中学の思い出 (4)
私は、情けないことに、二年生には、喧嘩を売れなかったんですよ。
中一の頃は、年功序列、終身雇用の時代で、戦前の厳しい上下関係がまだ残っていたんです。
ダルマは、先輩の命令で、私の膝の上に座っただけなのに。
私は部室のコンクリートの上で正座している時に、達磨に膝の上に座られて、キレたのですが、先輩達に気後れしてしまいました。みっともないことに、達磨に怒った振りをしたんですよ。そしたら、ラッキーなことに、達磨が逃げてくれました。後は、私が追いかけるだけ。
その当時は、戦前の感覚がまだ残っていた、というのもありましたけれども、Sさんとのことがねえ。Sさんは、剣道部の一年先輩です。もちろん、男です。剣道部には男しかいませんでした。
Sさんとの関係は、百パーセント、私が悪いです。
小五になりたての頃、Sという生意気な四年生がいたんですよ。
ある時、水飲み場に行ったら、Sがいたので、ちょうど良い機会だから、軽く〆たんですよ。それが、Sさんとの出会いでした。
言ってることわかります?
生意気だと思っていた四年生のSには、六年生のお兄さんがいて、それを知らなかった私は、お兄さんの方をやっちゃったんですよ。
ウルトラ馬鹿ですよね。
兄弟だから似ているので仕方がない?
馬鹿過ぎ!
ますよね。弟も兄も、どちらも私よりも大分小さくて、気付かなかったです。もちろん、簡単に武力行使が出来ました。
漫画のような話ですが、本当なんです。
その後もSさんに会いましたが、渋い顔をされるだけで、何も言われなくて。
まあ、下級生に〆られたなんて言えないですよね。
私も馬鹿過ぎて誰にも言えないのですが。黒歴史って、こういうものを指すのでしょうね。
それをいいことに、私は一度も謝罪したことがないんです。百パーセント私が悪いですよね。
そして中学で剣道部に入ったら、というよりも、本当は、Sさんがいることを知っていたのに、剣道部に入ったのです。ナメ過ぎですよね。
剣道部に入ってからも、Sさんには嫌な顔されるだけで、何も言われなかったです。一回だけ、後ろから跳び膝蹴りを背中に喰らって、反射的にSさんをぶん殴ってしまったことがあったんですけど。前から来てくれれば、跳び膝蹴りくらいなら喰らってもどうってことないから、
そのまま
だったんですけど。後ろから隙をつかれたので、反射的な攻撃を止められなかったんです。殴ってからSさんだと気付いて。
「そんなんじゃあ、高校行ったら通用しないぞ」
と、わけのわからないことを言いながら、Sさんは逃げていきました。
高校行ったら、Sさんは本人のお言葉通り
通用した
ようで、暴走族に入って頭角を現し、その武勇伝が当時進学校にいた私の耳まで届いてきました。
校長室にバイクで突っ込んで退学になった
とか。今聞くと漫画みたいですよね。それから十年後くらいに漫画で描かれた世界を、我々の頃は
現実
にやっていたんですよ。
高二の時だったかな、駅に行ったら、人の流れが明らかに不自然なことがあったんですよ。
避けて通っているというか、遠巻きにしているというか。
停車しているでかいバイクから、皆逃げていました。
バイクに乗って、ヤバいオーラを出しまくっているのが、Sさんでした。
とうとう六年越しの復讐の時が来たか
と、私は思いましたね。今度は私がやられる番です。
その頃の不良って、駅には来ないんですよ。学校行ってないから。
私も高二の六月に、高校に行く途中で、中学の後輩とすれ違って、驚かれたことがあります。
「○○さん、まだ学校通ってたんですか!」
一応、県内一の名門校に通っていたんですけど。