仲間だ
「ガツガツ、モグモグ」
「影山、ボクは君に聞きたいことがある」
「ガツガツ……何だよ、藪から棒に」
「昨日の件はどういう事だい」
「え?」
朝飯を食っている途中に凄まじい剣幕の佐倉に問い詰められるが、昨日の件というやつが何を指しているのかが分からない。
う〜ん、と頭を唸りながら考えていると、ダンッ!!と佐倉が突然両手でテーブルを叩いた。
「西園寺 麗華の事だよ!!遅くなっても全然帰って来ないから心配して、委員長と二人でダンジョンの入り口で待ってれば、君はズタボロの姿で帰ってきた。西園寺を“お姫様抱っこしながらね”!!」
「それは仕方無かったんだ。本当はおんぶしてたんだけど、モンスターに反撃出来ないからあの形になった」
30階層の階層主であるアースドラゴンを死闘の末に倒した後、俺と西園寺は王宮への帰還を目指した。
その際、歩けない西園寺をおぶって歩こうとしたのだが、それではモンスターへの対処が不可能だったので――ウルフキングは戦う余力は無く付いて来るだけで精一杯だった――急遽変更してお姫様抱っこにしたのだ。
背中から触手を出し、遭遇する全てのモンスターは触手で倒した。スキルを解放したお陰なのか、魔王の力も操作も今までより格段に上昇していたから、今まで苦戦していたモンスターも案外楽に倒して帰れたな。
それで王宮に戻ったら、佐倉と委員長が待っていた。ああそういえば、A組の神崎もいたっけ。
それで今は、翌日の朝。
食堂で大量の朝飯を貪るように食べていたら、鬼の形相をした佐倉に詰問されている状況である。
「訳を尋ねようとしたら、疲れたから明日にしてくれって言ってとっとと行ってしまうし」
「あー……悪かったよ」
「……それに関しては、責めてるつもりは無いんだ。あの姿を見たら、また無茶な戦いをして来たんだと理解出来る。早く休みたい気持ちも分かるから、ボク等も引き止めなかった。でも、どうして西園寺といるんだ。ボク達には近づくなって言ってた癖に!!」
ズイッと小さくて可愛い顔を寄せて、大声を発しながら佐倉が迫ってくる。
おい佐倉さん、ここ一応食堂なんだけど。周りがビックリして注目してるじゃないか。というかお前ってそんな熱いキャラだっけ?
俺はまぁまぁと荒ぶる佐倉を抑えながら、訳を説明する。
「西園寺の場合は、本当に勝手に付いて来ただけなんだ。一応言っておくけど、来るなって忠告したんだぜ。でもあいつ、我儘で人の言うこと全然聞かないし」
「そ、そもそも……君と彼女は一体どんな関係なんだい?」
「俺と西園寺の関係?」
改めてそう問われると、どう答えればいいか判断に困る。
最初は成り行きで、その後は勝手に付いて来ただけだし。
……でも――
『べ、別に礼なんていりませんわ!“仲間じゃありませんか”!!』
西園寺にそう告げられたあの時。
俺は多分、嬉しかったんだ。
そして俺達は、試練を共に戦い抜いた。
彼女がそう思ってくれているのなら、そう感じてくれているのなら。
俺達は紛れもなく――
「俺と西園寺の関係は――」
「その話、俺にも聞かせてくれないか」
「……神崎」
話を遮ってきたのは、A組の勇者こと神崎 勇人だった。普段は爽やかイケメンマスクなのに、今は眉間に皺が寄っていて何だか怖い雰囲気を醸し出している。
彼は俺の対面に座ると、先に口火を切った。
「昨日の夜、君が麗華と一緒にダンジョンから出て来たのを見た時は自分の目を疑ったよ。全く予想だにしなかったからさ。後で麗華に理由を聞いたら、今は君とパーティーを組んでいるんだってね」
「何だって!!?」
「……」
俺の横で佐倉がめちゃくちゃ驚いてる。
そうか……そう言えばダンジョンから帰った時、佐倉達だけじゃなく神崎もいたんだったな。
「ここ最近、麗華と中々会えなかったのは影山と二人でダンジョンを潜っていたからだったんだ。どういう経緯でそうなったかのかは教えて貰えなかったから分からない。でも別にそれは良いんだ、塞ぎ込んでいた麗華が立ち直ってくれたなら」
――ただね。そう言って、神崎は続けて、
「その相手が君という事が心配なんだ。不快な気持ちにさせてしまうのは謝るけど、俺は影山を信用していない」
「ハッ、はっきり言うねぇ」
その正直な言葉に、つい笑みが溢れてしまった。
確かに遠藤を殺した事件から、俺は神崎とハーレムメンバーから良く思われていない。というか嫌悪されているだろう。
だから彼は、嫌悪する俺と大事な友達である西園寺が一緒にいるのを不思議に感じ、そして不快な気持ちを抱いているのだろう。
だがそんな神崎の個人的感情など、俺にとっては糞ほどどうでもいい。
「俺は西園寺を好きでも嫌いでも無いし友達なんて以ての外だ」
「……」
「だけど俺は、西園寺のことを“仲間”だと思ってる。このクソッたれな世界で死に物狂いで戦う、仲間だ」
「……そうか」
はっきり告げてやると、神崎は大きなため息を吐いて乾いた笑みを浮かべる。
「仲間……か。麗華も同じことを言ってたよ、影山とは只の仲間だってね。よし……分かった!麗華の事は君に任せる。但し、もし麗華を死なせたら俺は絶対に許さないからな」
突然そう言うと、神崎は席を立ち上がって颯爽と去って行った。
いや、任せたって言われてもね……俺は別に戦い以外で西園寺の面倒は見ないよ?あいつ時々不気味な時あるし。
それにもう、何度か死の危険に遭ってるんだけどな。主に俺だけど。
俺は神崎に会話を遮られて、黙ったままの佐倉に視線を送る。彼女は何故か、拳をぎゅっと握りしめて俯いていた。
「どうしたんだよ」
「……悔しいんだ。いや、違う、これはきっと……嫉妬してるんだ。彼女に」
「……嫉妬?」
「そうだ。君の口から仲間と言われた彼女に嫉妬してるんだよ。だってそれは、影山が彼女を対等な立場であると認めてるからだろ?」
「んー……そうなるのか?」
よく分からん。
「ボクは影山に付いていけない。その力が無いからね。だからこそ、彼女が羨ましい。君の隣に居られる、居られるだけの力があるんだから」
「……」
まぁ確かに、西園寺は強い。
【支配者】スキルという絶対的な力もそうだが、能力も精神力も一般人より大きな差があるだろう。
でも、それがどうしたというのだろうか。西園寺は西園寺で、佐倉は佐倉じゃないか。
『お前は相変わらず鈍感野郎だな』
何がだよ。
いつものように突然会話に入り込んできたベルゼブブに文句を告げていると、佐倉が席を立った。
「すまない、ボクもそろそろ行くよ」
「あ、ああ」
何か言った方がいいのだろうが、言葉が出て来ない。迷っている内に、佐倉の背中は見えなくなってしまった。