ここまで劣勢だった俺たちは勝利に近付いている。興奮してくる。
しかしそういうときに限って不運は襲ってくるものだ。
シュートに行ったキャプテンが微妙にバランスを崩して着地に失敗して倒れた。
ボールはアウトになる。ホイッスルが鳴って、ゲームクロックが停まった。
俺達は動かないキャプテンのもとに駆け寄る。
「キャプテン!」
「北脇先輩。」
「大丈夫だ。」
「ぜんぜん平気そうじゃないですよ。」
コートに転がったまま強がるキャプテンの顔が苦痛に歪んでいる。
「ああそうだな。足をやったみたいだな。」
「見せてください。」
そこには赤く腫れた右足首があった。これではジャンプはもちろん、走るのも難しい。
「ちくしょう。ここでこうなるとは。」
キャプテンの顔が悔しそうだ。涙目だ。
「交代するしかないですよね。」
「交代は仕方ない。だが頼む、勝ってくれ。俺達にとって最後の試合なんだ。」
ここまで来られたのはキャプテンの執念だ。去年も一昨年も途中で負けた。だが今年は、生活の全ての時間をバスケに注ぎ込んだキャプテンが、勝つことにのみに全精力を費やしてきた。そしてその熱い情熱で、俺たちを引きずってここに辿り着いた。
「わかりました。必ず勝ちます。」
点差はまだ10点以上ある。かなりキツイ状況だ。ここで4番センターのキャプテンを欠くのは辛い。だが泣き言をいっていてもどうにもならない。
不動のセンターを欠いた俺達にハーフコートバスケットは最早無理だ。
「スティールを狙え。ファウルを恐れるな。ラン&ガンでいくぞ。」
ディフェンスを捨てて、オフェンスだけで勝負を掛ける。俺達の最終手段だ。
5番ポイントガードの副キャプテンが激を飛ばす。キャプテンと二人三脚でここまでチームを引っ張ってきた片割れだ。
フルコートプレスを掛けて3ポイントシュートを打ちまくる。残り4分ちょっと。コートを走りまくる。体力の続く限りの全力疾走だ。あとは6番をつけるシューティングガードである俺のシュート成功率が勝敗を分ける。高揚感に我知らず笑みが浮び、乾いた唇を舐める。
相手のスローインでクロックが動き始める。
速攻で7番スモールフォーワードがカットに入りボールをはじく。5番ポイントガードが拾い俺に直線パスを流す。タイムロスなく3ポイントシュートを天に送る。ネットに吸い込まれる。まずは一本。
8番パワーフォーワードが5ファウルで退場した。だがファウル・ゲームにはなった。直ちに交代で10番を入れる。俺達のメンバーはたった12人しかいない。全員ベンチ入りしている。総力戦だ。相手の2点ゴールの次には俺の3ポイントシュートが決まる。
「足を止めるな。走れ。」
自分も走りながら副キャプテンが指示を出す。
一切動きの止まらないゲームに、相手チームの息が上がってくる。これまで俺達は40分走り抜くゲームを積み重ねてきたんだ。俺達は話をしながらシュートを打ちながらでも40分シャトルランが出来る。
アーリー・オフェンスを重ねて、点を取りに行く。センターラインからでも3ポイントシュートをうつ。これまで何本うってきたと思うんだ。アドレナリンが出ている今の俺には失敗する気がおきない。点差を跳ね返していく。
そして永遠に続くかと思われた試合は唐突に終わりを告げる。
終了のブザーがなった。スコアを見る。俺達の勝利だ。
1点差でも勝ちは勝ちだ。俺達の優勝だ。
チーム全員の雄叫びが上がった。懐かしい中学時代の思い出だ。
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