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殉職

続きです

20180421:誤字修正

20180831:誤字修正

 



 自分は高阪 蓮二(こうさか れんじ)

 もうベテランと呼ばれるまでになったSPである。

 誕生日が過ぎて年も57となり、肉体的限界を感じることが多くなり、そろそろ引退を考えているほどだ。

 今日の任務は妹の夫である現内閣総理大臣の警護だ。


「義兄さん、おはようございます」


「おはよう。今日は国際連合の会議だな」


 今は第3次世界大戦の最中。

 日本は絶対中立の名のもと話し合いによる解決を模索していた。

 そして終戦まであと一歩のところまでこぎつけたのだ。

 義兄としてもかなり鼻が高い。

 また彼のそばにいる事で学ぶことも多く、また命の危険も多く、体には多くの傷ができていた。

 もっとも、この傷は名誉の負傷のためあまり消したくはないが・・・今はもういない妻が見たらどういうだろうな?


「義兄さん、綾香(あやか)さんは元気ですか?・・・その先日はすみません。命日だったのに」


 先日は自分の嫁である美鈴(みれい)の命日だった。

 その日はちょうど仕事が入っていたが義弟が口利きをしてくれて休みをもらい彼女の墓参りに娘の綾香と二人で行った。


「ああ、構わないよ。その代わり僕に休暇を与えるよう口利きしてくれたようで」


 自分がそういうと、義弟は驚いた後に少しうつむき、申し訳なさそうに言葉を発した。


「そのくらい当然です。・・・あのことは悔やみきれませんから」


 あのこと・・・それは今から17年前。

 自分の妻と妹はテロ組織によって人質に取られ、妻は妹をかばって死んでしまったのだ。

 自分は・・・その時海外で義弟の警護に当たっていたため駆けつけることはできなかった。


「あの時の義兄さんは本当に怖かった」


 義弟はその時の自分を思い出し、自分の体を抱きしめた。


「そんなにかい?」


 自分の顔はかなり優しくSPには全く向いてないとはよく言われる。

 だがその代わり持っている資格(ライセンス)はかなり多い。

 こう見えて結構万能なSPだったりする。


「・・・だって義兄さん。あのテロ組織の国、1週間で潰してきたじゃないですか」


「あちゃ~、知ってたか。ばれないようにやったつもりだったんだけどな」


 そう。ミレイの死を知り、怒りで全身の血が沸騰しそうなくらい怒り狂った自分は自分の持てる技能とコネクションを使ってテロリストを暴き、全員を自分の考えうる中でも最悪の殺し方をした。なりふり構わず、そして口止めも大してしなかったことから一部の大物に目をつけられるようになってしまった。

 それこそ、あまり目立たない自分を知っているようなものには自分の行ったことの内容すべてが伝わり、日本の・・・というか自分の存在によってかなり好意的なってくれたことにより、この第3次世界大戦収束へ加速できたといえる。


「頑張って調べました・・・」


「・・・また君に貸りができた気がするよ」


 義弟が頑張ってということは彼の使えるコネと技術で探れる範囲の情報統制はすんでいるということだろう。


「私は義兄さんに多くのことをすでに教えてもらって、すでに多くの借りがありますからね。それに命も何回も助けてもらいましたし・・・。それに娘さんのいるあなたが死んでは彼女が・・・」


「まあね。でも、もう娘の大きくなって、成人も迎えて。けど、少し遅い反抗期に入ちゃって・・・少しさびしくもあるんだよ。まあ、大人になったと思えばいいのかな?」


 先の話があまり続けたくないことを察したのか義弟は話題を変えてくれた。

 話題が変わったことにより、表情の軽くなった自分の言葉に義弟は驚きの声を上げた。


「え?」


「うん?どうかした?」


 義弟のあまりの驚きように自分の顔に何かあるのかと心配になるが特に何もない。


「え、あ、いや。反抗期ってどんなですか?」


「お父さん、勝手に洗濯するな。とか、私の口付けた箸をお父さんに洗われるのマジ勘弁とか」


 かなり・・・この言葉はきつい・・・。

 まあ、この程度はならまだいい方だと前に同じSP仲間で娘を持つ奴と話した時に聞いた。

 軽いみたいだけど心に効くんだよな・・・。


「・・・はは」


「でも最近、やたらといろいろ失くすんだよね。下着とか箸とか。だから最近、箸は割り箸使ってるんだよ。こりゃあ、もう年だなって思うことも多くなってね」


「そ、そうですか・・・」


「君の娘や息子も反抗期に入ったらわかるよ」


 蓮二は優しい目を向ける。


「うーん、うれしいような寂しいような不思議な気分ですね」


 義弟がそういって笑うと外で何かが光った。


 ――――ボカン!


