違和感と焦燥感 前篇
「さて、ハクレン。どうおもいますか?この土地」
「・・・その前に屋敷を一度確認しないか?」
「そうね、・・・」
屋敷に入り、事前に渡された屋敷のガイドマップを地図に二人は屋敷を探索する。
マークの付けられた場所が使用できる部屋になっており、そこを確認し、見せかけの荷物を置いた二人は居間でくつろぐ。
「紅茶でも入れてくるよ」
「あと茶菓子もお願い」
ソファの上でまるで猫のように丸くなるミレイの要求にハクレンは苦笑いをしながら厨房へと向かう。
先ほど確認した限りでは厨房には茶葉や食器、調理道具、ある程度の食材があり、自炊できる環境は整っている。
紅茶を入れたハクレンは茶菓子と共にそれを持って今に行くとそこにはミレイの姿は無い。
紅茶を先にのみ始めていると、今へとつながる通路の一つから足音が聞こえる。
「ハクレン!温泉がある!」
やはりと言うか、・・・まあこの屋敷には二人しかいないので当り前だが、ミレイが子供の用にはしゃぎながら報告してくる。
ハクレンはその報告に懐かしさを感じると同時に、ひどく嫌悪感を覚える。
「・・・あ、えっと。はしゃぎ過ぎた。えっと、ごはんどうする?私が作ろうか?」
ミレイはハクレンの顔が急に青ざめ、吐き気を持ようしている事に気が付き、はしゃぐのをやめる。
すると、ハクレンはいまだに蒼白な顔色ながらも彼女を必死になだめた。
「・・・あ、いや。大丈夫だ」
そう言いながら、ハクレンは気づいた。
―――『俺』が、失われ始めている?
今、ミレイが温泉にはしゃぐ姿を見て懐かしく、嬉しく思った。
けれど、それはおかしくないか?
今までは、ミレイがハクレンと距離を取るような態度だった。
故にあまり気づかなかったが、今はっきり感じた。
ーーー記憶が上書きされている。
少し話が変わるが、レンジの中には様々な人格がいた。
それは、前の世界で英雄を作るシステムとして数多くの人に憑依して来た豪傑の精神体『俺』と英傑の精神体『僕』。
さらに、かつて暴走したことにより人という途切れることなき棺の中で封印された覇王の精神体覇王の精神体『我』。
元といえば、我々はひとつの個としての自我を確立しており、使徒として時に人の社会に紛れ込み、一時の英雄として名をはせた。
我々は歴史を見れば、多くの分岐点において存在する。
それらの記憶を持って我々は、進化する人類に新たなる英雄の創造し続けていた。
人の性格の大部分はその者の経験により構成される。
ゆえに、良質な記憶を持つ者やこのまま死なせるには惜しい記憶を持つ者を地球より派生した異世界へと送ることはある。
ただ、今回のような出来事は極めて異例だ。
こうして主人格とはなれ、改めて現状を考えた今こそわかる。
しかし、この世界を主人格を通してさらに今この本来の役目を思い出してわかった。
・・・この世界に管理すべき神がいないということに。
本来であれば、どの世界にも創造神と呼ばれる存在が存在する・・・らしい。
これは地球に存在した、神から聞いた話ゆえ審議もほどはわからない。
だが、この世界の神の持つ権能や神気はあまりにも小さすぎる。
それでも世界が回るのは創造した存在が優秀だったのだろう。
本来であれば、使徒たる精神体を3つも抱えた亜神級の存在を中身をそのままにして世界渡航させるのは神々の中でも最上位にいる存在の作りし世界だろう。
まあ、それは今おいておくとして『俺』という人格が崩れ始めていることだったな。
これに関しては簡単に言えば、主人格と同化しそうになっていたということだ。
俺たち精神体は本来であればあるべき、人の精神を乗っ取りあらかじめ性格のほとんどを構成してしまう。
しかし、主人格であるレンジは抵抗した。
それも、精神体2体分を。
覇王の精神体をその身に封印されているとなれば、器の大きさがすごいとは思っていたがそれ以上だった。
『俺』や『僕』を取り込んでなお余裕のある大きさに、珍しく俺は夢を見た。
世界の変革者。0を1にする大いなる存在。
そんな風に感じ、珍しく熱心に観察した。
そう、傍観ではなく観察。
興味を持ったのだ。
彼は生まれた時から紙に等しき魂を持ちながら、なぜいやしく見るに堪えない人に転生したのかを。
我々は見ていて驚いた。
彼は、消して表舞台に立たなかったもの、多くの人の心を救い、導きそして世界を崩壊から守った。
その時珍しく神(地球の)が珍しく笑ったのを感じた。
その笑みはどこか、だれかを懐かしむような笑み。
・・・しかし、彼はその世界の一つの節目を見る前に命をお落とした。
俺たちはすぐに神に彼は転生させるべきと報告しようとした。
その時だった。
地球の神をも超える、神気を纏った転送魔法に主人格を含め俺たちが飛ばされたのは。