魔王、動く
「あまり心配を掛けさせないでください、ミオ様」
「ごめんね、コクレン」
部屋に着くとそこにはちょうどコクレンがおり、ミオを見るなり駆け寄り心配していたことを告げた。
「霧咲、君もできれば一言欲しかったよ。・・・でもね、どうやらミオが少し元気になったみたいだから言っておくよ、ありがとう」
「・・・何も言わずにごめんなさいね」
コクレンが優しい笑みでそう言うと霧咲は頬を赤くしながらそっぽを向いた。
コクレンはわかれた人格の中で最もレンジ近い見た目をしている。
お風呂で霧咲はレンジ君が気に入っていると言っていた。
その初々しい初恋少女のような様子にミオはすこしだけ・・・心が軽くなった。
「ミオ様、うれしそうですね。どうかしましたか?」
コクレンはそうミオに聞くも彼女は何も返さなかった。
―――私はあなたをコクレンと言う一人の人物として見れていないから。
コクレンといると・・・レンジ君と違う部分ばかり目についてしまう。
見た目が近いがゆえにそう言った違う部分にどうしても抵抗を覚えてしまうのだ。
またさらに言えば、もとよりレンジ君は自分の父親に似ていた。
容姿ではない雰囲気と声が。
それがコクレンに分かれると、見た目がより近くなってしまったのだ。
それは、あの戦いで父とレンジを分けたミオにとって最も抵抗を覚える部分だった。
「ミオ様・・・?」
そして極めつけに・・・ミオ(私)を様で呼ぶ。
レンジ君なら絶対にしない。・・・たとえ癖であろうと。
コクレンは全員の名前をさん、さま、くんと着けてよぶ。
それは、あの私のさびしかった時のことを知るレンジなら絶対にしないことだ。
「・・・うんん、なんでもないよ。朝食が気になっただけ」
私はそう言ってあいまいに返す事しかできなかった。
彼はレンジ君ではない。
だけど、レンジ君から分裂したのだから当たり前かもしれないが彼の面影が残っている。
だから、私は手放すことができない。
私は・・・後悔し続けている。
私欲のために親友の旦那さんを連れ去り、・・・結果的に消してしまった。
ミレイちゃんとはあの日以降あってはいない。
彼女はもう一人のレンジ君・・・ハクレンとライファ―の禁書庫でレンジ君や邪神の情報を集めている。
・・・私もブレイファーにある書物を調べていたりはするが、いかんせん脳筋ばかりなもんでロクな書物が残っていなかった。
あと、あるとすれば・・・上位者たち。
種を極め、その極致へと至り、その身を終焉、天災を対処する天使同様の使徒へと昇華させた不老の者たち。
存在を知られてはいる。(精霊王、神龍などは種の統括をしているため)
彼らに話を聞くことで有意義な話を得ることはできると思うが・・・。
「・・・行ってみるか」
「どこへですか?」
ミオのつぶやきに霧咲を刀に戻し、腰に下げたコクレンが反応する。
「・・・コクレン。私もそろそろミレイちゃんのように動こうと思う。・・・ついてきてくれるか?」
「・・・、無論です」
コクレンは、驚いたような顔を少しするもうなずきそう言った。
「コクレン、悪いが旅の準備をしてくれない?それと霧咲をもう一度人化して欲しいの」
「霧咲を?・・・かまいませんが・・・」
コクレンはミオのお願いの真意をつかみかねるといった顔をしている。
「・・・?あ、衣服の準備をしてもらおうと思っているだけよ?それともコクレンがやる?このスケベ」
体をよじり、叱責するように言うミオ。
「・・・すみません」
それにコクレンは顔をそむけて反省する。
その頬は赤く染まり、普段は見せない恥ずかしがっているコクレンを見せる。
「いいの。わかったら行って。私はトール兄さんやほかの連中に話しつけてくるから。・・・そう言えばコクレン朝食は?」
