ダンジョン合宿04
突如として表れた少女の後を追って行くと、草原に出る。
「ここは隔離階層。ここなら誰も来ないし、来れない。だから安心するといい」
「・・・どういうことだ?」
「そういう事・・・でも、ミレイちゃんはあと数分で来ると思う」
「・・・あ、うん。間違いなく来るね・・・君、あの聖女の旦那さんなんでしょ?」
「・・・まあ、前世ですけど」
「そしたらなおさらさ。彼女は君に偉くご執心だからね」
緑色の髪の少女はそういいながら僕のおなかを触る。
数メートル先にいあはずの彼女が自分御お腹をつついたことにレンジは驚き、離れようとするが力が抜けて退避行動に失敗する。
力抜け地面に落ちるかと思うと突如として椅子が現れ、その上に座る。
「そんなに警戒しないで。・・・取りあえず自己紹介しようか。私はこのダンジョンのダンジョンマスターにして中位神格保持者『ガイア』だ。お前さんギルド所属しているか?」
「ミレイの前世の夫にして、このミオの友人のレンジです。ギルドには所属してます」
「ランクは?」
「ブラックのランクXです」
「・・・こりゃたまげた。ランクXとは・・・何したんだ?」
ガイアは驚きながらテーブルとイス2つ。紅茶にクッキーを召喚する。
「レンジ君は神殺しを持っている」
「下級神ですけどね」
ミオの言葉に自分は訂正を入れた。
「それは、すごいが・・・どのみち神殺しだよ。何狩ったんだ?」
「ヘカトンケイルです」
「ほお、そりゃあすごい」
「ええ。13体もいましたから焦りました」
その瞬間空気が凍るのを感じた。
「・・・なに?」
「え?・・・」
「うん?なにか?」
「お前さんヘカトンケイルって、10メートルくらいの巨人の事だよな?それを何体だって?」
「え?あ、二腕の巨人ですか?それは8体で、それより大きな4腕の巨人4体に。6腕の双盾の英雄の眷属である本物のヘカトンケイルです」
「・・・こりゃあ、荒れるな」
「わたしも知らなかった…てっきり一体と思っていた」
「どういうことだ?」
ガイアとミレイは何やら深刻そうな顔をする。一方の自分はよくわかっていない。
「ミレイちゃんはこのこと・・・知らないよね。知ってたらたぶん普通じゃいられないと思う」
「ミレイが?どうして?」
さっきから自分にはわからないことばかりだった。
「レンジ君・・・超越者って知ってる?」
「超越者?・・・わるい、しらないな」
「それが普通だよ。基本的にそう言った人物たちが必要ない世界になったからね」
ガイアがそう言い、肩をすくめる。
「どういうことだ?」
「まあ、君は異世界人だから教えてもいいか。実はね・・・数千年前にこの世界では世界改変と呼ばれる意識改変が起こったんだ」
「・・・なに?改変?」
「そう、世界改変。星に生きるものすべての意識をすりかえる大規模魔術さ」
「変えられたことは3つ。1つ、命ある者への殺しの嫌悪感の増大。2つ、大運動会と言う己が肉体能力を競う場の開設と最優秀選手という地位の確立。3つ、差別への徹底した嫌悪。そしして世界をライファーとブレイファーと言う2種にのみ分けること」
「だからこの世界はこんなにも平和なのか・・・」
自分はこの世界が平和すぎる理由を知った気がする。
「それで超越者と言うのは?」
「かつて12種には上位存在と呼ばれるものがいた。現代でも存在はしており、精霊王、妖精王、魔王、悪魔公、など様々だ。基本的に種族に高位○○(―――)と後ろに代名詞が着くのが普通だがそれはかつての血が薄れたためか、今では普通に精霊王、魔王と表記されるようになっているこれはまあ、かつての存在より弱体化していることを指すのだがそれでもかなり強いことに変わりはない」
・・・高位○○?確か自分は―――高位人間でもそのあとに何も
「まあ、稀に純粋な高位種、まあ生まれながらの高位種っていうのがいるんだけどそれは代名詞が無いからね。そんなものは改変前にすでに絶滅寸前だったからこの世界ではもういないだろうね」
「もし・・・見つかったら?」
「・・・さあ?でも、高位種は動くんじゃない?」
「どうして?私的利用はこの世界では疎まれそうだが・・・」
「わかってないわね。各種の高位種がこの世界でどんな存在か」
「なに?」
ガイアは呆れようにため息をつき、
「高位種はこの世界の平和を保つ神の使者的立ち位置だ。無論精霊や天使が神本来の使者であるのが、今代の高位種は成長し神に求められたことにより高位種へと昇格した神に認められた者なのだ。そんなものが同じ種にいれば絶大な支持を得ることはもちろんましてはそれが転生を繰り返し変わらぬ統治を繰り返しているとなれば、かの者たちの発言に多少の疑問を持とうと、反抗する者は少ない。それだけの信頼があるのだぞ?」
「長生きゆえの信頼か」
それはかなりすごいことだと思う。
長く生きればそれだけ苦悩がある。物語でも長生きなものは闇に落ちやすい。
これは推論にすぎないが仙人のような状態なのだろうか?
