違和感と焦燥感 後編
少し短いです
「・・・ハクレン?ハクレン!」
「ッ!?・・・あ、すまない。今ぼーっとしていた」
現実へと意識を戻したハクレンは頭を抱えその場に膝をつく。
「本当に大丈夫・・・ですか?」
「?・・・ミレイ?ッ!」
ミレイの急なよそよそしい言い方にハクレンは声を掛ける。
しかし彼女が向けた目は、他者を慮る優しく、それでいて彼女がレンジを見る者ならわかる。
あれはその眼に何もとらえてはおらず、興味を抱いていない冷たい目。
「・・・え、あ、ごめん。ご飯食べに行こう、ハクレン」
その目はすぐに掻き消え、その瞳は昔レンジの体と融合して活動していた時に向けられるレンジに混ざるものを本能で察し、憎んでいる目だ。
随分と融合していなかったから、忘れていた。
そうだ、ミレイは『俺』にレンジを重ねていない。
そう思うと、なぜか主人格に対する怒りがこみ上げた。
・・・あり得ない。
それを自覚しかけて、否定する。
「『俺』は『俺』だ・・・」
「ハクレン?」
「すまない、今行く」
ハクレンは玄関のほうから聞こえたミレイの元へ駆けようとして足が止まる。
今、恐ろしいことが脳裏をよぎった。
・・・あいつは、もしかして俺より進行が進んでいたから、ああなっていたんじゃないか?
脳裏によぎった、記憶喪失の片割れコクレン。
今思えば彼は記憶を失い、レンジが少し前まで強く意識していたミオを守るという使命を忠実に行っていた。
最後にミオの兄、トールに連絡した時は随分と喋りが流暢になったものの、どこかレンジとは違うようでその内容から、あいつはただ記憶を失い、さらにはレンジの記憶もないことからあまり気にしていなかったが、もしあれが今の俺の状態の先にある者だとしたら?
・・・そもそも、コクレンがレンジに似ているというのも無理がある。
あれは、シャレが効かない堅物だ。
レンジは俺が教えたおかげでシャレや冗談をうまいこと聞かせられるが、あれは能面。
表情一つ変えやしない。
それが、レンジに違和感がある程度。
上書きされれいる途中と見るのが妥当だろう。
そうなってくると、もう一人の覇王の人格(精神体)たる『我』の様子が気になる。
それと、アヤカ。
あれは、いつの間にかいなくなっていた。
書置きを残して。
『思い出したことがあるので言ってきます』
・・・いったい何を思い出したのだろう?
「ハクレン!」
「すまない、今行く!」
ミレイに呼ばれ、ハクレンは慌てて玄関へ向かう。
・・・まあ、とりあえず又あとで考えるか。
武を司っていた精神らしく、能天気にそう考えて。
・・・しかし、それが後で後悔することになるとは彼は思っていなかった。
※※※
人間の少女は霧に囲まれた闘技場の中央に立ち、何もないのにその目は真っすぐ何かを見つめながら声をかける。
「お久しぶりです・・・、妹たち」
「そうですね、驚きました。姉さんが人の、それもあの二人の娘として転移してくるなんて」
「・・・」
その声に応えたのは何処か神々しさを感じさせる、人間の少女・・・アヤカに似た二人の少女だった。