「まだです」
淡々とそう言うが、その瞬間グーと言う音が廊下に鳴り響いた。
無論、コクレンから。
「・・・食堂に来る?それとも何か持っていこうか?」
「荷造りの前に行ってもよろしいでしょうか?霧咲に魔力を吸われてお腹がちょうどすいているので」
「じゃあ、先に行ってて頂戴。それと、旅で食べる用の携帯食や飲料水をいくつか用意してもらって。私が受け取っておく」
「その受け取りなら私が・・・」
「いいの。私が後から行くし、時間もかかるからいけるのは空きはじめくらいだとおもうから、それから食事してちょうどいいと思うの」
「わかりました。・・・では失礼します」
コクレンはそう言って食堂へ向かう。
その背を見送り、ミオは反対側へと歩き出す。
まずは双帝の執務室。
まだ朝のみな朝食をとっている時間。
―――故に誰もいない。
ミオはにやりと笑みを浮かべると、蒼龍おじいちゃんの机のうえにある白紙の紙に『旅に出ます。探さなないでくさい』というメッセージを。
紅龍おばあちゃんには『神龍様のもとへ行き、古の英雄の話を聞きに行きます』と書き残した。
※※※
続いて双帝の執務室の反対側に有る4天王の執務室に入ると、大量の書類に目を通し、サインや指示を出すトール兄さんがいた。
その周りには腹心の部下の女性二人が確認をしている。
「・・・あ、魔王様」
「え?・・・あ、本当だ!ミオちゃん、こんにちは」
二人は入室してきたミオに気づくと挨拶をする。
その二人の発言でミオの存在に気づいたトールは一度こちらに目配せをしながらも作業を続ける。
「・・・行くのか?」
トールは、入ってきたミオが何かを決意したように見えていた。
今何を決断するか。答えへは自然と導かれる。
ミオは黙ってうなずいた。
「・・・何処に行く?」
「・・・西の果て、〈竜の谷〉」
ミオの意向としている場所にトールは驚き手を停めた。
「!?・・・まさか」
「グレネーターに話が聴きたい」
その言葉に腹心の子たちから声が上がる。
「・・・いくらお前でも神龍は」
「行く前から無理とは決めたくない」
ミオはトールの言葉についてもう考えたと叱るように言葉をかぶせ、はっきりとそう言った。
「・・・勝手にしろ。そして、さっさと俺の義弟を連れ戻してこい」
「兄さん、それは・・・」
ミオは驚いた。
・・・トールはこう見えてレンジの事を認めているし、甲斐があることもわかっている。
「お前がそれだけあいつのことを思っているのは分かっているからな・・・これでも、兄だし・・・」
トールは照れたようにそう言った。
腹心の2人はそのトールに思わず笑ってしまう。
「おまえら・・・」
二人にそう言って睨むような視線を向ける。
「だって、あのシスコンのトールがね?」
「そうそう」
二人は茶化すようにそう言う。
その二人にトールが色々と言い訳をする。
まったく、朝から騒がしいものだ。
・・・おそらく一睡もしていないからハイテンションなのだろう。
3人の目には隈ができている。
・・・トールはまだ幼い自分のために色々と仕事を引き受けてくれているのは知っている。
「・・・3人ともありがとう。うんん、兄さん、義姉さんたち。ありがとう」
ミオはそう言ってトールのいる執務室を出て行った。
出て行った執務室内でトールはひきつった笑顔を、腹心の女性二人は頬を赤くして互いを見合わせる。
「・・・ねえ、今ミオちゃんが私たちを義姉さんって」
「・・・ねえ、トール。これで恋人になるための条件はクリアよね?」
「・・・ミオの奴」
トールは苦笑いながら天を仰ぎ、そうつぶやいた。
―――のちの双帝執務室
蒼龍「大変じゃ!ミオが家出を、イデッ!?」
紅龍「・・・ふふ、あの子もすっかり女だね」




