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ジャスト・ヒット!イレイザーズ~異世界暗殺稼業~  作者: ミズノ・トトリ
<糸斬り>のレン
15/20

そしてまた夜が来る。

災歴2071年3月16日午後11時

『Sharon's Japanese Dinner』


「ごちそうさん、シャロン。また明日も来るよ」

「たまには自分の家で飯食いな。『夫が手料理を食べてくれないのぉ』って、この間奥さん(マリエル)が乗り込んできたよ」

「あんたやレンぐらいの料理の腕がありゃ、そうするさ」


♪カランカラン


「だってさ。よかったじゃないか、レン。あんたの料理、もうすっかりウチの看板だね」

「そりゃどうも」


 今日最後の客を見送り、入り口の札を『close(閉店)』に替えながら、俺は答える。

 そしてため息を一つ吐き、己も『裏』の顔へと切り替えると、何食わぬ顔で食器を回収しているソレへと振り返った。


「約束通り、夜まで待ったぞ。事情を説明してもらおうか、()()()()()()()とやら?」

「おぉ、恐い恐い。そんなに殺気を立てなさんな。……まぁ、ソレぐらいの気概がなけりゃ、<イレイザー>に誘わなかったのだけれど」


 おどけながら(うそぶ)くと、ソレは全身を黒い(もや)に包まれ、黒衣の尼僧に姿を変える。

 廃教会を拠点とする暗殺集団、<イレイザー>。その元締めであり、死んだはずのシャロンさんの身体に取り憑いているナニカを見据えながら、俺はカウンター席に座る。


「『(いわ)く、<イレイザー>の元締めは人間ではなく、『大穴』の向こうから来た邪神』『曰く、その神は穢れた魂を糧とし、それを収集する為に暗殺稼業を取り仕切っている』。街の噂話は、真実だったんだな?」

「もちろん、なんせ話の出所は私自身だからね。そこら辺の酒場にふらっと立ち寄っては、酔っぱらい達に吹聴して回ったんだが。意外と正確に伝わってるみたいだねぇ」


 言いながらボティシアは、俺の目の前で、更に姿を変えた。

 太ももの半分までしかないハーフパンツに、へその見えるよれよれのTシャツ。ウチよりも()()の悪い酒場でよく見かける格好だ。

 へそピアスなど無駄に凝った変身に、思わず呆れてため息が漏れた。


「はぁ、あんたが常識の通じないバケモノって事は、よぉく解った。だが、それとシャロンさんにどんな関係があったんだよ?その人は只の、飯屋の女将だぞ?」


 一番の疑問を投げかけると、ボティシアは尼僧姿に戻り、意外にも謝罪の言葉を口にした。


「……すまなかったね、コレは私にとっても不可抗力ってやつなんだよ。ウインスキー兄弟の()()()の悪さを、読み誤ったんだ」

「読み誤った?」

「そもそもアンタには、次の仕事から<イレイザー>に成ってもらおうって、段取りを組んでいたのさ。今回の一件では、『シャロンに危害が及ぶのを防ぐ為、アンタがアタシらに仕事を依頼して、縁を結ぶ』。それだけのつもりで、シャロンを奴らの隠れ家に誘導したんだが……」


 なるほど、シャロンさんがウインスキー3兄弟の生存を知ってしまい、命を狙われる。それで、カタギに成ろうとしていた俺は彼女を守る為、再び『裏』の社会へ関わる。それがこの邪神が描いた段取り。

 しかし、それが狂ってしまった。


「シャロンさんが、モルト・ウインスキーに殺された……」

「そう、しかも連中は死体を見つからないように始末しようとしていた。それじゃあアンタに、『標的(マト)』の情報が伝わらなっちまう。だから私は、『ルール』を破った」

「『ルール』?」

「あんたがさっき言ったように、<イレイザー>は私にとっては延命の為の『儀式』だ。そしてそれを執り行うには、明確な『ルール』を厳守する必要があるんだよ」


『「仕事」は必ず、依頼を受けてから行う』

『標的とするのは、依頼された相手のみ』

『「仕事」を部外者に見られてはならない』


 そして、『<イレイザー>は、依頼人に直接働きかけてはならない』


「簡単に言えば、自作自演は許されない、ってことさ。でも私は、アンタを依頼人にする為に、既に死んでいたシャロンの身体を使って、アンタに情報を与えた。その『償い』って事で、この女店主さんを蘇生させた。これがあんたの知りたかった答えさ」

