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HELLO,Works!

数日前(災暦2071年4月某日)


 さて、どこの世界でもありがちな事の一つに「人材不足」がある。

 探せば幾らでも居るだろう、と考えるのは三流(どブラック)、もしくは災害など切羽詰まった時だけに許される事。

「適材適所」という言葉があるように、どんな仕事にも、相応の技能や精神性が求められる。

 特に市民生活を支える側たる「サービス業」では「滅私奉公」が必須となる。「公共事業」ともなれば、問われる質の下限は更に上振れする。

 そんな訳で、新しく公共事業を立ち上げるには、人材の調達ないし育成を前もってやっておかねばならない。

 しかし、ここはニューダーク。合衆国政府から見放された、ヒト・モノ・カネの全部に困っている孤島。

 ……つまりは、人材調達に切羽詰まった場所、適材適所とか言ってられない場所なのである。


#####

ニューダーク市 就労斡旋所


レン(Len)カネダ(kaneda)さん、審査の結果、あなたの希望に添える職として、『クリス・ローズ教育保護機関』での看護スタッフを紹介いたします」


 目の下に隈が浮いた職員が、衝立付きのカウンター越しに、求人内容のコピーを渡してくる。

 俺は()()()()()()()()()()()()()記載事項を確認してから返答する。


「はい、やらせてください!」

「では、E.S.に記載されたあなたの番号に、早ければ明日にでも、先方から連絡が来るでしょう。後の手続きはご自分で……」


 と、AI音声よりも抑揚のない声で告げられた後、俺はさっさとカウンターを追い出された。

 間髪入れず、俺がいたブースに、食うのにも困ってそうな老人が立ち、同じようなやり取りが、双方無感動に進められる。

 なんせ、13もあるブースはどこも、老人と同じような顔の老若男女が13ダースは並んでいるのだから……


「13人の受付に13ダースの職探し……マザー・グースじゃあるまいに」


 ダークな童謡よりも更に暗い現実から、俺は足早に立ち去る。

 建物のを出ると、ビアン先生、もといケン・ソータイプさんが待っていてくれた。


「その顔、うまく潜り込めそうですね。()()()()()

「ええ、看護スタッフだそうですよ、()()()()


 俺たちがやった事は単純、モンドの旦那に用意してもらった偽の身分でもって、就活に勤しんだのである。

 もちろん、最初から「クリス・ローズ」を狙い撃ち、というのは、難易度が高いし、相手に怪しまれる。

 なので、あくまで遠回しに、子どもの養育に適性がある人材として売り込んだ上で、斡旋所の職員さんが俺たちを「クリス・ローズ」に割り振る、という流れを作った(詳細は裏社会でのテク故に割愛)。

 結果、最初の1週間は無関係な託児所の助っ人ととして働かされたが、その次の派遣先として、「クリス・ローズ」の、それも本丸である児童保護施設のスタッフとして潜り込む事に成功したのである。


######

現在 5月1日 午前 

ニューダーク市 某所 

「クリス・ローズ教育保護機関」療養施設


「……で、そこから更に2週間ちょっとかけて、何箇所かの施設をハシゴしてたら、マギーの居るココに辿りついた、って事なんよ」

「ここって、どこ?」

「バッテリーパークの南、海上に突き出た人工島です。『保護』された子どものうち、健康状態の良くないグループが収容されています」


 ビアン先生の顔を見てから、マギーは顔色が少しずつ良くなってきた。

 ここの職員から渡されたカルテを見た時は、もっと憔悴してるかと身構えたが、どうやら良き(Good)隣人(neighbor)に助けられてたらしい。


「あんたら、マギーの知り合いか?オレはナーサリー、ナースって呼んでくれ。入院患者(パティエント)だけどな」

「ハハ、よろしく。俺はレン。俺も実は看護師(ナース)じゃなくて本職はダイナ(Short)ーの(-order )コック(cook)だ」

「レン、周りに人が居なくとも、ここに居る間はソレは話さないほうが良いですよ。……ちなみに私はちゃんと本職も医師(ドクター)です。マギーの保護者のビアン。ウチの娘がお世話になりました」


 マギーの世話を終えた先生は、そう語りながら、ナースの方も検診していく。

 脈を取られながら、ナースは笑う。


「あんたか、冤罪ふっかけられてマギーを取られた『敏腕ヤブ医者』ってのは。熱にうなされてたとき、よくあんたの名前を呟いてたぜ、ビアン、ビアンって……」

「っ、ナースこらっ、ナース!うぅ……まだ頭が重い……」


 マギーは顔を真っ赤にしながら誤魔化そうとするが、まだ病み上がりな身体ゆえに、すぐにベッドへ沈みなおした。

 そんな彼女の反応を、ナースは羨ましそうな眼で見つめ、俺たちに問いかける。


「……やっぱ、マギーを連れて行くのか?」

「出来ればそうしたいですがね。相手はカタギ、もとい公的機関で、正規の手続きを踏まれてしまってますから……まぁ、その腹の中は病巣まみれでしたが」

「……病巣?」

「端的に言うと、汚いお金が帳簿の上を行ったり来たり……『どこか』と『何か』を売り買いして、何万ドルも稼いでいるんだよ」


 まぁ、『』の中身は、俺の人生経験に基づけば簡単に察しがつくのだけど……ソレをカタギであり、()()()でもあるナースに明かすのは酷だ。

 ビアン先生も同意見なのか、ナースの診察と一緒に、話題をきり上げた。


「とにかく、我々はマギーの無事を確認したかっただけですので。後は『合法的に』彼女を取り戻すまで、しばらくはお二人のケアに専念します。……あまり長々といると怪しまれるので、一旦はここまでで」

「じゃあな、お嬢。……ぷっ、あんまり天井にカトラリー生やすなよ」

「ナメた口きいてると、あんたの額に生やすわよ?……来てくれてありがと」


 血色の戻った笑みで、マギーは布団の中から感謝を伝えた。

 こりゃ、明日は雪でも降るかな?


######


 ……数日後、ビアン先生の訴えが無視されたまま、ナースとマギーは養子縁組が決まり、里親に引き取られることになった。





 


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