モンスターの異常発生・終焉の魔物
「これはおかしい」
「そうだよね、お父さん!」
「確かにこのモンスターの数はおかしいです、旦那様」
湖に向かい始めて、20分。
正面の敵の身を集中して倒してきた。
それゆえにドロップ品は確認してはないがかなりの量になっている。
100単位で報告を知らせるアナウンスを2分に一回耳にする。
「大量発生ってやつなのか?・・・それともこの森地帯に参加者がいなくなったからか・・・」
「自然減現象としては後はほかのエリアからの退避、上級魔物による召喚、又は生産などありますが・・・」
「・・・待て、今なんて言った?」
「え?自然減現象としては後はほかのエリアからの退避、上級魔物による召喚、又は生産などありますと言いましたが・・・しかし、モンスターがおってこなくなった?」
エリーゼの言葉にレンジは最悪の想像をする。
「・・・おいおい、まさか自分体は最悪の下へと向かっているんじゃないか?」
レンジがそういう頃には森を抜け湖が見えた。
「ヴァエアアアアアアアアアアアア!」
そこには雄叫びを上げ、周囲に参加者の死体、それに瀕死のシロクマのような巨大な熊を転がす鹿のような生き物がいた。
ただそれの纏う気配はモンスター。それも・・・天災級。
角はクリスタルのように透き通っていたのだろうが内部がよどみ、まがまがしい入りを放っている。
『あれは・・・転輪の森の守護者』
グローブにはめた魔石が光り、ラスの声が聞こえる。
「ラス、あれを知っているのか?」
すると、ラスは魔石から人型へと姿を取ると、目を凝らして鹿をよく見る。
「うん、あれは間違えなく転輪の森の守護者だ!額に付けた星型の傷、間違いないよ!」
ラスはしかの額を指してそう言う。
よく見ると星形の傷がある。
『人間は・・・わが敵。我が森を見捨てた生命神を慕うライファーに地獄を!』
頭の中に直接声が聞こえてくる。そして、鹿が再び奇声を上げると地面より漆黒の茨がわき出てくる。
「な、これは本当にモンスターなのか?」
その茨はまがまがしく、周囲の参加者の死体に突き刺さり、何かを吸い取っている。
そう言えばなぜあの死体達はlogに乗らず、しかもこの場に留まり続けている?ここのモンスターにやられたなら強制転移のはずだが・・・。
「いけない、あのままではあの人達、生き返れなくなっちゃう!」
目の色が変わっているエリーゼがそういう。
「マスター、あれは元神獣。今は邪な気配のけがれた、『終焉の魔物』となっている。たぶん、邪神に殺されてああなった」
「・・・邪神?ってそれどころじゃない。エリーゼ、このまま参加者をあの茨に突き刺させるのだめなんだな!」
「そうなの!あの茨、このフィールドに張られた生命神の加護を破って魂を食べようとしている。私の獣王のスキル『獣の瞳』は生き物の魂や加護、魔力の流れが見えるんだけど、あれは魂を食べようとしてる!」
・・・今から助ける?全員は、無理だ。なら、やるしかない!
