狂気の刃~8
ここが、ある意味本編です
俺が宇津木達の元へ戻ると、フリーズから復帰した宇津木達に質問攻めにされた。
「小川くん!何よあれ!目覚めたの!?未知なる力なのね!でもやり過ぎよ!」
「あぁ~・・・まあ、凄い通り過ごしてヤベェな小川くん」
「ふぇ・・・こ、恐いです・・・」
宇津木には鼻息荒くヤバイ認定され、山下さんには飽きれ半分にヤバイ認定。
小西さんに至っては恐がられる始末。
もぉ良いよ、判ってたよ。
こうなるって。
その場でドカリと座り込み、一息入れる。
正直、疲れがヤバイ。
『異能の極地』は威力は半端なく高いが、体力を消費する様で。
この場で倒れこみたい、横になりたい。
だが、そうは言ってられない。
まだ元の世界に戻ってないんだ。
気力を振り絞り、ステータスウィンドウを開く。
『ルークの撃破を確認。
プレーヤー 小川匠夢のレベルが8に上がりました』
ルーク?あの人形の事か?
人形にも種類があるのか・・・
と、記録をさっと読み終え。
俺は早速、帰還を選択する。
『プレーヤー 小川匠夢が帰還を選択されました。
保護された他プレーヤー。山下智一。宇津木愛美。小西美江を帰還させます
5分お待ちください』
「・・・ふぅ」
漸く安心だ。
これで何もしなくても皆で帰れる・・・。
「ねぇ・・・小川くん、大丈夫?結構しんどそうだけど」
「・・・あぁ大丈夫。それより帰れるぞ。あと5分程でな」
「本当!?でも何で小川くんが分かるのよ?」
「まあ、良いじゃないか。帰れるんだと言ってるんだから」
宇津木が喧しく聴いてくるが、それを山下さんがたしなめる。
流石年上だ。
この時、俺は油断していた。
終わったと思っていた。
安心していたんだ。
何処から血飛沫が上がる。
それは、物陰に潜んでいた。
首から夥しい鮮血を撒き散らし、小西さんが倒れる。
気付かなかった。
小西さんが刺されるまで。
俺は気付かなかったんだ。
「・・・や、山下・・・くん・・・」
「小西!?小西!!」
「いやぁ!どうして!」
倒れる小西さんを抱き締め、支える山下さん。
必死に小西さんの傷口を手で抑えるが、傷が深い。
溢れる血は止まらない。
「ひ・・・ひひっ!やっと・・・やっと隙を見せた!!やっと隙を見せた!!ひひっ!ひひひ!」
誰だ・・・こいつは?
俺は知らな・・・!?コイツは!
俺は知っている。知っていた。
こいつは、あの時。
俺が初めて公園で転移した時。
不良に絡まれていたサラリーマンだ!!
どうしてコイツが居る?
いや、どうして、どうやって生きていた!?
俺が思考を巡らせていると。
奴は口を開いた。
「君の事だ。きっと、どうして私が居るのか?どうやって生きていたのか?と考えているんだろう?
大丈夫、答えてあげるよ。
私はね?この世界に来て。
初めて満たされたんだ。人を殺してもバレない。人を殺しても構わない世界に!
君はきっと見付けたんだろ?バラバラにされた死体を。あれは私だよ。
あの時、公園で私に絡んできた不良をこの世界で見付けた時に・・・ムラムラしてしまってね?思わず殺してしまったんだ。
その時、レベルって物が上がってね?
隠密ってスキルを得たのだよ。
便利なスキルだよ、これは」
なんて奴だ。
狂ってやがる・・・
コイツはずっと隠れて見てたんだ。
俺達の事を、そして最大戦力の俺が疲労して動けなくなる瞬間を狙ってたんだ。
殺す為に、己の欲望を満たす為に!
「こっ・・・クズがぁ!!」
怒りに任せて立ち上がる。
が、力が入らない。
思わずよろけるが、気力で踏ん張る。
「おっと!まだ動けるか?でもキツイだろ?
それともそれも演技で本当は動けるとか?
恐いよ恐いよ~恐いから私は隠れさせて貰うよ」
スキルが発動したのだろう。
姿が段々と薄れて行く。
数秒後には、奴の姿と気配は完璧に消えていた。
「その子は後でゆっくり楽しませて貰うよ・・・後でね・・・ひひひ!」
クソッタレがぁ!!まんまとしてやられた!
思わず地面を殴り付ける。
ガツンッ!と鈍い痛みが拳に広がる。
「小西!小川くん!頼む!小西を!小西を!」
そうだった。先ずは小西さんを助けるのが先決だ!
俺はステータスウィンドウを開き、『治癒』スキルを会得する。
直ぐ様、小西さんに駆け寄るが・・・
小西さんは、既に亡くなっていた。
悲しそうな、瞳を山下さんに向けたまま。
彼女の灯火は消えていた。
俺が手を出さない事に疑問を抱いた山下さんが、泣きそうな顔で振り向く。
「お・・・小川・・・くん?
どうして・・・何もしないんだい・・・はは・・・小西は・・・小西はまだ・・・まだ・・・うああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「そんな・・・美江ちゃん・・・」
既に小西さんが亡くなっている事を悟ったのだろう。
山下さんが小西さんを強く抱き締め。
まるで消え入りそうな声で泣き叫ぶ。
俺は、俺達はこの世界から帰還される瞬間まで。
動けなかった。
山下さんの叫び声だけが、この色褪せた世界に哀しく響いた。
『プレーヤー 小川匠夢がスキル「憤怒」を会得しました。
このスキルは持ち主が死亡しない限り消失しません』
2章がこれにて終了となります。
これまでお付き合い頂き、ありがとうございました。




