葛藤
継続は力なり
三話目にしてもうそんなことを言っております。
宜しくお願い致します。
ジンは、あまりのことの運びに唇を噛んでいた。
顎をつかんで、こちらを向かせた時の女の表情を思い出す。自分は純白だと思っている、無実だと思っている、そういう顔だった。きっと、何も苦労してこなかったんだろう。ジンは、唇を噛んでいた力を強めて、目を細めた。
なのに、なぜ自分は、あの憎らしいたるんだ顔を、殴れなかったんだ?あの顔が痛みに歪むところを見たくなかったのか?非力で、世間知らずで、無知のあの女を?
女が、するりとジンの横をすり抜けていった光景がよみがえる。あの時、自分はこの手で逃してしまった。本当なら、丸っこいあの肩をつかまえられたはずだ。しかし、できなかった。自分の心のどこかで、そういう甘さがあったことに気付いて、ジンは自己嫌悪を覚えた。長年の王族への恨みを果たすはずじゃなかったのか..。
ジンは、自分を道徳心を捨てた男だと思い込みたくて、女を殴って言いなりにさせているところを想像した。しかし、またも心のどこかで、それを止めさせる声が聞こえてきた。
苛ついたジンは、やりどころのない力を、足元に転がっていた樽にぶつけた。樽は、路地の壁に叩き付けられて粉々に砕け散った。いつもなら、そんな自分の力を見て少しでも心を慰められるのに、今夜はねばねばと心に引っ掛かってくるものが取れない。
路地に散らばった木くずを見つめながら、ジンは自分の中に新しく生まれた感情と戦っていた。いや、随分前に消え去ったと思っていた感情だった。




