違和感と焦燥感 中編
『俺』たちを連れたままの主人格は異世界のそれも主人格が愛した奥さんによって異世界に呼び出されていた。
本来、こんなことはありえない。
異世界からの召喚は双方の管理する神の承認によってのみ成立する。
それをピンポイントでこんな大物を・・・
正直、地球のころから感じていたが二人ともなぜか神気を纏っているのだ。
神気を完全に纏うことにより、記憶と肉体の保持が行われる。それは転生とは違い転移という。
ただ、それは眠っている状態にあるゆえ。
今回二人は肉体の若返りという現象で転移した。
そして、奥さんはこの世界において少しだが、神気に目覚めていた。
・・・まあ、表に出れない『俺』たちは推論を言い合いだけで特に結論は出さなかった。
まあ、主人格の感動の再開を邪魔するほど無粋ではない。
思えばこのころからかもしれない。
主人格と『俺』が混ざり始めたのは。
数々の意見のぶつかり合いをして、共に一つのからだを共有して・・・。
始めは『俺』や『僕』から教わるばかりだったがやがて、学んだことを生かして彼は裏でいろいろと動いた。
それは、『俺』たちの望む、・・・いいや、俺たちの知らない本来あるべき『英雄』の姿だった。
世界には精神体の有無関係なく、『英雄』となる存在がいる。
彼らの共通点は『革命』と『果て知らぬ欲望』。
新たな時代を切り開き、その場所のへ踏み込む第一人者であること。
そして何より己が願いを前面に押し出し、未知を恐れる障害すべてを跳ね除けるだけの知恵と力を持っていることだ。
レンジの心は満ちていた。
幼き頃に『俺』と『僕』に叩き込まれた武の心得が、文の心得があり、己の無力さを知っている。
愛されることの重大さを知っている。
それが優しく、幼くして大人びた一人の少年。前世のレンジであった。
彼は個として満ちていても、その優しさゆえに多くのことに目をかける。
それは消して誰からも褒めれることは無くとも、消して誰かに認知されるわけでなくとも、できるからという理由で彼はやるのだ。
彼は満ちている・・・いいや、満ちていることに負い目を感じている節すらあった。
ゆえに彼は常に他者のことを考え、優先順位をつけながらも、できる限りのことをした。
それは『俺』たち英雄を作っていたものとしては、見ることのなかった視点。
やがて、『俺』たちは蓮二という主人格を理解しようとした。
・・・今思えば、それが交わりの始まりだったのかもしれない。
『俺』たちは気づいた。
『俺』たちが作っていたのは使徒としての・・・世界が、世界を回す潤滑油として作られた『世界のため』の英雄。
人の中に生まれる英雄は、『人に夢を見せる』英雄。
人は、心を持つ。
性格といってもいい。
性格は最初に述べたように積み上げられた経験で構成される。
ただ、その性格が大きく変わるような例外が存在する。
それは・・・『夢』に出会えた時だ。
『夢』。・・・それは幼き頃は誰しもが夢想し、誰しもが等しく心に抱く最初の野望。
無知ゆえに壮大に、純粋ゆえに理想卿を語ることの許される戯言。
だが、それを戯言と語るのは一重に、人としての弱さゆえに。
我々はおろかだ。
弱者ゆえに数を増やし、強者を数で食い殺してきた。
それ故に集団の恐ろしさを知っていて、集団から抜けることに恐怖を覚えてしまう。
・・・しかし、集団の中に恐怖を感じないものもいる。
それは集団の先頭。
それは、集団という存在において最もの最初に危険を踏み向きかねない孤独な存在。
そんな先頭の中で、勇猛に未知を踏み歩く存在こそ英雄。
英雄は未知を駆け抜ける。自らが渇望する欲望の果てを知るために。
あと追おう者は英雄を選ぶ。
ゆっくり、周囲を気にして永遠に感じる一歩を進む臆病者より、はるか先を自由に走る先頭に追い付きたくて。
共にその隣を走りたくて、無我夢中に全身全力で駆け抜けるその存在は生物としての理想であり、理性あるものとして受け入れがたいものだ。
英雄は何にも縛られない。
人の美点であり、汚点である臆病を起こす理性をうまく御して、未知の地を傷一つなく走りぬける。
そうして英雄の後に続いたものが未知の地を横に広げてゆく。
しかし、その地はもうすでに未知の地は言えない。
英雄によってそこのわずかながらの知識が存在するからだ。
0を1に変える英雄。
その1を∞へと変える追走者たち。
『俺』たちはレンジを見て自らの作りだした英雄は所詮、追走者であることに気付いた。
1を∞にするための速度を上げるだけだと。
あの主人格の中から見た助けられた者たちより向けられる希望に満ちていてやる気に溢れた目。
『俺』達の作った英雄では感謝しか見れなかった人達から向けられるその表情。
・・・そして、『俺』たちはあるべき英雄となった主人格にあこがれて行った。
・・・違うな、レンジになりたかったんだ。