私は典型的なA型である
突然ではあるが、先に言っておく。
私は元来血液型で人格を決めつける様な男ではない。
人それぞれ十人十色、様々な色が混ざり合い、多種多様の思考や感覚が存在している事を重々承知しているし、それを肯定も否定もしない。気に入った奴がいればそいつと馴れ合えばいいし、気に入らない奴とは関わらなければいいだけの話である。ではなぜこんな話をしているのかと言うとだ。それはある女との出会いにより私の人生は狂いも狂い、手のひらで踊らされてはあれよあれよと祭り状態。経緯を話せば少し長くなるのだが、しばしお付き合い頂こう。これは私の物語で、特に興味の無い者は堂々と去ればいい。なにせ見ず知らずの人間の話なんて見るに堪えないだろう。これから綴私のくだらないサクセス青春スぺクタル大冒険活劇に少しでも興味があるのならどうぞその貴重な時間を無駄に過ごして頂こう。
第一話 「私は典型的なA型である。」
私は今日も深夜のオフィスで箒を片手にせっせと掃除をしていた。見たところそんなに埃やゴミは溜まっている様には見えないのだが、どうにも気に入らないらしい。しかしながら、そんな事を思いながらも真面目に隅々を箒で掃いている様はなんて几帳面なんだと我ながら優越に浸っていた。これが終われば次は窓際の観葉植物に水をやり、晴れて任務完了となる。ちなみに私はこのオフィスで働いている人間などではない。清掃業者などでもない。私とは全くの無縁なオフィスなのである。そもそも私はオフィスなどで働くタイプの人間ではない為、オフィスと呼ばれる存在そのものに入り浸る事自体がおかしいのだ。
ではなぜ私がこんなところでこんなことをしているのかと言うと、それは奥の机でカタカタとキーボードを打ってデスクトップのパーソナルコンピューターとにらめっこをしている彼女のせいである。
彼女との出逢いは遡る事10年ほど前だろうか。
当時フリーターとして幾つものアルバイトを掛け持ちしていた私はとある飲食店で彼女と出会った。さばさばして非常にドライかつクールな彼女に私は人見知り気質が相成って「あぁ、苦手だこの人。」と、一線置いて関わっていたのだが、ある日歳が同じ事を知り、会話をするようになった。当時彼女は学生で自由奔放、明明赫赫、天真爛漫、自画自讃。そんな性格が人と少し変わって見えていたので、私も苦手意識から興味へと移り、少しずつであるが彼女を紐解く様に接していった。
たまたまお互い共通の趣味を持っていたので、割と打ち解け合うまでに時間は掛からなかったのだが、やはりどこか変わっているのか、人と違うそのオーラに翻弄され、「やられてしまう」と負けず嫌いな私だから死物狂いで彼女を徹底的に倒す算段をつけていた。倒すという表現が間違っている事は理解しているが、倒すという言葉以外にしっくりくるものが無い。勝手な一人戦である。私はどうにも勝手な思考が暴走する癖がある。というよりまず、何かを考えると、早々に結論を出してしまう。結論を求めてしまうが故に自分勝手な判断で行動を起こしてしまう。例えば「あの人は私の事が嫌いだから」などと考えると、出来るだけ関わらない様に、相手の目につかない様にと身勝手な結論を実行する。今となってはそんなことは無いのだが、当時の私は何事も決めつけて行動する嫌なタイプの人間であった。結論は私にとっての答えでありプロセスにはさほど興味がなく[私=結論]を本能として本能のままに生活していた。過去を振り返ると取り返しのつかない阿呆な事が多々あるのだが、後悔していても仕方がない。ソレも経験だと言い聞かせて今を生きている。反省もしている。
話を戻そう。
私は彼女を観察する事にした。結果報告は以下の通りである。
その1[はっきりしている]
彼女は非常に分かりやすく至極単純な人種であった。興味のあることには関してはこちらが飽きるまで話を続ける。その反面興味の無い事に関しては全くと言っていいほどに無関心だった。
その2[センスの塊]
とにかくいきなり突拍子もないことを言い出すのだが、それがなんとも的を射ていて、みなが感心してしまうほどのセンスの持ち主であった。決められたルールやしきたりに乗っかる事もなく年齢も立場も関係ない彼女のスタンスには憧れさえ抱いていた。
その3[話が分からない]
興味のあることには意気揚々と傍若無人に話続ける彼女だが、話がどんどんと飛躍しているのか、我々を置いてきぼりにしては、話終えると非常に満足げに一人だけスッキリしていることが多い。多いと言うよりはほぼ必ずである。
その4[異常なまでに友人が多い]
「昨日誰々とさー」なんて話の誰々が毎日違う名前で、つらつらとぺらぺらと楽しそうに話す様はいたいけな少女の様だった。私もなんとかソコに入れぬモノかと思う毎日であった。
とまぁ、ざっとこんなものにしておこう。
要するにだ。常にゴーイングマイウェイである彼女の不思議な魅力に引き込まれながらも、私は負けじと私なりのゴーイングマイウェイを突き進むべく、なるべく目立たぬ様に悟られぬ様に進むべき道を進むのであった。
得てして、彼女の性格を理解した上で私はとある作戦を実行に移す。
「昨日何してたの?」
そんなことを聞かれようものなら、私は「どこどこに行ってさ、何々をしてさ、アレコレ食べてさ、」と必要以上の言葉を並べて「で?」と興味が湧いたであろうその顔を確認するや否や私は一気に攻め込むのだ。「でさ、たまたま通りかかったんだけど、凄い景色のいい場所を見つけてさ。もしよかったら今度一緒に行くかい?」
もうこっちのものである。
「え!行きたい!」そう言う彼女に私は微笑を浮かべながら追撃を打つ。「じゃあいつにしようか?」ここで決めておかなければないがしろになって終わってしまう事は明白である。なにせ気分屋の彼女だから、こちらのペースに乗せようモノなら話はしっかりと決めておかなければならない。私の早々に結論を求めるスタイルは彼女を手中に納めるにはもってこいだったのだ。
そんなこともあって、二人でよく出かける様になったのだが、やはり一風変わった彼女であった。デートというモノは1日単位で行動を共にする行為だと認識していたのだが彼女の場合そうではなかった。二人で待ち合わせてどこかへ出かけ、時間もいい頃合いになったら「この後どうする?」なんてお決まりな台詞もなんのその。「今から友達と逢うんだ」なんて軽々しく口にするものだから、男としてはたまったもんじゃない。よもや自尊心というものが砕け散り、私は男としてのプライドに傷をつけられていた。そう、彼女はこれがデートなどとは微塵にも思っていなかったのだ。
こんな事を理解するまでに数か月を要した私は愚か者である。
この数か月、私は白衣を羽織っては彼女を研究していた。断わっておくが実際に白衣を羽織っていた訳では無い。あくまでも比喩である。まぁそんな話はどうでもいい。そんな私にある日とんでもない研究材料が舞い込んだ。彼女との何気ない会話の中にとあるワードが飛び交ったのだ。
「私B型だからさ」
まさに世紀の大発見である。血液型など気にしていなかった私だからこそ、突き止めるべきはコレしかないと、その日の内に本屋へと走り、血液型に関する本をしらみ潰しに購入し、未だ見ぬ[B型]の世界へと足を踏み入れたのだ。
後にこの行動が
私の今後の行く先をガラッと変え、
波乱万丈、曲折してしまうことになるとは、
この時の私はまだ知る由もない。
続く