己が欲を殺し、種のために生き、固執しない。
それなら納得ができる。
「・・・ちなみに高位種が動くと言ったからな?別に種ごと動くとは言ってないからな」
「は?種の頂点なのだろ?配下を使って・・・とかじゃないのか?」
「ない。動くなら自身だな。・・・と言うか高位種が行政を行っているには精霊と妖精、悪魔に竜人ぐらいなものだぞ?」
「そうなんだ」
「そう、大体は各地で放浪してたりとか姿偽って家族作ったりとかしているから」
「・・・それはそれですごいな」
・・・自由すぎる
「でもなんでそんなことを?」
「たしかに、レンジ君は何か知っている?それとも・・・」
二人はそう言って僕を怪しむ目で見る。
「・・・二人ともヴァルキリーってしているか?」
「うん?戦乙女だろ?確か精霊種の高位種の一つ・・・それがどうした?」
「ヘカトンケイルを倒したときに共闘した精霊がその戦いでヴァルキリーになって―――」
そこまで言って僕は簀巻きにされた。・・・どういうこと?
「・・・レンジ君、君あの時女の子といたの?」
「え?ミオ?どうしたの?顔が怖いよ。それと彼かなり大切なことを・・・」
「『ガイア』は黙ってなさい」
「・・・はい」
ガイアは黙らされ、椅子の上で正座をしている。
「レンジ君・・・お話ししよう」
そのまま僕はミオに引っ張られ15分近く説教を受けた。
案外短いと思ったら・・・
「続きは、ミレイを交えて」
と言われた。・・・もう、いやだ・・・絶対半日近く怒られるよ...
「まあ、ドンマイ。お茶のみな」
「ありがとうございます。ガイアさん」
自分はガイアの入れた紅茶を飲む。
「それでヴァルキリーがどうしたの?」
「あ、そうだ。その精霊の子がヴァルキリーになったので高位種に興味を持ったのと精霊の高位種が精霊王なのはわかりましたが、ヴァルキリーが純粋な高位種だったらどうなるかと思ったので。・・・もし困っていたら力を貸してあげたいと思った次第です」
「そんなかしこまんなくていいいよ。普通に、リラックス、リラックス」
「はい・・・じゃなくて、ああ、わかった」
「それでよし・・・しかし、ヴァルキリーが現れたね・・・精霊にも少し気にかけておこうかな?」
「・・・どやってかは知りませんが、お願いできますか?彼女、前世の親友なんで」
「・・・ふーん。まあいいや。その代わり君、定期的にここにきてくれよ」
「別に・・・かまいませんが。御話し相手になれば?」
「そうだよ・・・それと敬語」
「あ、すまない。くせでね」
そう言ってレンジは頭を掻いた。
※※※
その後、6腕のヘカトンケイルを倒したこと、12体も足すということがどういうことなのかを聞いた。
「しかし、それで神殺し(下級神)?解せないな。しかも上位種へ昇華してないんだろ?」
とガイアは何か考えるようにつぶやいた。ミオも同じく納得がいかないようでうねりを上げている。
「あ、来た。予想より早ないな」
そうするとガイアが急にそう言い何もない空間を見つめる。
すると、視線の先の草原の空間の一部に亀裂が入る。
その亀裂はどんどん広がり、やがてガラスの用に割れてしまう。
そこから2つの影が飛び込んできて自分位抱き着く。
「ダーリン!」
「お父さん!」
「あ、ミレイ。アヤカ」
そこには転移の際にはぐれた二人の姿があった。




