史上最強勇者アーサー殿は供と旅する
この世界では伝説になった『おっちゃん勇者アーサー』その功績の素晴らしさよ。
若き剣士、格闘士、魔法使い、賢者と共にパーティーを結成し、数々の魔物、邪悪を打ち払い、なぎ払い、
果ては『史上最も悪にして最強の魔王』の討伐まで、見事に完遂したのが伝説のいわれ。その後の魔物達の弱体化は、すざまじかった。
この世を光に導きし、中年の希望の星『勇者アーサー』その名は世界を席巻し、今も消えることの無い輝きを放っている。
―――「ご隠居、次のラーダの都は、麺類が美味しいんですよ」
『賢者コーン』が嬉しそうに、かくしゃくとした主の老人に声をかける。
「コーン、お前、旅に出ると食べ物の事ばかりだな」
『剣士ライス』は笑いながら、声をかける。全くだと『格闘士ミート』も笑いながら、同意する。
ひどいや、二人とも、コーンはふざけながら、反論。その様子を満足そうに、眺める主の老人。
「ですが、ご隠居、私の使い魔の知らせによると、ラーダの都は、何やらキナ臭い様ですわ」
『魔法使いコリアンダー』が彼女の元へと戻って来た、大カラスより報告を受け、即座に老人へと知らせる。
「ほぅ、それはどのような」
興味を引かれた老人が、彼女に問いかけた。
「娘を生け贄に出せという妖が、出るそうです」
彼女の声を受けて、ライスがラーダには寄らず、次の都を目指しましょうと、強い口調で提案を出してきた。
「えー、ラーダの麺類はそりゃ、美味しいのに」
がっかりと、肩を落とすコーン、仕方ないだろう、ご隠居を、危険な目にはあわせられない、と慰めるミート、しかしそれに異を唱える者がいた。主の老人だ。
「いやいや、皆の衆、困ってる者がいるのなら
助けないといけない」
彼の一言で、ご一行はラーダの都を目指す事になった。
都について早々に、一人の若い娘が、荒くれ男達に絡まれていた。
「ミート、助けてやりなさい」
老人の一言で、ミートはその鉄拳を奮う、荒くれ男達は、こてんぱんにやられ、覚えていろよとの捨て台詞を残して、逃走。駆け込んだ先は、
『穀物問屋ストック』
と看板が、掲げられた裕福な商店、そこの欲深店主にボコボコにヤられた、生意気な旅人ご一行が、やりやがった。しかも、ジジイの手下に、
「お前達は、魔物なのにそのジジイ一行に負けたのだと?」
怒りのあまり店主は、人間の姿から元の魔物の姿へと戻り、手下を一喝。そこへ、お客様ですが、と声がかかる。
「わかった、今行く」
しゃおぅっと、人間の姿へと戻り、屋敷の奥座敷へと向かう店主、お忍びでの来客は、ラーダの都の家老。
奥座敷では、きんきらきんの衣装を身にまとった家老が、嫌がる若い娘を侍らせ、スケベな世界を繰り広げていた。
「お楽しみでございますな、御家老様」
「おお、ストックか、何時もすまぬな」
きんきら家老が、嬉しそうに声をかける。
「いえいえ、お礼など、それより、例の件は良しなに」
黒い笑みで家老に、迫るストック、
「ふふふ、魔物のそなたが、大臣の椅子に座る。との事よの、了承しておるとも……魔物の分際で、一国を狙うとは、そなたも悪よのぉ」
きんきらと欲深は、声を揃えて高らかに笑う。
………その頃、ご一行は、娘が助けてくれたお礼を、と聞かないので、彼女の父親が経営している『麺料理専門店』で、舌鼓を打っている。
「やっぱり、ラーダの麺料理は最高ですよね」
コーンは既にお代わりを三杯もし、周囲の笑いを取っていたが、不意に助けた娘『メンマ』が泣き崩れた。
「どうなされたのじゃ」
老人が、彼女に近づき、優しく問い掛ける、涙を流し話せない彼女に代わり、父親が忌々しそうに、事情を語る。
………要約すると『穀物問屋ストック』の店主は魔物で、ラーダを乗っとる為に、スケベで有名な家老に若い娘を賄賂にし、取り込んでおり、
娘を差し出さなければ、荒くれ男に化けた魔物達が、都を攻撃すると、脅しをかけている。との事。
「次の生け贄は娘なんでい、娘は、娘は、もうすぐ婚礼なんでい」
泣き崩れる親子、その様子を眺める老人の眼には、強い正義の光が宿っていた。
―――「大変です!彼奴らが、旅のジジイ共が、殴り込みにきやした!」
奥座敷にストックの荒くれ男達が報告にきた。
中では、きんきらスケベ家老と、欲深魔物店主が悪巧みの真っ最中、そこへ、店先の魔物を一掃したご一行が登場。
「なんだ、お前達は」
「仮にも家老という者が、何という狼藉、証拠は掴んでいる、ライス、ミート成敗なさい」
老人の一喝に対し、慌てる家老、ジジイの癖に小癪なとテンション上がる魔物。
「やれ!やっちまえ!」
欲深魔物の一声で、彼方此方から出てくる手下の魔物達。
戦いのゴングが鳴り響く。ライスは、バッサ、バッサと切り裂き、ミートはボコスカ殴り付け、コリアンダーは、水魔法で一掃する。
あっという間に数を減らし、消え行く魔物達
旗色が悪くなった欲深魔物は、国の実力者きんきら家老に、助けを求める。その時、
「ライス、ミート、そろそろ良いでしょう」
老人が、戦いを終える宣言をする。その様子にきんきらが、ジジイの分際で、他国に干渉するとは、言語道断、取り押さえ、厳罰に処す、
と決め台詞を放つ。しかしきんきら家老は知らなかった。目の前のジジイの正体を、
老人を中央に、ライスとミートが、定位置に立つ。そして老人が、高らかに宣する。
「我は勇者アーサーじゃ、ひれ伏せ、聖剣、エクスカリバーの光のもとに」
旅のジジイこと『勇者アーサー』が、空から白銀に輝く刀身のエクスカリバーを取り出す。その場が、聖なる光で満たされる。
慌てふためく、悪しき者共、悠然と対する勇者ご一行。
「そ、そんな、ば、バカな」
「聖なる光の前で頭が高い、控えろ、さもないと、成敗してやろうそ!」
「ははー、申し訳ございませんでしたー」
『勇者アーサー』の、正義なる力の前では、悪しき者共は、ひれ伏す事でしか、その命が助かる方法は無かった。
こうして、ラーダの都に平和が取りもどされた。
――――欲深魔物と、きんきらスケベ家老の討伐も終わり、ご一行は再び歩き始める。
「サザールの街は、煮込んだ肉料理が有名ですよ」
コーンの嬉しげな声が、青空に響き渡る。
可笑しげに、そんな彼を眺める老人ご一行、
吹き抜ける風は穏やかで、優しい日差しの中、
『史上最強勇者アーサー』は進む、平和の世界を守るべく。
――――この世の悪を、成敗する彼等の旅は、まだまだ続くのであった。
「完」