「エリーゼ、アヤカ!死体となっている参加者にとどめを!」
自分は二人にそう指示を出す。
二人は少し考え、自分御言葉の意味を理解する。
「無色魔法〈多重創生〉」
自分は複数の槍を召喚し、参加者の死体に向けて自由落下させる。
複数の物を生成するだけでもかなりを使ううえ、物を操作するのはさらに力がいる。それも数が数ならば精密性など求められない。
だが今回は死体であり、茨によって固定されている。
ならばそこに合わせて生成し、落とす。
すると参加者たちは次々と転送されてゆく。
このフィールドの帰還条件はフィールド内にいるモンスター、参加者に殺された場合を想定して帰還プログラムが作られているとみて間違えない。
つまりそれ以外の死因は想定してないわけだ。
これはおそらく事故(木から落ちて、泳げなくて…など)を想定していわれたことだろうがおそらく乱入者と思われるあの鹿に殺されたのでは反応できないのだろう。
それゆえに先ほど槍を当てると、参加者は即座に転送が開始された。
「グラアアアアアアアアアア」
先ほどまでしたいと思われていた白クマがその体を鮮血に染めながら瀕死の一撃を放つ。
あの巨体から出たとは思えぬ速度。
・・・しかしそれは無残にも失敗に終わる。
「グゥ・・・ア・・・」
今まで動かなかった鹿は光速の速さで熊の懐へもぐり込み、その心臓を自前の角で貫いた。
白クマは巨大な魔石を残し消える。
その魔石は鹿の角が光ったかと思うと、そのまま吸収され、鹿の体が一回り大きくなった気がした。
その瞬間、指輪のlogに緊急連絡が入る。
※※※
5時間経過による特殊モンスター投入。
特殊モンスター討伐。討伐※あcfw:Asjbqdfjb
緊急連絡:邪神の手先降臨に着き、一次試験の中断を申告。
参加者の緊急帰還を優先する。
なお、そのモンスターによる死亡は復活不可能のため注意。
帰還終了予定時刻:現在より約一時間。
※※※
「お父さん・・・」
「・・・逃げたいか?」
「冗談!」
「旦那様・・・私達はわかっています。ね?ミレイ様」
エリーゼは自分の背負っている彼女に向けてそう語りかえる。
「・・・フフ。ダーリンパワーフル充電。今の私なら何でもできる気がするわ!」
ちょっと興奮気味なのか顔の赤いミレイ。
「マスター、ラスも頑張る!」
ラスはそういうと魔石に戻ってグローブに着く。
『暴食の権能発動。〈すべてを喰らう者〉。ダメージの一部の吸収、状態異常を一定確率で無効化する』
これが暴食のスライムの魔石効果。かなりありがたいたいものだ。
「・・・うわ、またお父さん魔石増やしてる」
「ダーリン?今の女の子についてあとでくわしく・・・」
「はは、旦那様も大変ですね。でもそんな旦那様が・・・ハァハァ」
「えっと・・・後で詳しく説明するから。と言うか、アヤカは知っているでしょ」
「・・・(無視)」
「もういいです・・・」
―――無視はお父さん泣いちゃいますよ、アヤカ・・・
見た目は少年でも心は立派な娘を持つおじさん。
状況も状況なので心でなくレンジ・・・なんとも不憫である。
『ま、マスター。ファイト!』
ラスの言葉に励まされ、気合を入れる。
そして自分は常々を召喚し、刀を構える。
その横に並ぶように3人が並び、同じく武器を構える。
「強制転送まであと一時間・・・全力で奴を止める!」
「「「了解!」」」
「ヴァエアアアアアアアアアアアア!」
自分体の声に呼応するようにしかも茨での攻撃を仕掛けてくる。
「・・・常々」
『了解』
レンジは常々を鞘に収め、抜刀の構えを取る。
すると、アヤカとミレイが走り出す。
「ミレイ様、アヤカちゃん!」
「エリー早く来なさい。道は一瞬です!」
「エリー、お父さんを信じて!」
そんな二人の言葉にエリーは二人を追う。
そんな二人へ、茨が襲い掛かる。
しかし二人は速度を緩めない。
「我流 抜刀術 魔術併用Ⅲ型―――」
その瞬間、レンジの体が光に包まれ・・・消えた。一瞬強制転移されたかと考える。
「散桜」
その声をエリーは真横から聞いた。
エリーが超えの方へ顔を向けると、そこにはレンジがいた。
「だ、旦那様!」
「前見て走れ、危ないぞ」
レンジは飄々としてそう言う。
そしてその背後では何か重たい物が落ちる音がする。
「・・・さすが」
その堕ちたものとは黒い茨だった。
あの茨は悪魔の鎖と言われ、そこそこ有名なものだった。
耐久性があり、特殊能力を抑える。
それをいとも簡単に一瞬で。
この奇襲により鹿との距離を半分ほどつめたところで鹿の様子が変わる。
角から魔法を放つようになった。
「遠中近すべての攻撃のできる敵か、厄介だな」
「しかし、手こずる相手ではない」
自分ははっきりとそう言い切った。