遠い記憶の中で01
「うん・・・って、うわ。私なんで、木の上に!」
目覚めたアヤカはどこかわからない白い街並みの公園と思われる場所に一本そびえたつ木の上にいた。
「とりあえず降りてみようかな・・・」
木の上と言っても周りを見渡してもその木より大きな建物ばかりで景色はあまりよくない。
それに霧が掛かっているのか視界も良くない。
一応わかるのは、ここはエデンでもなければ地球でもないということ。
なぜなら・・・
「車が空を飛んでいる。・・・ここはまた違う世界なのだろうか」
アヤカはかろやかに枝から枝へと飛び移り・・・足を滑らせ地面に尻をぶつける。
「あいたた。おかしいですね、普通の木なら足を滑らせないように力調節したのに。あれ?・・・この風景、見覚えがあるような」
地面に着いてから見えるその景色。
砂場に滑り台、水飲み場にベンチと言ったよくある公園の風景。
前世の日本とは違うまた別の懐かしい感じ。
「「「オギャー、オギャー」」」
「うわ!?」
何かを感じ始めていたアヤカの近くで唐突に聞こえる赤ん坊の声。
木の反対側に回ると、そこには段ボール箱に入れられた3人の赤ん坊がいた。
「・・・え?」
その中の一人に見覚えがあった。
いいや、見覚えどころじゃない。鏡で毎日見ている。
それどころか、さっき細かいところまで同じ人にあった。
「・・・これ、私?」
3人の赤ん坊の中央に置かれた赤ん坊はアヤカとうり二つであり、そのアヤカと似ているフーと言う少女と髪の色、瞳の色まで一緒だった。
「ぁうあ」「むぅう」「すーぴー」
両隣りに眠る赤ちゃんも確かに自分と似ている。
でも、アヤカは中央にいいる子と強いシンパシーを感じた。
「・・・」
ミレイは触れようと手を伸ばす。
「あうあう」
中央にいる赤ちゃんもアヤカを感じてか手を伸ばしその手に触れようとしたとき・・・
「赤ん坊の声?」
背後に男性の声をとらえ、アヤカは手を引いた。
「!」
そして振り返り・・・驚いた。
「なんだって、こんな場所に。こんな雨の中」
買い物袋片手に傘をさしていた男はこちらに近づいてきて、アヤカの後ろから赤ちゃんを見る。
「え、あ、ちかっ・・・」
「トキには怒られるかもしれないけど、連れて帰るか・・・」
―――そう言って男の手はアヤカの体を通過して段ボールをつかんだ。
「え?」
「しかし近づくまでわからなかったが、この子たちは半神だな。エデンのリンゴに使用形跡がある。・・・またどこかが、禁忌を犯そうとしているのか?」
そう言って男は段ボール箱を持って去って行った。
アヤカは衝撃的なことが多すぎてしばし硬直状態になってしまった。
それから、自らの体に触れ木の外に出て雨が降っていることに気づく。
雨は降っているが、自分の体は濡れない。
足元に広がる水たまりには雨がぶつかり、水面に波紋が広がる。
「・・・私、どうなってるの?」
アヤカは戸惑いながら空にそう問いかけた。
帰ってくるはずもない問いを投げかけて。
『簡単だよ。これが現実じゃないだけ』
その声にアヤカは振り返る。
そこにはアヤカと同じく雨に濡れていないフーがベンチに座っていた。
その彼女をまっすぐとらえ、ここまでもた遊ばれて少し頭に来ているアヤカは強めの口調で問いかける。
「ここはどこ?」
『私の記憶の中』
その返答に、すこし驚きと納得がいった。
「じゃあ、さっきの男の人がつれて行った赤ちゃんの一人があなたと言うこと?」
『もっとはっきりいいなさい。その赤ん坊の、誰が私?』
フーは何をさせたいのか、私にそう聞いた。
アヤカは彼女の真意がつかめないので、とりあえず素直に答える。
「・・・真ん中にいた子」
『ふふ・・そうだよ』
フーは嬉しそうに笑い、肯定する。
「じゃあ!・・・」
そこでアヤカの言葉が詰まる。
それを見て、フーは肩肘を反対側の片手に乗せてあいている手を顔に当てると、笑みを浮かべながらアヤカの欲しい声を示した。
『そうだよ。彼こそ、あなたのお父さん。レンジの最初の前世さ』