「蘇生って……あんたが彼女に成りすましているんじゃないのか?」


 目の前の()()は今朝から今までの間、『一般人のシャロン・コルデー』として振る舞い続け、客たちもそれに違和感を感じる事は無かった。

 それが邪神の演技だったかもしれないと、俺は心中で疑った。

 しかし、ボティシアは笑ってそれを否定した。


「姿はともかく、中身まで別人に化ける事なんて、私にはできないよ。昼間、レンと一緒にこの店を切り盛りしていたのは、正真正銘のシャロンさ」

「じゃあ、彼女は今どうなっているんだよ?」

「それは…「アタシはここに居るよ、レン」」


 尼僧の口調が、慣れ親しんだ人のモノに変わった。


「シャロンさん!?」

「「ああ。ちょいとボティシア様、席を譲っておくれな」……仕方ないね。そら」


 驚く俺の目の前で、尼僧は黒い靄に包まれ、中から()()が現れる。

 そして、いつもと変わらぬ様子で、俺に語り掛けてくる。


「心配させちまって、悪かったね、レン。アタシも、自分の身に起こったことを理解するのに時間が掛かってね」

「いえ、いいえ!また会えただけで、十分ですっ!……でも、どうなっているんで?」


 涙をこらえながら、俺は尋ねる。


「簡単に言うと、『椅子取りゲーム』みたいな状態だねぇ。この身体を一つの椅子とすると、私と邪神サマは、2人でそれを順番に使っている感じ。今は私が座っていて、ボティシアは……後ろで聞き耳を立てているようだね」


 つまりは、2重人格のようなもの、なのだろう。

 それを聞いた俺は、肩の荷が下りたように力が抜け、カウンターに突っ伏した。


「は、ははは。ほんっとうに、なんでもありだなぁ、この街は……」


 力が抜けたせいか、それとも昨夜から一睡もしていないせいか、俺はカウンターに突っ伏した状態で、睡魔に襲われる。

 多少変わった点はあれ、またいつもの日常が戻って来た。そんな安心感を抱きながら、俺は瞼をそうっと閉じる。

 が、直後。


バシャっ!

 

 顔面に冷たい水が掛けられ、意識が強制的に()まされる。


「ファ!?」


 顔を上げると、なぜかそこには黒衣の尼僧が居た。


「悪いけど、『仕事』だよ。今、教会の前に大怪我を負った女の子が1人やってきた」

「……パスしていいっすか?元締めさん」

「新人に、拒否権があるとでも?」


 ああ、どこの世界でも、『裏家業』は()()()()なんだなぁ。

 そう愚痴りながらも、俺の手はボティシアから差し出された愛用のナイフに伸びている。


「はっ、『裏側(dark side)』なんだから()()のは当たり前だろう?行ってらっしゃい」


 これはシャロンさんに投げかけられた激励。これは慣れるまで時間が掛かるな、と顔に出さずに苦笑しながら、俺は真っ暗な街へと駆けだした。


******


(light)(right)で、(dark)(vice) などと世間じゃ言うけれど、

 表の(right)世界(side)は、はなは(heavy)だ混沌な(chaos)もの


 良き(good)隣人(neighbor)も、時には(bad)(company) 

 事実を(tell) 語れば(right)(tell) (lie) つく(too)

 

 なら(dark)(right)なのか、だって? 馬鹿を言っちゃぁいけないよ


 闇の中ではなんにも見えない。何もないから、なんでもありよ。

 悪業の矛先(マト)、善人に限らず。悪党に仕掛ける悪党もあり

 法の眼を抜けて悪業が闇に葬られるなら、悪党もまた闇へと消える。

 消えぬ恨みを塗りつぶす闇、その名はずばり、<イレイザー>』

 

<糸斬り>のレン編 完

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