遠い記憶の中で05
「・・・やはりか」
「ガハハ、この天秤。確か原初の神の意識をコピーしてるのではなかったか?じゃあ、これは今無き原初様の意志と言う事か」
そうつぶやいたのは傍聴席の一番前(ヴェルダンディ達とは反対側)にいた2人の老師。
「・・・イザナギ様、ゼウス様」
声が聞こえて振り返ったタケミカヅチが二人を見て、誰かを告げると周囲がどよめく。
「おいおい。せっかくこっそり来てんだからばらすなよ。義弟」
「タケミカヅチ、後でお前は説教だ」
二人は認識阻害の能力を解くと不満そうにそう言った。
この裁判所に関わらず、この世界では自分より神格が高い物が来たと分かった時点で相手に敬意は払わなくてはいけない。
今回のように犯人扱いだとしても、罪が認められ、神格が剥奪されない限りは敬意を払わなくてはいけない。
「いや、私が来て立ち上がらないあたり、すでに私より神格が上であることは確定じゃないですか。いまさら何を取り繕うんですか?」
「だとよ。・・・お前さんらは解かんのかい?」
ゼウスはうしろの未だに認識阻害を展開している5名に向けてそう言う。
「・・・タケミカヅチよ。我が稽古の後につかまったと聞き来てみれば、思わぬ結果になったな」
そのこえはヴェルダンディの後ろから聞こえた。
ヴェルダンディの後ろの女性は外套を羽織り、顔は見えなかった。
それを外し、そこには整ったうつくしい顔と背中に槍を背負った女性。
「お、オーディン様!?」
彼女の登場にヴェルダンディが驚き、席から飛び出す。
「おいおい、トキ。驚くなよ。私もあいつは気に入ってるんだ。名乗らなくともあの力を与えるくらいには」
オーディンの登場によってこの場には最高神が3名そろった。
そんな事態は神界中央区で数年に一度行われる神長会議くらいだろう。
神名のないものはまず最高神をお目にかかることすら難しい存在だ。
「和神、西洋神、北欧神の最高神名継承者がそろってるだと・・・!?」
「ほかの認識阻害されている方々も・・・!?」
もちろん傍聴席に来ている記者に所属する者達が少し騒がしくなるのはあたりまえといえるだろう。
「・・・すみません。少しだまてもらっていいですか?」
その瞬間、強烈な波の波動が傍聴席に広がり、記者たちは気絶する。
「皆様方。先ほどから義兄様の刑罰の説明が騒がしくて聞こえておりません。と、・・・あら、眠ってしまったのですか?まあこれで静かになるでしょうからいいのですけど」
彼らは、フーを抱えた女性の殺気にあてられ、呆気なく気絶した。
「姉さまより与えられた『ウルズ』を使ってしまいました。申し訳ありません」
赤ちゃんのフーを抱えていた女性は先ほどまであふれていた殺気を露とも感じさせない雰囲気を取り戻し、ヴェルダンディに謝罪した。
「いいの、いいの。私もうるさくてどうしようかと思っていたから。・・・ねぇ、最高神様方?」
明らかに不機嫌であることが見えているヴェルダンディ。
最高神たちは彼女のヴェルダンディという比較的なじみ易く、話しやすい神格の裏に隠された生と死を・・・破壊と再生を司る神格と神界最高位の医神の影に少し反応する。
そして、ここに集まった神名持ちは思い出す。
ヴェルダンディという今でこそタケミカヅチ大好き女はかつてタケミカヅチと共に神界最強を張っていたことを。
そして何より、彼女はその神格を掌握して分割譲渡できる位置にいるということを。
それは最高神の一つ下上位神のみがなせる御業。
そして、あの二人は最高神になれば子度はできないと理由から上位神で止まっていることを。
「・・・あのぉ」
ヴェルダンディの殺気の前に会場の空気が張り詰める中、一人間の抜けた気まずそうな声がかかる。
「・・・裁判、終わったんですけど」
その声にはこの場に漂う神気(神の放てる圧力のようなもの)を中和させ、安定化までさせるほどのものだった。
最高神を除き、神界随一の知恵と実力を持つ『雷神』の異名を持つタケミカヅチ。
一方で最高神に圧力をかけられるほどの神格保有者を嫁をもつ旦那さん。
彼は今この一瞬でこの二つを両立して見せた。
タケミカヅチは判決が下り、刑罰執行が一ヶ月と設定され、解放されたので柵を乗り越え、ヴェルダンディの隣に立つ。
「トキ。・・・そのごめんね。子供欲しがっていたのに」
「いいの・・・。あの子たちが私隊の本当の子供と思って過ごすから」
タケミカヅチは謝りながらヴェルダンディのを抱きしめる。
刑罰のエデンの管理者と言うことはその世界の創造神となること。
創造神は最高神以上しかなれないため、タケミカヅチとヴェルダンディの二人は罰を受けると同時にアイコンタクトでともに最高神になる覚悟を決めた。
それを受け、原初の神の代理人たる天秤は先んじて二人の器の格を上げた。
最高神は子をなすことができない。
これは、あのラブラブカップルにはかなりつらい事だろう。
「もしかして、お父さん・・・じゃなかった。タケミカヅチさんとおかあ、じゃなかったヴェルダンディさんの間に子供を作らせてあげることができなかったこと。それが私の負うべき罪?」
この光景を見ていたアヤカはフーにそう問いかける。
『たしかに、それは背負うべき罪ではある』
「なら・・・」
『だが、軽い』
「え?」
アヤカはフーから聞こえたその言葉が信じられなかった。
「・・・赤ちゃんを作れなくした罪が、軽いだって?」
アヤカの髪が赤く染まり、赤金色のオーラが周囲にあふれ出る。
そのオーラは本来干渉できないはずの夢に干渉し、夢の世界が少し歪み、「ミシッ」という嫌な音が聞こえてくる。
「あいっ!」
しかし、アヤカは突如として当てられた魔力の塊によって頭が冷え、歪んでいた夢の空間は元へと戻る。
フーは夢の中の自分の赤ん坊だったころを見つめる。
『・・・ありがとう』
フーは小さくそうつぶやくとアヤカを見る。
「・・・私は、謝らないぞ」
アヤカはふらつきながらフーをまっすぐ見つめそう言った。
『構わない。・・・なぜこの罪が軽いのかはこれから先を見てくれればわかるからな』
「なら、早く見せなさい!新たなる生命の誕生を失わせるより残酷な罰とやらを!」
フーは自らの背後にアヤカがこの夢へと入ってきたときと同じ黒い漆黒の穴を用意する。
『・・・そう焦らないで。もう、過去の事なのだから』
フーは悲しそうにそう言って、先に歩き出した。




