また朝鮮人かよ! (3)
第十話で書いた
Hを案内したスーパーが、
解体されてしまいました。
『チ○ン』に初遭遇したデパートと、
知らない女から話し掛けられた本屋は、
とっくの昔に駐車場になっており、
残っているのは、
本屋の隣の時計店だけです。
でも、
生き残っているのは、
建物だけで、
もちろん、
営業は、
していません。
私は、
妻のマンションに向かう時には、
この時計店の前を、
必ず通るんですよ。
さて、
その時計店ですが。
その『時計店の娘』に、
文化祭へ来る様に言われました。
この時代は、
商売をしていた人は、
お店で、
家族と一緒に生活していたんですよ。
その隣の本屋は、
教科書を扱っていた
地元の人なら、
誰でも行く大型店だったのです。
その本屋で、
知らない女が話し掛けて来たのは、
そこで、
網を張っていたからのようです。
そして、
文化祭の当日。
その『時計店の娘』と待ち合わせをしたのは、
国鉄の駅でした。
この時代には、
国鉄が後に、
JRになるなんて、
夢にも思わなかったですね。
その頃の私は、
駅なんて、行った事が無かったです。
たぶん、
中学生になって、
初めてじゃないですかね?
中学三年間で、
一度も電車に乗っていなかったですから。
その駅は、
欅並木が有って、
『原宿駅に似ている』という理由で、
雑誌にも取り上げられていました。
地元にも、
こんな所が在るんだ!
と、
私は、
最高の気分で。
そこの噴水の前で、
待ち合わせをしました。
これは、
某タレントの初デートと、
全く同じです。
私の方が、
五年くらい古いですが。
今は、もう、
その『原宿駅に似ている』駅舎も
噴水さえも、
残っていません。
その噴水の前に、
制服を着た『時計店の娘』が、現れ、
二人で、
I中へ向かいました。
I中へは、
歩いて五分も、かからなかったと思います。
そのI中に到着して驚かされたのは、
教室に、
ピンボールとか、
今だったら、
レトロなゲーム機と呼ばれる代物が、
展示されていた事です。
インベーダーゲームが登場する
三年くらい前の話ですからね。
ゲーセンとか、
当然無いので、
まだ、
ピンボールが、
現役で活躍していたんですよ。
「何故?
こんな物が?」
私が聞くと、
「家から持って来た」
このI中の学区は、
街中だったんですよ。
当時は、
『時計店の娘』自身も、そうですが、
繁華街に、
人が住んでいたので。
この直後くらいからじゃないですかね?
街中に店だけ残して、
郊外に住居を建てる様になったのは。
彼女のクラスへ向かうと、
廊下の両サイドに、
女子が、
ズラッと並んでいました。
皆、
ニヤニヤしながら、
好奇の目で、
私を見ています。
その女子生徒達の並木道を、
まるで結婚式の様に、
二人で、
歩かされました。
その女の集団から、
「手を繋げ!」
とか、
ヤジが飛んで来ました。
もちろん、
私は、
それには従わなかったのですが、
この当時は、
戦後の平和教育の時代で、
感覚は、
戦前みたいなものでしたからね。
女の子は、
もうちょっとは、おしとやかだと、
勘違いしていた私は、
下品なヤジには、
驚きました。
そこを通り抜けて、
しばらく、
ふらふらと、
宛もなく、
彷徨っていると、
私の靴を持って、
廊下を走って来る
一人の女子生徒が、
見えました。