 そう言って笑っていると車の前方で大きな爆発音がする。


「どうした!?」


 急ブレーキをかけ、車体を横にした後輩SPはすぐに現状を蓮二に伝える。


「正体不明の武装集団がいます。数12。バリケードを張っています!」


 それを聞くなり自分は胸ポケットから2つのグローブをつける。


「車を止めて完全防御仕様展開・・・」


 自分はネクタイを緩め指ぬきグローブを着ける。







「俺が出る」







 俺は車から降りて、全員を見据える。


「我々は戦争収束反対派の者である。為政者の断罪に来た…ガーディアンよ素直に彼を渡したまえ」


「戦争の何がいい?悲しむ人が多いあんなものはいらん。運動会でもすればいいと俺は思う」


「ばかばかしい。そんな世界あってたまるか!」


 そう言って武装集団は銃弾を放つ。

 俺はフォルスターから銃を抜き、一発だけ放つ。

 放った球は一発の銃弾を絣だん弾道を変え、ほかの玉を弾く。

 それを繰り返し、俺に当たるはずだった銃弾は全弾、軌道を外した。


「まだだ!」


「いや、おわりだ」


 そう言って俺はもう一丁の銃を取り出し両手に持った銃で全12発を打ち出す。


「な!?」


 狙いは銃口。

 12人も持つ小型小銃は12丁全てがバラバラになり無残にも地面の広がる。


「さて、おとなしくつかまってもらおうか?」


「ふん。馬鹿め、そんなわけにいくか」


 そう言って全員が今度はナイフを取り出し俺を囲む。


「うおーーー!」


 そう言ってかかってくる敵全員を殴って蹴って無力化していく。


「かくなるうえは・・・」


 そう言ってかろうじて意識を残しておいた全員が口の中に指を入れ、何かを押した。

 すると、全員が一瞬苦しみ。その目からは光を失っていた。


「・・・毒か。よほどの忠義心か。恐怖ゆえか」


 そう言って俺はネクタイを締め直しグローブを外す。

 この瞬間は荒々しい性格から落ち着いた性格へと戻る。ゆえに油断ができてしまった。

 また、蓮二も年を取りすぎ、耄碌した動体視力では気づけなかった。



 ―――――バンッ!


 背後から銃撃の音がしてそちらにふりかえる。

 その男の手には拳銃が握られており、自分の胸に手を当てると手は簡単に真っ赤に染まった。


「東方の鬼神打ち取ったり...任務終了」


 銃を撃った男はそのまま息絶えた。


「義兄さん!」


 背後から車のドアを開ける音がして、誰かが走ってくるがわかる。・・・この声は義弟か?


「総理、こういう時は触らないで上げてください」


「ああ・・・あ、きゅ、救急車!」


 もう呼びました。俺の弟子のSPの一人がそういう。

 慌てる義弟の肩に触れ、自分は最後の言葉を伝える。


「義弟よ・・・娘を、妹を頼む。俺はそろそろ妻の所へ向かおうと思う」


「義兄さん!」


「・・・娘に済まないと。妹には俺の部屋にあるアルバムを開けてくれと言ってくれ」


「アルバムですね。わかりました」


「・・・義弟よ。お前があいつと結婚してくれて俺はここから嬉しく思う。そして俺は君の真っ直ぐな精神が好きだ。やるといったことをやり遂げるところを尊敬している。決して振り返るな。行け!」


 そして最後に、自分は最後の力を振り絞って握り拳を作り、それを後輩SPの方にさしだして彼らに言う。


「お前らも、俺の変わりにこいつを守ってくれよ」


 最後にちゃんと笑えただろうか?・・・鬼みたいな形相の弟子が涙を浮かべているのがとてもおかしく思える。・・・泣くなよ。鬼の目にも涙か?くだらなすぎて笑っちまうよ。

 彼は最後に心の中でそうつぶやき、四肢が動かなくなってゆくのを感じる。


 冷たくなってゆく彼を見下ろす義弟は涙をぬぐい、車へと乗り込む。その直前彼は義兄にこう宣言した。


「義兄さん。私はやり遂げます。あなたとの約束を」


 彼は車に乗り、空港へと向かう。

 自分はかすみだした視界をゆっくり閉じながらその光景を目に目に焼き付けるのであった。



 ※※※


 ニュース速報です。

 本日、国際連合の会議へと向かう総理大臣へ襲撃がありSP1名が死亡しました。


「・・・え?」


 彼女の電話が鳴る。その電話番号の登録名は『おじさん』となっていた。





不定期更新なので、続きはブックマークと評価のポイント数にかかってます。

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