寝言は寝て言えですわ
「いやはや、麗しき女性達をいたぶるのは心が痛むね」
「ふぅ……ふぅ……この方、尋常じゃなく強いですわ」
「あ、ああ……僕等が戦ってきた中で一番かもしれないね」
晃が激闘を繰り広げている最中、城を守っていた結界の付近で、佐倉詩織と西園寺麗華も帝国軍と交戦していた。
相対するのは帝国軍一番隊隊ビスタ。魔力で構成された糸で魔導兵器や兵士の死体を操って戦う傀儡子だ。
この傀儡子、正直言って強過ぎた。
彼の背後に聳え立つ主力の魔導兵器はビスタを守る絶対防御で、攻撃の面でもかなり厄介な存在だ。
加え、大量の死体を操りけしかけてジワジワとこちらの体力を削ってくる上に、隙あらば身体を操ろうとしてくる。
麗華と詩織は遭遇した瞬間からビスタが強者だと察し、始めからスキル解放を行ない全力で立ち向かったが手も足も出なかった。
晃が忠告していた通り、隊長クラスは二人には荷が重すぎる。
「降参するなら苦しみを与えず安らかに殺してあげるけど、どうしようか?」
「ハン、寝言は寝て言えですわ。キロ、ルイ、まだいけますわよね」
「ショウガナイワネェ、ヤッテアゲルワヨ」
「クルァ!」
「なにを勝った気でいるんだ、ムカつくのはそのキザったらしい顔だけにしてくれよ。お前が泣いて謝っても絶対に許さないからな」
降参を促したが、それでも戦う姿勢を見せる彼女達を見てビスタは大きなため息を吐くと、背後に控える上半身だけの巨大な女子人形の顎を撫でながら問いかける。
「どうしようエリー、折角楽に殺してあげるって言ってるのに彼女達まだやりたいってさ」
「…………」
「そっか、そうだよね、うん。じゃあ、生まれてきた事を後悔したくなるくらい残酷に殺そうか」
人形に話しかけるビスタを目にして、詩織と麗華は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「気色悪い奴だな」
「晃とは別のベクトルで狂ってますわね」
「麗華、僕が周りの死体を何とかする。君は好機を窺って奴を叩いてくれ」
「了解しましたわ」
「作戦タイムは終わりかな?じゃあ最後くらい華麗に踊り死んでくれよ」
ビスタが両手を優雅に振り上げると、周りにいる帝国兵や魔族の死体がカタカタと不気味に起き上がる。
いや、操られているのは死体だけではなかった。魔力糸は生きている者にも取りつき、身体を勝手に操られてしまう。
「ビスタ様、もうやめて下さい!俺の身体はもう動きません!!」
「痛い痛い痛い、身体が引き千切られるぅ!!」
「グゥ……」
既に傷を負い、戦闘不能の状態にまで陥ってしまっているのにも関わらず、身体の自由を奪われ無理矢理戦わされる兵士達は悲鳴を上げる。
仲間であるビスタに死ぬまで……死んでも戦わされ続ける哀れな彼等を見て「クソ野郎」と悪態を吐く詩織。
胸糞悪い気持ちを吐き出そうと、彼女は向かってくる敵に魔術を行使した。
「魔女の溜息」
掲げた右手から暴風が吹雪渡る。
風に巻かれて吹き飛ばされる兵士もいるが、中には暴風の中を突き進む猛者もいた。
「ヴァァアアア!!」
「もう死んでくれよ!!」
「ルイ!」
「ワカッテルッテ!」
吹雪を突破し、凶刃を振るう敵から詩織を守る為に麗華が命令を下すと、ルイが樹木を操って迫る敵兵を薙ぎ払う。
その間に魔力を練っていた詩織は再び魔術を発動。倒れた敵兵一体一体を氷の棺桶に閉じ込めた。
「……ふぅ……(魔力の消費は激しいが、これならもう操れないだろ。道は開けたぞ)……今だいけ、麗華!!」
「キロ!!」
「グァァアアアッ!!」
膨大な雷を溜め込んでいた雷鳥が、咆哮を上げながら突き進む。一迅の閃光は地面を焼き焦がしながらビスタへと強襲するが、彼は焦りを見せることなく余裕の笑みを浮かべた。
「その程度で僕のエリーを超えられるとでも思っているのかい?」
十指を動かし女子人形を操る。
エリーの大きな両手が前に突き出され、飛来してくるキロを真正面から受け止めた。
バチチチッ!!と耳を劈く甲高い音が鳴り響く。
キロは力を全力を振り絞っているが、押し留められてしまっている。
「まだやれますわ!!」
「グァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
麗華が【支配者】スキルによって自分の魔力を更に上乗せする。キロも限界を超えてパワーを捻出するが、それでも僅かに押す事しか敵わなかった。
「くっそ……」
「届かないのか……!!」
「中々に面白かったよ。しかし、これでフィナーレだ。エリー」
ビスタが左手を掌握する。
すると、エリーがキロの首筋を両手で鷲掴み、そのまま地面に叩きつけた。
「ッガァ!!」
「キロ!!」
目の前に放り投げられたキロに走り寄る麗華。意識は失っているが、辛うじて息がある事に安堵する。
が、これで詩織と麗華は打つ手が無くなってしまった。スキルを扱うだけの魔力を使い切ってしまい、解放していたスキルも強制的に解除されてしまう。
「くそ……」
「はぁ……はぁ……」
「さぁ、ここからが愉しいショータイムだ」




