帰還と変調
ゴールデンウィークなのに、塾に模試がある・・・。
『おや、意識だけの帰還ですか?』
目の前にはどこか自分の最愛の人に似た女性がいる。
その容姿は瓜二つ。
ただ一つ違う点を挙げるのなら・・・彼女は銀髪だった。
「・・・」
『・・・ああ、そうでした。あなたは―――でしたね』
何かノイズが混じり彼女の言葉に一部が聞こえない。
・・・ただそれはすこしするとその事への興味を失い、ほかの事が気になる。
「・・・」
『え?私ですか?・・・ふふ、そうですね。トキと名乗っておきましょうか?』
彼女―――トキは優しく微笑む。そんな姿まで・・・彼女に似ている。
「・・・」
『なぜ自分を知っているかって?・・・そうですね、間違えただけです。あなたが私の最愛の人に似ていただけの事』
「・・・」
『あら、あなたの最愛の人も私に似ているのですか?・・・私に惚れてしまいましたか?』
「・・・」
『あら、その方のほうがいいと・・・そこまで愛されているとは妬けてしまいますね』
彼女は頬を膨らませ可愛らしく怒るも、すぐに笑顔になる。
『嘘ですよ・・・私も愛しているのは、あの人だけですから』
その笑顔にはどこか影があり、寂しそうだ。
「・・・」
『あら?心配して下さるのですか?嬉しいですね』
「・・・」
『・・・ふふ。悲しそうな顔をしている女性を心配しない男がどこにいると。さすがですね』
「・・・」
『やはり自分を知ってるかって?いいえ、私は貴方を知りません。ただ、感じるのです。あなたのそばにいる―――の幸せそうな気持ちが、寂しかった思いが・・・』
「・・・」
『さあ?誰もあたたの最愛の人とは言ってませんよ・・・おや、そろそろ大時間のようですね。フフ、こうしてちがう彼と話すのも新鮮ですね。やはりその人を作るのはその人の人生そのもの・・・今と言う時間を大切にしてください』
それと共に自分の意識は闇へと飲み込まれていくのであった。
※※※
「ダーリン!」「お父さん!」「旦那様!」
目が覚めると目の前に3人の顔が見える。
「・・・みんな?」
「よかった、目が覚めて・・・」
「・・・?いつの間に気絶を・・・」
周囲を見渡すとどこかの部屋のソファに自分は寝かされていたようだ。
「ここは試験会場の控室、旦那様は強制転移後気絶してここでお眠りになられていました」
「エリーゼ?」
「・・・今は賢者モードって言ってものすごく冷静な状態なんだって」
「・・・そ、そうか」
苦笑いのミレイの自分も苦笑いで返すしかなかった。
「試験はどうなったんだ?」
「・・・おそらく中止、ね」
ミレイはどこか複雑そうな表情をする。
・・・あんまり君にそういう顔をしてほしくないな。
「?ダーリンどうし・・・ひゃん!」
自分は無意識に手を伸ばし彼女の顎を撫でた。
ここは彼女の弱点でもあり、脇やお腹をくすぐっても効かないがここには反応するのだ。
「ダーリン!」
「ごめん、ごめん。君のそんな表情見たくなくてね」
自分はそう言ってミレイの頭を撫でる。
「なにかあるなら言ってごらん。君の為に僕にできる事なら何でもやってあげる。僕はね、大切な人のつらそうな顔や悲しそうな顔が一番嫌なんだ・・・」
「ダーリン・・・」
二人は熱い視線で見つめ合う。
「お父さん、お母さん・・・」
「旦那様、ミレイ様・・・」
それを傍から見ていた二人から声が掛けられる。
その声に二人は我に返り、互いに顔をそむける。
「す、すまない、ミレイ」
「い、いえ、こちらこそ・・・」
二人の顔は真っ赤。かなり恥ずかしかったのだろう。
再び自分はミレイの顔を見るとその恥ずかしがる姿に前世の記憶が重なり懐かしくなる。
その瞬間、一瞬、何かがフラシュバックする。
――――白いコートのような服を着て笑いあう自分とミレイに似た銀髪の二人。
――――彼らと共に何かを見守る3人少女。
――――灰色の髪と紫紺色の髪色のこれまた自分とミレイに似た精霊。
――――その二人を合わせた12人でモンスターの群れへと立ち向かう光景。
「・・・っ!」
僕はそれにどこか覚えを感じるも急な頭痛に頭を押せる。
「ダーリン!?」「お父さん!?」「旦那様!?」
自分御体に触れようとする3人を自分は手を伸ばして静止させる。
『・・・来てはならぬ。今の我に触ればこの者は背負いし過去に身が持たぬであろう』
それはレンジの口から、レンジではない口調で聞こえた。
「・・・お前は誰だ」
『我は、汝に潜む王の仮面。将の仮面、軍師の仮面に続き我を覚醒させたことまことにうれしく思う』
「・・・王の仮面?」
『そう、我は汝。汝は我。貴様が一人称を変えることでスイッチとする人格変異の1人格と言うことだ。・・・っと、これ以上はわが力をもってしても表には出れぬようだな』
そういうと、頭痛は引いてゆき今では何を思いあしかけたのかすら思い出せない。
「ダーリン、今のは・・・」
「ああ、俺が怒り狂った時に見せる雰囲気と同じ・・・」
すると、僕は再び力が抜ける感覚に見舞われ意識を失う。
※※※
――――とある漆黒の空間。
「・・・!」
そこにいた彼は急に後ろを振り返る。彼は一直線にこちらを見ている。
「・・・あ、そうだ。言葉を話さなくては意志の疎通は取れないんだったな」
彼はそんなすっとぼけたことを言う。
「・・・うん、君たちは傍観者のようだ。この世界の者ではないな」
彼はそうしてしばらく黙り込む。
「・・・うむ、返答はできないと。まあいい。長い間この空間であれの力がたまるのを待ち続けていたのだ。いまさら何を話そうと時代錯誤になってしまう」
そういう彼の背後には黒い光を放ち、周囲から黒い靄を吸収する腕輪があった。
「・・・うん?あの腕輪の正体を知る者がいるようだな。ならば俺の正体もわかるか?」
かれはそう言って愉快に笑う。
「・・・うん?そろそろ消えるのか?まあいい。お前たちにだけに教えてやる。今日のデモンストレーションは一種の試験、・・・まあもっといえば余興だ」
「・・・しかしあれで神のシステムに違和感程度は持つだろう。・・・フフ、偽りの平和はこの手によって今崩される。待っていろ、生命神、魔法神」
彼はその腕輪を自身の腕にはめる。
その腕は光を放ち、彼自身を覆ってゆく。
「いまこそ、世界はあるべき混沌の時代へと変わるのだ・・・」
その場には紫色の光と男の高笑いが漆黒の空間に広がってゆくのであった。
週一更新も怪しいかも入れません・・・