スライムのラス
―――パチパチ
水羊羹が蒸発して落ち込むレンジのそばで拍手が鳴り響く。
その音源へ顔を向けると、そこには一つの影が立っていた。
『すばらしい』
影はスライムのいた跡地を見てそう言う。
・・・先ほどの影と言うのに捕捉させてもらう。彼がこちらを向いていることでわかった。
「影を纏った人間?」
『おお、そうか、君は闇との親和性が高いのかな?私が人型に見えるのか』
最初見たとき、それは影に手足が生えているように見えた。
しかし今は中心となる人型の生き物の周囲にあの影のようなものが集まっていると気付く。
『しかしその魔法、私の兄を思い出す。『万能』の英雄となれたがその称号を12に分け、仲間に与えるなど・・・そして自分は残った『盾』の称号。私はかつて腹が立ったものだ・・・』
影を纏う男は懐かしむように空を見る。
『しかし、兄は盾でなお英雄たらしめた。本当に尊敬できる。超えたいとすら思った。・・・だから私も兄のようにモンスターを支配下に置いたのだが・・・逃げ出してね』
「なに!?」
意外なことを聞かされた。
それが本当ならばこれは隠しボスではなくなる。…だが、隠しボスであることは先ほどlogで確認した。
『ああ、これが私の下にいたのはかなり前のこと。逃げだした後、神にひろわれたようだが、この様子でははごみ箱として扱われていそうだな・・・。まあ、それももらえる者は1級品だからな・・・こんなになって』
影の男は槍の刺さった部分から少し離れたところで地面に手を多く。
『・・・うん?もう俺の事は怒っていないのか?それより・・・ふむ。まあいいが、あいつに聞くぞ?』
彼は地面に手を置いたままこちらを向く。
『お前、スライムを飼う気はないか?』
「はい?」
急なことにいささか驚きを隠せない。
『なに、あれがお前の下に言いたいというからな』
「構いませんけど・・・餌は?」
『これは何でも食べる。・・・ああ、あと一日1リットルの水だ』
「・・・えっと、わかりました」
よくわからないが了承した。
『はは、モンスターに心を許すのか。面白いやつだな』
彼はそういうと地面からこぶしぐらいの水色のおまんじゅうを取り出す。
それから触手が伸び、レンジの額に触れる。
『先ほどはすみませんでした。先ほどスライムのです』
そんな声が聞こえてくる。
「そうか。それで仲間になりたいとか?」
『はい、私に名前をくれませんか?』
「名前?・・・ラスはどうだ?」
『・・・ラス。いいですねそうします。自分、スライムのラスは主蓮二さんの使い魔となることをここに誓います』
「え?」
『はは、モンスターに名を与えてそれをモンスターが承諾したと行くことは契約の証拠。私も認めよう』
すると、ラスと自分の間に何かつながりができるのを感じる。
「主様・・・ありがとうございます。私精いっぱい頑張りますね!」
そういって水色髪に白のワンピースを着た少女が抱き着いてくる。
「・・・え?きみは?」
レンジは少し硬直した後慌てて彼女に聞く。
「私はスライムのラスです!」
「・・・え?」
「ですから、よろしくお願いします!」
・・・スライムが少女となり、仲間になりました。
※※※
ラスを落ち着かせて魔石となってもらう。これをグローブに付けると、グローブがラスに呼応しているように感じた。
実際、グローブに付けていると召喚にかかる魔力が半分になっていた。
とにかくラスが再び召喚できることを悪人すると影を纏った人間の方を向く
『はは、よかったねスライムちゃん。・・・お、我主が目覚めたようだ。善人なる私はそろそろ消えなくては・・・』
「あ、待て・・・」
レンジは影を纏った人間を止めようとする。
しかし自分の手は彼の体に触れようとして虚空を切る。
「・・・肉体が無い?」
『そうさ・・・僕はさまよえる亡霊。闇に染まった英雄の捨てた正義の心。相棒の想像主であり、俺の尊敬していた兄よ。再び会えるときはもう一人の俺を殺してくれ・・・』
かれはそう言って闇に消えて行った。
彼は何者かはわからない。
ただレンジは漠然とあの影を纏った人間仕草に腕にあった腕輪から何とも言えない懐かしさを感じるのであった。
・・・そう言えば、あれは人間ではないかも。
レンジはふと思う。
影を纏っていてシルエットでしか判断していなかったがこの世界には人型の種は多い。
特に精霊や魔人は人と見分けがつかない。
・・・まあ、今はいいか。それよりも、彼女を置いてきたままだった。
獣王:エリーゼを草原に置いたまま出ることに気づいたレンジは急いで草原へと向かう。
「・・・あ」
そして、見つけてしまった。
エリーゼの目の前で仁王立ちするアヤカを・・・
「お父さん・・・私見てたよ」
「待て、待ってくれ。自分は何も・・・」
「お母さんに報告します」
「待って、それはシャレにならないから。ね?アヤカ?アヤカ?聞いてる?」
「・・・お父さん、嫌い」
自分は膝から崩れ落ちた。
どんな攻撃よりも自分にとっては一番この攻撃が怖いと心で泣きながら思う自分であった。